【トップインタビュー】富士重工業・吉永泰之社長…スバルは異端で輝く

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富士重工業 吉永泰之社長
  • 富士重工業 吉永泰之社長
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  • レガシィ アイサイト(写真はアウトバック3.6R)
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  • インプレッサ(米国仕様)
  • インプレッサ(米国仕様)

リーマンショック後も米国でシェアを伸ばし、2011年3月期に過去最高の連結純利益を達成した前任の森郁夫会長から6月にバトンを受けた、富士重工業・吉永泰之社長。

就任と同時に5か年の中期経営計画に着手し、期間中には米国に次ぐ海外生産拠点として中国での合弁生産に踏み出す。10年内に年100万台超の世界販売を目指すという長期目標も掲げた。

ただし、これは市場並みに成長を持続させるという数字。むしろ、規模の追求よりも個性や差別化を重視した「ニッチプレーヤー」として戦っていく「大本の思想は変えない」と強調する。

《インタビュア:池原照雄》

●世界シェア1%を維持

--- 15年度までの中期計画「Motion-V」は世界販売90万台、営業利益1200億円と10年度比でそれぞれ4割程度伸ばす意欲的な計画です。

吉永 発表の時も申し上げたのですが、単なる拡大計画でなく、世界の新車需要が昨年の7000万台規模から、やがて9千数百万台あるいは1億台に伸びていくなかで、現状の1%程度のシェアを確保していくということ。結果として90万台から100万台の数字になるので、いたずらに規模の拡大を狙っていくというわけではありません。全世界的に見れば自動車はまだまだ成長産業なので、そのなかで相応のポジションを得ていきたい。

市場が大きくなるのは新興国であり、とくに新興国のなかで伸びも絶対値も大きいのは中国なわけですから、そういう文脈のなかで、いよいよ現地生産を始めるという方針です。

--- 中国で販売を3倍に拡大させるという計画ですね。

吉永 ええ、10年度の6万台から(最終年度には)18万台に伸ばす計画です。一方で全世界でのシェア1%というのは変わらない。どちらかというとニッチプレーヤーとして、やはり個性とか差別化を大事にしてやっていきたいと考えており、これも従来と全く変わりません。

では、個性や差別化をどこで打ち出していくかというと、クルマの「安心と楽しさ」をキーワードとします。「安心と楽しさ」はごく当たり前のことですが、企業にはそれぞれがもっている文化とかDNAがあります。スバルの場合、前身が飛行機会社で今も飛行機を造っています。そういう経緯からも車体の剛性が高いのが特徴で、安全性につながっており、米国などでも高い評価をいただいている。

最近では国内での「EyeSight」(アイサイト=バージョン2)の実用化もそうですが、根源的なところでの安全、安心が第一にあります。楽しさの方は、水平対向エンジンなどによるスバルの走りの良さであり、このふたつをコアの特徴にし、ニッチャーとしてお客様にとって価値のある差別化を図っていきたいと考えています。

--- 交渉中の中国での合弁プロジェクトは、年内には基本的な合意はできるのでしょうか。

吉永 相手様のあることなので私どもから断定的には言えませんが、年内にはあるメドを得たいなとは考えています。

--- 中期計画では中国生産などによる為替対応力の強化を掲げ、海外生産比率は現状の25%から40%レベルに引き上げる方針です。足元の円高は深刻であり、さらに海外比率を引き上げるということも検討するのでしょうか。

吉永 中期計画を発表して1か月半ですが、これだけ状況が変わってくるので、ある意味恐いなと思っています。しかし、今現在では中期計画の考え方を変えようということは全くありません。経済のファンダメンタルズとは違うところで動いている。これで日本の製造業が一斉に海外生産を増やすということになれば、日本国にとってよろしくない。(政府や金融当局など)各界がしっかりしないと、どうしようもないことになる。

当社の場合、海外工場は米国だけですから、そう簡単に海外比率を高めるというわけにもいきません。もちろん、原価低減などの取り組みは強化・継続します。ただ、今の円高はそうした企業努力で吸収できる範囲を超えているのも事実です。

●アイサイトは今秋の新型にも搭載

--- 国内営業本部長時代の昨年5月に売り出したアイサイトは、安全技術として『レガシィ』の顧客層を広めることにもつながりました。オプション価格も10万円と思い切った戦略でした。

吉永 当時の国内営業本部のスタッフとともに取り組んで、マーケティングの面白さを改めて痛快に感じました。営業の世界では競合が厳しくなると値引きということになるのですが、あれくらいのクルマになると5万円や10万円値引きしても、そう台数が出るわけではありません。そこで、われわれはアイサイトバージョン2をレガシィに投入するタイミングで違うアプローチに出た。

「ぶつからないクルマ」というCMも良かったし、1円も儲からない原価である10万円という価格も思い切りました。その結果、セールスの人たちも積極的に試乗会を行い、「バンパー交換1回分の値段なので絶対お得です」とアピールしてくれました。当初は装着率3割くらいだろうということでスタートしたのですが、最近では75%くらいになっている。購入いただいたお客様からも喜んでいただいているのが一番嬉しいですね。

--- アイサイトは今後、多くの車種に展開する方針ですが、今年秋の新モデルにも搭載されますか。

吉永 秋に発売するクルマ(=新型『インプレッサ』)には搭載します。

--- トヨタ自動車との共同開発スポーツカー『BRZ』はいかがですか。

吉永 それは……。雑誌などで色々取り沙汰されているようですからノーコメントにしておきましょう(笑)。

--- 中期計画達成に向けた新モデルはインプレッサをはじめ、まず海外で発売のクロスオーバー『XV』、トヨタと共同開発の『BRZ』、さらに13年に発売予定の水平対向ハイブリッド車(HV)と続きます。

吉永 計画達成への一番のキモはやはり商品です。例えばHVは水平対向エンジンであり、スバルがHVを出すという意味を十分感じ取っていただけるクルマにします。お客様が求めるワクワクするHVにしたいですね。また、トヨタさんとの共同開発車のBRZは、そんなに台数が出るクルマではありませんが、むちゃくちゃ面白いクルマですから、当社にとっても意味があります。

BRZは、カー雑誌にもすごく取り上げていただいている。ある雑誌なんか、毎号のように表紙を飾っています。有難いことですが、結局、クルマのことで盛り上がる話題がかつてに比べて少ないということなんですね。楽しいクルマが減ってしまった。話題が続くように盛り上げていきたいですね。

--- 中期計画の発表時には14年に「ジャストサイズの新しいクルマ」を投入するとも表明された。これは独自開発ですね。

吉永 そうです。レガシィやインプレッサは上級シフトで世界的にヒットしました。一方で、地域によっては多少の歪が出ているのも事実です。次の手というのは、レガシィなどのヒットによる原資を元にして日本やヨーロッパで求められるジャストサイズのクルマを投入したいということです。

ただ、具体的な企画はこれからという段階です。今のような円高が続くと将来の商品計画にも影響が出てきますから、(円高などの課題を克服して)今は早く商品化を実現できるステップに進みたいと思っています。

●トヨタになるな、とトヨタ

--- トヨタとの提携は米国工場の受託生産から始まり、短期間で質・量とも成果が上がっています。その前の提携先とは格段に違います。なぜ、うまく行っているのでしょう。

吉永 今の状態についてはトヨタさんにすごく感謝しています。私は06年から戦略本部長として提携の窓口でもあったのですが、豊田章一郎さん(当時名誉会長)には、当社を歴史と伝統のある会社と、非常にリスペクトしていただいた。大変有難いことです。ビジネスではまず米国工場で『カムリ』を短期間に立ち上げることができ、当社の仕事を信頼していただくことができた。

水平対向エンジンを使って共同開発をしようというのも、今までの提携では全くなかったことです。スバルのエンジンが異端なのだから、これまでの提携先はオーソドックスなわれわれに合わせなさいという姿勢が当たり前でした。水平対向でスポーツカーを造れば面白いクルマになるということは分かっていても、私どもだけでやっても事業性はない。そこを一緒にやらせていただくことで、スバルとしてある程度事業性が確保できるし、トヨタさんにとっても楽しいクルマを送り出すことができる。

トヨタの方は、「スバルは儲けるのは下手だ」などと率直です。同時に「だけどスバルさんは面白いクルマを造る」とも言われます。当時の渡辺捷昭社長からは、「当社の原価低減は参考にしてください。だけどトヨタにはならないでください」とも言われました。われわれの個性や独自性を生かしながら、トヨタさんのプラスにもなるなら、これほどいい関係はありません。

吉永泰之(よしなが・やすゆき)
1977年成蹊大経済学部卒、同年富士重工業入社。最初の配属は三鷹製作所で部品供給業務を担当した。販売会社でセールスに従事した後、国内営業部門に。99年国内営業本部営業企画部長などを経て2003年に戦略本部副本部長兼経営企画部長に就任。05年執行役員。06年からは執行役員戦略本部長としてトヨタとの提携案件を取りまとめた。07年常務執行役員スバル国内営業本部長、09年取締役専務執行役員同本部長。11年6月現職に就任。森会長の吉永評は「大局観のある戦略を打ち出し、結果重視の実行力を備える」。若いころの読書から見出した「莫妄想」(まくもうそう=妄想することなかれ)を「飾らず常に平常心でいること」と解釈し、「生き方の背骨」としている。東京都出身、57歳。

インタビュア:池原照雄(いけはら・てるお)
1977年北九州市立大卒。日刊自動車新聞、産經新聞などで自動車、エネルギー、金融、官庁などを担当。00年からフリー。著書に『トヨタVS.ホンダ』(日刊工業新聞社)、『図解雑学 自動車業界のしくみ』(ナツメ社)。山口県出身。

《池原照雄》

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