【スズキ アルトエコ 登場】縮小されたタンク容量は実用上気になるか?

試乗記 国産車
スズキ・アルトエコ(東京オートサロン12)
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JC08モード燃費リッター30.2kmというエコ性能を達成したスズキの第3のエコカー『アルトエコ』。

市街地テストドライブでの燃費がリッター26.7kmと、オンロードでのエコぶりも十分以上に高い。が、それと引き換えに犠牲になった部分もいくつかある。そのひとつが燃料タンクの容量の小ささ。アルトエコのタンクには、20リットルしかガソリンが入らないのだ。

モード燃費の審査は路上走行ではなく、ローラーの上で静止状態で行われる。もちろんローラーを空回りさせるだけでは燃費がわからないので、クルマの重量によってローラーにどれくらいの負荷をかけるかが決められる。もちろん負荷が小さいほうが燃費には断然有利なのだが、その車重には幅があり、たとえば車両重量600kgまでは680kgぶんの、同740kgまでは800kgぶんの、同855kgまでは910kgぶんの…というふうに区分がある。

ノーマルのアルトの燃料、潤滑油込みの重量はCVTモデルで760kg。これではローラーの負荷が910kgになってしまう。対して、第3のエコカーとして初めてJC08モード燃費リッター30kmをうたって派手にデビューしたライバル、ダイハツ『ミライース』は730kgで1クラス下。CVTモデルにアイドルストップを実装したうえでカタログ燃費でミライースを上回るためには、車重を740kgに収めることが絶対条件だった。

「現行の7代目アルトがデビューしたのは2009年末。実は開発の段階では、まだJC08モードの重量の区分がどうなるかハッキリ決まっていませんでした。お客様の軽セダンの使い方を考えると、それほど多くの燃料が入らなくても十分実用になるだろうと考え、このような仕様にしました」(スズキのエンジニア)

クルマの軽量化は車体エンジニアの誰もが血眼になって取り組む永遠の命題のひとつである。が、その資質は開発段階でほとんど決まってしまう。一般ユーザーにとっては「10kgの米袋たった2つぶん」程度のイメージだが、アイドルストップ機構追加分を相殺してなお20kgの重量削減を行うのは、相当に困難な作業なのだ。

「ボディではエンジンルームまわりの構造を新設計して軽量化。後席のシートバックフレームを金属板からワイヤーに変更し、トランク内の床材も木質から樹脂製の軽いものに換えました。さらにシートのウレタンについても、体をしっかり支える性能を確保しながら密度を落とした軽量新素材を化学メーカーと共同開発しました」(前出のエンジニア)

しかし、これらの努力だけではマイナス20kgは達成できず、最終的には燃料搭載量を減らすことで重量目標を達成せざるを得なかった。「燃料タンクの形状はノーマルアルトの容量30リットルと同じで、ガソリンを20リットル以上入らないよう内部に細工を施しただけ」(前出のエンジニア)であるという。

本来ならユーザーには実利的メリットが何一つないタンク容量削減をどう考えるかは、燃費性能自体にはほとんど文句のつけようのないアルトエコを実際にマイカーに選ぶかどうかのポイントのひとつになるだろう。

試乗時のフィーリングから類推すると、信号の少ない地方道では、運転の上手いドライバーならリッター25~30km、初心者で20km程度か。タンク容量の小ささもそれほど気にならないだろう。15リットル消費時に燃料残量警告灯が点くとすると、航続距離は後者の場合でも300km程度は期待できるという計算になる。そのときのガソリン代はリッター140円の場合で2000円強。エコ派はちょっと得意げな気分に浸れるかも。

一方、法人営業車両のように都市部での走行がメインで、かつエコドライブより時間の正確さに意識が行くような使用パターンでは、タンク容量は心もとなく感じられるかもしれない。また、一般の使用でも頻々と警告灯が点くというのは心理的には嫌な感じだろう。アルトエコのバリューはまさに用途と走行環境次第と言える。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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