オフィシャルフォト撮影でも、大統領を迎えても |
フィアットおよびクライスラーグループCEOを務めるセルジオ・マルキオンネのトレードマークといえば、黒もしくは濃紺のセーターである。両社が提供する本人のオフィシャルフォトでも、セーターを着用している。
ベルルスコーニ伊首相との面会時はもちろん、2010年6月には、あのオバマ米大統領がクライスラー工場を訪れた際も、セーター姿で出迎えた。
そのマルキオンネ氏のプライベートについては、スイス・ジュネーブにある自宅生活も含め、ほとんど報じられることはない。だが米『ウォールトスリート・ジャーナル』紙は先ごろ、「彼がいつでも着用できるよう用意しているセーターの数は30枚にのぼる」と報じた。さらに「購入はネット通販で、一度に10枚ずつ入手している」とも記している。
マルキオンネ氏のセーターに関しては08年3月、唯一記者団の質問に応じたものがある。そのとき彼は「けっしてパフォーマンスではなく、自分自身が楽だから」と答えたうえで、「ネクタイを締めて窮屈そうな他人を見ると、どうして我慢すればいいのか悩んでしまう」とも答えている。
根っからの財務マンである彼が、日々の服装についても徹底した合理化を図っていることがわかる。478万ユーロ(約54億円)という10年度の年俸からは考えられない、簡略ファッション主義だ。同じフィアットで、今もたびたびイタリアの女性週刊誌を飾るルカ・ディ・モンテゼーモロ前会長(現・取締役)のスタイリッシュさと実に対照的である。
だが瀕死のフィアットを復活させ、一旦破算したクライスラーの再生にも手を差し伸べたマルキオンネのセーター姿を止められる者は、もはや地球上にいないだろう。
注意すべきは、彼のセーター姿が目立ち始めたのは、03年5月に取締役としてスカウトされたときではなく、04年6月にフィアットの代表取締役に就任してからということだ。誰からも服装について咎められる可能性がなくなってからといえる。
もっとも日本の自動車業界で就活する学生が安易に「マルキオンネ・ルック」を真似るのは、リスクが伴いそうである。
大矢アキオの欧州通信『ヴェローチェ!』 |