アイシンAWとして初のコンシューマー向けブランドとして「ドライブレイン(dribrain)」を立ち上げ、その第一弾として2011年1月にサービスを開始したのがiPhone向けカーナビアプリの「ナビエリート(NAVIelite)」だ。これまではサプライヤーに徹してきたアイシンAWがこのタイミングでドライブレインを立ち上げ、スマートフォン向けナビアプリ提供をスタートしたのはなぜか。ナビ事業本部製品統括部でナビエリート主担当の牛田孝一氏に話を聞く。
◆コンシューマー向けサービスの立ち上げのため新ブランドを立ち上げ
----:アイシンAWというとトランスミッションとカーナビのトヨタ系列サプライヤーという印象がありますが、今回ナビエリートでtoCのビジネスをスタートさせたのはどのようなきっかけがあったのでしょう。
牛田:当社はカーメーカーやカーナビメーカーにアプリケーション機器を納品させていただくOEMビジネスが中心で、これまで個人のお客様を持っていませんでした。そこでカーナビアプリとしてコンシューマー向けサービスの提供を始めるにあたって、「ドライブレイン(dribrain)」という新ブランドを立ち上げて訴求していこうという話になりました。ブランド名称の由来は、「ドライブ(drive)」と「頭脳(brain)」を掛け合わせたものです。
----:ナビエリートは、ドライブレインの一商品という扱いなのですね。
牛田:現状ではナビエリートとその簡易版の「ナビエリート・ミニ」以外に製品はありませんが、当然このアプリだけで終わりではありません。今後もドライブレインの製品・サービスは継続して出していきたいと考えています。
◆AV一体機に迫る「本格ナビ」を志向
----:スマートフォン向けのナビアプリは日本でもすでに数社が参入しています。ナビエリートを投入するにあたり、どのような差別化を考えていたのでしょうか。
牛田:現状、ナビアプリの多くは自動車関連以外の分野から参入されたプレイヤーが出しています。それらのアプリは、車載のカーナビというよりも携帯電話ナビアプリの延長線上といえる機能とUIをもつものが大部分ですから、われわれとしてはAV一体機に迫る「本格ナビ」を志向していきたいと考えていました。
----:確かに、ナビエリートを最初に見たときはトヨタの純正ナビをそのままスマートフォンに移植した、という印象がありました。
牛田:iPhoneアプリとして開発する際に、他社のアプリを参考に使ってみたのですが、それらを見て開発するとどうしても似たようなものになってしまうという恐れがありました。そこで考え方を改めて「クルマの中でナビを使うのならば、当然車載のUIが実際の運転する際は一番使いやすいはず」と考えました。
----:スマートフォンで課題となっている自社位置精度についてはどの程度まで追い込んだのでしょうか。
牛田:ハードウェアは他社のナビアプリとイコールコンディションなのですから、アルゴリズムで他社の一歩先を行っていなければと感じています。これまではジャイロや加速度などのセンサーを引き出すことに注力してきましたが、ナビエリートの開発を通じてGPSやマップマッチングのチューニングで精度を上げるポテンシャルを感じたのも確かです。
◆ローカル地図とオンデマンドVICSでレスポンスと利便性を確保
----:全体のUIはトヨタの車載ナビそのままなのですが、見せ方を変えることもできますね。
牛田:メニュースキンは設定で7種類から選ぶことができます。その場合、現在地ボタンを横に表示したり、地図表示時は隠れるようにするなどの変更も可能です。いずれのメニューでも、地図の画面を広く大きく見せるようにしています。また、ローカルに地図を収めていますので、スクロールや遷移も高速レスポンスを実現しています。
----:ローカルに地図を収めることにしたのはなぜですか。
牛田:通信で地図を出しているアプリの場合、電波の状況によって地図データを表示できないケースもあります。ナビエリートでは、どんな状況下でも安心して使ってもらいたいと考えていますのでローカル収録としました。またオンデマンドVICSにも標準対応しています。通信機能を持つ端末ですから、その利点は渋滞情報で一番活かせるだろう、と。
----:地図のローカル収録とVICS対応は直接コストに響いてくるものと思いますが、この2つを敢えて標準で取り入れた理由は。
牛田:機能面でも性能面でも一級のナビアプリとしてのポジションを目指すというポリシーですので、低価格路線でばらまくのではなく、ある程度の価格を設定させていただいて、短期間で様々な機能を追加したりUIをリファインしていくことを考えています。それでもPNDやAVNと比べれば価格的には圧倒的に安いのですが。高度なナビ機能は必要ない、という方にはVICSや市街図の表示、交差点名称の読み上げ機能などを省略し、その代わり価格を引き下げた「ナビエリート・ミニ」をご用意しています。
◆スマートフォンで先行し車載事業にフィードバック
----:ナビアプリで付加価値勝負をする、と。
牛田:クルマを所有しないユーザーが増え、ナビを実際に使う機会も少なくなっています。しかしカーシェアリングなども急速に普及しつつあり、クルマを運転する機会は決して減っていません。たとえレンタカーでも「安くて機能はそこそこ」ではなく、しっかりした基本性能を持つ本格的なナビゲーションを使いたいという方はいるはずで、クルマの本格ナビはこんなに使えて高機能なんだよ、ということをナビエリートで伝えたいと思いました。そしてゆくゆくは当社の車載機に移行していただく…というのが理想です。
----:これまでのOEMナビと、スマートフォンアプリとでは開発のスピード感が大きく異なるというのが想像できるのですが、開発チームに戸惑いはありませんでしたか。
牛田:車載は1年サイクルで開発を行いますが、スマートフォンの世界ではいかに新しい機能を盛り込みバグフィックスに対応するか、という週単位・日単位の世界です。開発陣は「スマートフォンだからこそ新しい付加価値やサービスをタイムリーに提供できる」と考えて精力的に取り組んでいます。スマートフォンで先行して取り組んだ試みは車載事業にフィードバックできるものもあるはずです。
----:スマートフォンに最適化したUIと車載のUIでは異なる部分もあると思うのですが。
牛田:当初はiPhoneのマルチタッチ操作、例えばピンチ操作による地図の拡縮はクルマの中では使いづらいと考えて採用していなかったのです。実装できなかったというよりも、機能追加の優先順位を考えたときに、ピンチの地図拡縮は後回してでもいいんじゃないかな、と思い後ろに回してしまったのです。フタを開けてみるとユーザーから対応を望む声が多く、機能を追加したということもあります。
◆最新バージョンではURLスキーマに対応、CPとの連携も視野に
----:6月のアップデートはリリースから数えて5回目のバージョンアップになります。月1回ペースでのリリースは当初から決まっていたことなのでしょうか。
牛田:公式アナウンスとしては、全国一般地図が年6回、全国詳細地図は年2回の更新としているのですが、アプリのリリース以来重要道路の開通が相継いでいて、そういうハイペースになっています。とはいえ地図を簡単にすばやく最新にできる、というのはナビのユーザーにとっては重要なところですから、ナビエリートの価値として強調したいですね。
----:最新のバージョン1.7ではどのような機能が新たに追加されたのでしょうか。
牛田:6月に実施したアップデートでは道路地図の更新に加えて、URLスキーマへの対応とリルートの精度改善、音声案内の改良などもおこなっています。URLスキーマはiPhoneのアプリ間で連携を取れる機能です。POIのデータベースを持っているコンテンツホルダー/プロバイダーと連携して地点情報を受け取りナビエリートで地図を表示したり案内させる、といった利用例を想定しています。
----:まだまだナビエリートは進化していくと考えて良さそうですね。
牛田:1月にリリースして以来、6月にはバージョン1.7まできましたから、バージョン2に向けて大ネタを仕込んでいるところです(笑)。ナビ先行開発のストックから新しい機能をナビエリートのユーザーに提案しつつ、ユーザーの意見にも耳を傾けていきたいと考えています。
《聞き手 三浦和也》