【カロッツェリア サイバーナビ AVIC-VH09CS】「10年に一度の変革を目指す」…インタビュー前編

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企画開発全般を統括したパイオニア カー市販事業部 マルチメディア事業企画部 枝久保隆之氏
  • 企画開発全般を統括したパイオニア カー市販事業部 マルチメディア事業企画部 枝久保隆之氏
  • ソフトウェアを担当した島村哲郎氏(パイオニア カー市販事業部 マルチメディア事業企画部)
  • ハードウェアを担当した佐藤智彦氏(パイオニア カー市販事業部 マルチメディア事業企画部)
  • カロッツェリア サイバーナビ AVIC-VH09CS ARスカウターモード。前車を認識すると「ロックオン」がアニメーションで表示される
  • カロッツェリア サイバーナビ AVIC-VH09CS 10mスケールの詳細市街図の表示まで可能
  • カロッツェリア サイバーナビ AVIC-VH09CS 目的地検索メニュー。オーディオソース選択メニューへは左のボタンで遷移できる
  • カロッツェリア サイバーナビ AVIC-VH09CS マルチ検索の入力画面
  • カロッツェリア サイバーナビ AVIC-VH09CS

2011年夏、カロッツェリアのハイエンドカーナビ『サイバーナビ』が大きく生まれ変わった。企画を統括したパイオニア カー市販事業部 マルチメディア事業企画部 枝久保隆之氏、ソフトウェアを担当した島村哲郎氏、ハードウェアを担当した佐藤智彦氏の3氏に話を聞いた。

◆10年に一度の変革を目指す

枝久保:カロッツェリアでは10年ごとに大きな変革を行ってきた実績があります。1990年には市販初のGPSナビゲーションをこの世に送り出し、2001年にはHDD搭載モデルを発表してカーナビのストレージを大きく変えました。今年はそれから10年が経ち、開発チームとしては「世の中を動かす、何か大きなものを作ろう」という意気込みで企画に当たりました。

----:開発はいつぐらいから始まったのですか。

枝久保:実は2008年ぐらいから開発をスタートさせています。今回採用した新機能の要素技術はそれ以前から展示会などで参考出品などしていたものもあるのですが、技術の進化や信頼性、コストなどの兼ね合いで実際の商品として投じることができたのがこのタイミング、ということです。

----:以前からあった技術を小出しに採用するのでなく、このタイミングで一気に採用してきましたね。ここ数年、パイオニアという会社は経営的に苦しい状況にあって、ゆえに「目立った新技術の採用ができない」と世間の人は思っていたように感じるのですが、そうではなく「要素技術が実際に使えるタイミングを図っていた」ということですか。

枝久保:2007年にサイバーナビのプロジェクトを前任から引き継ぎましたが、要素技術を投じて商品として形にできるようになったのは今年ですし、「10年に一度」のタイミングにあわせてハード面を進化させていくという構想は以前からありました。

----:前回のフルモデルチェンジの目玉は「スマートループ」で、通信機能を除けばどちらかといえばソフトウェア側に重きを置いていたように思えます。今回のサイバーナビはハードウェア側の進化を強く感じますが、開発の軸をハードウェア側へ向けた理由はなんでしょうか。

枝久保:今のパイオニアは車載器事業が主体になっていて、社内の様々な部署からの支援を得られます。早い段階から社内的には「フラッグシップモデルにふさわしいモノを作ろう」という目標がありました。AR機能がフィーチャーされる今回のモデルですが、実はオーディオ面の進化も大きく、企画段階からハイエンドカーオーディオ「カロッツェリアx」の技術者も入り、音質の向上に取り組みました。こうした協力を得られるようになり、ハード/ソフト両面で大きな進化を遂げることができました。

◆より幅広い層の顧客獲得のため、価格帯を引き下げ

----:これだけ力の入ったモデルでありながら、価格はだいぶ安くなりましたね。30万円を切る価格でサイバーが手に入るなんて良い時代になったものです(笑)。

枝久保:以前のサイバーといえば非常に高額な印象を持たれていた方が多いように思われますが、今回のモデルはより幅広い層のお客様に使ってもらいたいと考え、コスト努力で原価を低減し価格レンジを下げています。出だしの売れ筋はARスカウターユニットや通信モジュールを同梱の「AVIC-VH09CS」「ZH09CS」ですが、これらを含まずに別売としたベーシックなモデルも用意しています。

----:佐藤さんはハードウェアを担当されたとのことですが、ハードウェア担当として「やりたかった」ということは実現できたのでしょうか?

佐藤:カメラを使ったソリューションというものを提供できたことは大きいですね。従来のカーナビにはない機能を盛り込むことができ、可能性が大きく広がりました。

----:これまでの「カメラ付き」といえば、それは後方確認用のカメラを意味していましたからね。同梱するフロント用のカメラはハードウェア的にバックカメラとは異なるのでしょうか。

佐藤:単に記録するだけでなく画像認識にも用いるので、それに最適化させるチューニングを施しています。画角やレンズなど構造自体も専用に設計・開発しており、バックカメラとは完全に別物です。

----:カメラが今後のキーデバイスになっていくのでしょうか?

佐藤:スバルさんが『レガシィ』などに採用されている「アイサイト」をはじめとして、カメラを使った安全機能があり、一方ではスマートフォンで「セカイカメラ」に代表されるAR(拡張現実)機能も話題を呼んでいます。こうした事例は参考にはしていますが、当社としては市販カーナビメーカーとして自動車メーカーやスマートフォンとどのように異なるアプローチができるかを考えました。

枝久保:サイバーナビはアフターマーケットの商品なのでクルマ自体の制御までは難しいですし、「安全」という領域には深く踏み込めない。ARスカウターでは運転者に対して車間距離とか、信号表示の変化などを喚起し、運転者をアシストしドライブをより楽しいものにするというエンターテインメント的な要素を加えています。

◆カメラの利用でカーナビの可能性が広がった

----:これまでのカーナビの進化といえば、例えば画面が大きくキレイであるとか、ルート探索が速いとか、大容量メディア採用とか、最近はそこに通信も加わってサイバーナビが先頭に立ってフラッグシップたる要素を作り出していましたが、こうしたスペック至上主義からそこにカメラが加わったことでちょっと方向転換をして新たな進化の段階に入ったという印象です。

佐藤:カメラを搭載したことでARスカウターモードで実写映像にルート重ねたり、適切な車間距離(70km/hで40m)の喚起ができるようになり、特に後者は「これから起きそうな渋滞の発生を抑制できる」という社会的な意義もあります。また、信号の変化や前方車の発進も検知して案内につなげ、スムーズな発進をアシストします。

----:ソフトウェア担当としては「カメラを付けたのでこういう開発をして欲しい」という依頼があったのでしょうか。それとも積極的に「こういう機能をつけられる」と積極的に提案したのでしょうか。

島村:ナビゲーションにとってはカメラがあることで可能性は大きく広がります。やりたいことはいろいろとありますが、開発チームとの足並みを揃えながら、かつタイムリーに市場に導入し、お客様にとっての価値を最大にすることが大切だと考えています。

----:2008年から現モデルの開発を進めたとおっしゃっていましたが、「カメラを搭載する」と決めたのはいつぐらいなのですか?

枝久保:いろいろな要素技術を検討する中で2009年の早い段階では「カメラを搭載し、それを利用した機能を提供する」という流れになっていました。

----:ということは、開発の始めのころから「カメラありき」で進んでいたというわけですか。ARという言葉すらまだ一般的ではなかった頃から。

枝久保:2007年のCEATECで、実写映像にルートを重ねる「リアルビューナビ」というものを参考出品しているのです。つまりその頃から「カメラを使って…」というアイディアがあったことは確かです。2006年のCEATECでも、ペンギンのような形状をした車載ロボットに搭載したカメラが信号を検知して、信号が変わるとドライバーに知らせるという機能を展示していました。ですが、今回のサイバーナビでは、さらに車間や車線の検知とか、ルートを引くとか、実写映像にコンビニなどチェーン店のイラストを重ねるとか、当時よりも遙かに高機能化しています。《後編に続く》

《聞き手 三浦和也》

《石田真一》

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