盲導犬の逸失利益を初認定、高額賠償を命じる

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視覚障害の男性を誘導中、トラックとの衝突事故で死亡した盲導犬の価値を巡り、争われてきた民事訴訟の判決が5日、名古屋地裁で開かれた。裁判所は盲導犬の社会的価値や特殊技能を認め、育成費用と使用期間から算定した294万円の支払いを被告に命じた。

この訴訟は盲導犬の育成を行い、視覚障害者に貸与する団体が原告となって起こしたもの。この団体が育成した盲導犬「サフィー」は静岡県吉田町内に在住する視覚障害者の男性に貸与されたが、2005年9月26日の午前10時ごろ、同町内の交差点で発生したトラックとの衝突事故の際、誘導していた男性と一緒にはねられた。男性は重傷、サフィーは即死した。

盲導犬の平均的な使用期間(貸与期間)は約10年だが、サフィーは約5年で死亡したため、団体は事故を起こしたトラック運転手と、この運転手を雇用する高知県内の運送会社に対し、育成費用から換算した逸失利益と慰謝料など約600万円の損害賠償を求めて名古屋地裁に提訴。被告となった運転手側は「盲導犬は歩行補助具にすぎない」として、死亡したサフィーと同じラブラドール・レトリバー種の子犬の市場調達価格(約20万円)の支払いのみを容認すると主張。真っ向から争っていた。

5日に行われた判決で、名古屋地裁の松田敦子裁判官は盲導犬の価値について「単なる犬ではなく、訓練で盲導犬としての特別な技能を付与されており、付加価値を得ていると考えられる」と認定。さらに「視覚障害者の目の代わりとなるだけではなく、精神的な支えともなっている。その価値は白杖(視覚障害者用のつえ=歩行補助具)とは明らかに異なる」として、被告が主張していた「歩行補助具にすぎない」という主張を退けた。

その上で裁判官は原告が主張する盲導犬1頭あたりの育成費用453万円を認定。平均的な使用期間10年も認め、すでに5年間活躍してきたサフィーが死亡しなければ活躍できた期間の逸失利益を約230万円と算定した。

さらにサフィーが5年間の活躍で獲得した技術については、その価値を30万円と認定。盲導犬に関しては約260万円の損害と最終的に認定し、これに訴訟費用を上乗せした約294万円の支払いを被告側に命じた。

一方、サフィーの貸与を受けていた男性への慰謝料(サフィーを失ったことに対する精神的な慰謝料)については、事故による負傷で生じた慰謝料がすでに支払われていることから、請求を棄却している。

盲導犬の価値を認定する判決は今回が初めて。

《石田真一》

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