「時速30kmで走らせても楽しい」「5m走っただけでわかる」。これらは一部の欧州の、多くはラテンのクルマに与えられる褒め言葉だ。
だけど『86』には、これがあてはまると思う。スポーツカーなら限界で楽しめとか、走らせるところがないとか言われそうだが、そんなことはない。86は乗った瞬間から体温が上がる。低めのシート。さし色に赤が入れられたハンドル。そして肩を抱くように支えてくれるシートバック。もうこれだけでかなりヤバいのだ。
ATだというのに、まるでMTのような形状をしたシフトレバーも粋である。ビジュアルってやっぱり大事よね。
ボディのガチッとした感じや、一体となって加速していく感じも高揚するが、私のハートに刺さるのは、リミテッドにつけられたブレーキのハイミューパッドである。ちょんと足を乗せただけでその感覚が足の裏に伝わってくる。ブレーキはスイッチじゃなく、足の指でミリ単位で操作するものだと教わった遠い昔の記憶が鮮明に蘇る。ブレーキダストが出てメンテナンスしにくかろうという理由で、リミテッドにしか装着されていないけれど、このブレーキ感だけでも買いの価値ありだと思う。86にスポーツの心拍数上昇を感じたいなら、ぜひこちらを選びたい。
渋滞がどうとか、坂道発進が苦手とか、いろいろ文句や言い分もありましょうが、乗るならMT。ココロ踊る一台は、人生の価値観を変えてくれる。
■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★★
岩貞るみこ|モータージャーナリスト/エッセイスト
女性誌や一般誌を中心に活動。イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。主にコンパクトカーを中心に精力的に取材中するほか、最近はノンフィクション作家として子供たちに命の尊さを伝える活動を行っている。JAF理事。チャイルドシート指導員。国土交通省 安全基準検討会検討員他、委員を兼任。