仕様によって走り味がここまで違うクルマも珍しい。3種類あるエンジンは、いちばんバランスがとれていた1.3リットルに比べると、1リットルはアイドリング時には3気筒特有の振動が伝わり、走行中は力不足ゆえに回し気味になるので音が気になる。一方「RS」に積まれる1.5リットルは、たしかに1.3リットルより力強いが、RSを名乗るのだからサウンド面などの演出が欲しかった。
足回りは、ベーシックな「F」と女性仕様車「ジュエラ」については、街中での快適性を重視した設定。速度を上げるとステアリングの遊びが大きくなり、姿勢変化が大きめに出るなど、走りの楽しさとは無縁の性格の持ち主だった。対照的なのがUで、固めではあるがフラットな乗り心地、正確なステアリングと落ち着いたロードホールディングなど、ヨーロッパのライバルに肩を並べる実力の持ち主。RSも似たような性格で、エンジン同様スパイス不足を感じた。
新型ヴィッツはアイドリングストップが進化したことも特徴。ただし装備されるのは1.3リットルのFだけなので、選びたくても選べない人が多いだろう。グレードによる走りの性格が大きく異なることを含めて、「これが新しいヴィッツだ」という明確なメッセージを感じにくいクルマだった。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★
森口将之|モータージャーナリスト
試乗会以外でヨーロッパに足を運ぶことも多く、自動車以外を含めた欧州の交通事情にも精通している。雑誌、インターネット、ラジオなどさまざまなメディアで活動中。著書に『クルマ社会のリ・デザイン』(共著)、『パリ流 環境社会への挑戦』など。