「成功した初代のモデルチェンジは難しい」という自動車業界の教訓を、2代目『ヴィッツ』は見事にクリアした。「2代目で身上をつぶす」という世間の教えをクリアすることが、新型ヴィッツに課せられた使命だ…としたら、さぁ、どうだろう?
世間で一躍トレンドになったアイドルストップは、よく出来ている。再始動が早いし(ブレーキから足を離して0.35秒)、VSCとセットだから上り坂で停車後、『インサイト』や『CR-Z』のように再始動のタイムラグで後ずさりしてしまう心配がない。アイドルストップする勾配は8度までと、『マーチ』より大きいのもVSCがあるおかげだ。
アイドルストップが1.3リットルのUでしか選べないのは、それが最量販グレードだから。トレンドを思えば全車に装備しても不思議はないが、70年代にトヨタが日産やホンダよりFF車で出遅れた故事を引くまでもなく、ユーザーが違和感を持つかもしれない新機構の採用に慎重になるのはトヨタの伝統である。
山本博文チーフエンジニアは「最量販のUでアイドルストップの市民権を得たい」と控えめに語っていた。日産やマツダと違い、アイドルストップ中にステアリングを動かしても再始動しないのは「そのときの操舵力が重いから」。それほど違和感に配慮するのは、トヨタならではだろう。
乗り味を概括すれば、このクラスの国産車では『スイフト』が抜きん出ていて、新型ヴィッツは第2グループという印象。でもそれは先代も同じだった。心配なのはむしろデザインだ。
ボディ肩口の力強さ、四輪が踏ん張る安定感などは、初代から受け継ぐヴィッツの美点。しかし先代=2代目は、例えばボンネットからバンパーへ縦にラインをつなげるなどで、他社にはない新しい個性を主張していた。そこから一転、水平基調になった新型のフロントマスクは、より男性的で力強い反面、特徴的とは言いがたい。
プジョー『207』やフォード『フィエスタ』といった欧州のライバルがアグレッシブなデザインを推進していることを見れば、先代の柔和な表情のスタイルでは物足りなかったのだろう。それはわかるが、トレンドを追いかけても個性は出ない。もう一歩、先に進まないと…。
結局のところ、デザインもアイドルストップも同じ。『プリウス』が時代の先端を走る一方で、ヴィッツの位置づけが先代までとは変わってきたのだ。トレンドには乗るが、行き過ぎない。そういう「程よくコンサバ」な消費者がどれだけいるかが、新型ヴィッツの勝敗を分けるのだろうと思う。
パッケージング:★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★
フットワーク:★★★
オススメ度:★★★
千葉匠|デザインジャーナリスト/AJAJ理事
デザインの視点でクルマを斬るジャーナリスト。1954年生まれ。千葉大学工業意匠学科卒業。商用車のデザイナー、カーデザイン専門誌の編集次長を経て88年末よりフリー。「千葉匠」はペンネームで、本名は有元正存(ありもと・まさつぐ)。日本自動車ジャーナリスト協会=AJAJ会員。日本ファッション協会主催のオートカラーアウォードでは11年前から審査委員長を務めている。