1 | あるのは謎のテリヤキ |
2006年2月の冬季五輪以降、日本ではトリノの名を聞かなくなって久しい。しかし実際には、フィアットの歴史的工場を再開発した「リンゴット」地区周辺が着々と面白みを増している、というのが今回の話である。
リンゴットは1922年に完成した、当時欧州屈指の自動車工場だった。屋上に1.168kmの周回テストコースを備える、建築的にも極めてユニークなものだった。工場は、戦前戦後の傑作大衆車『トポリーノ』をはじめ、さまざまなモデルを送り出したのち、1982年にその使命を終えた。
以後、建築家レンツォ・ピアノの監修で、工場棟をそのまま活かした壮大なリニューアル工事が進められた。まずはオフィスが完成してコカコーラやIBMのイタリア法人などが入居し、一角にはトリノ工科大学の自動車学科も入った。
そして2003年に、シネコンプレックスも備えたショッピングモールも内部にオープンした。池袋西武もアッと驚く、全長500mの細長い商店街である。
リンゴットはフィアットが経営危機に瀕したのをきっかけに、歴史的本社棟を除いて大部分が不動産会社に売却された。だが一般人にとってそれより残念だったのは、食に関して今ひとつ精彩に欠けていたことだ。
あるのは、高速道路のSAを中心に展開しているセルフ式リストランテ「アウトグリル」と、「テリヤキ・エクスペリエンス」なるオリエンタル食堂、そしていくつかの小さな店だけだった。ちなみに「テリヤキ〜」は、「メイドイン・ジャパン」と看板に謳っているものの北米系のチェーンで、日本語が通じないアジア系の店員さんばかりである。