事故を忘れさせないための慰謝料分割払い、東京地裁が容認

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1999年11月、泥酔状態で運転を続けていた大型トラックに追突され、車両火災で2人の娘を失った両親が、現在服役中の元トラック運転手の男と、事故を起こしたトラックの所有者である運送会社を相手取って総額3億5600万円の損害賠償を求めて起した民事訴訟の判決が24日、東京地裁で行われた。

裁判長は総額2億4900万円の部分についての支払いを両者に命じるとともに、原告から要望されていた慰謝料の分割払いについても容認している。

この事故は1999年11月28日、東名高速道路で発生した。渋滞中の車列に後方から走ってきた泥酔運転の大型トラックが激突。直後に発生した車両火災によって脱出できなくなった2人の幼児が焼死したというもの。事故を起こした運転手への懲罰期間が殺人などに比べて短かったことから、後に危険運転罪制定へと世論を走らせる発端ともなった重大な事故だ。

遺族は事故を起こしたトラック運転手と、トラック(車体)を所有する運送会社に対して総額3億5600万円あまりの慰謝料請求を行っていた。事故の内容については双方が容認しているため紛争には発展していない。

慰謝料について遺族は「2人が就労して得たと仮定する部分(逸失利益)の約8200万円は(事故で無くなった姉妹が生存していたものと仮定し、就労可能となる)18歳から、結婚して退職する32歳までの15年間、毎年11月28日(命日)に分割して支払え」と求めた。

これに被告側は「日本では禁止されている懲罰的な賠償要求だ」と反発、意見が対立。過去にこうした懲罰的ともいえる分割納付が認められていないため、この部分が最大の争点となった。

24日の判決で東京地裁の河辺義典裁判長は、「幼い姉妹が目の前で、しかも炎に取り巻かれて“熱いよ”と悲鳴を上げながら焼死する様を目の当たりにするなど、原告らの痛恨の思いは想像を絶する」と指摘した。

その上で「本件事故は危険運転致死傷罪が新設される契機となった極めて痛ましい事故で、原告らの憤りや無念さも十分に考慮されなければならない、原告の要求は可能な限り受け入れるべきだ」として、裁判所が認定した2億4900万円あまりの慰謝料について、原告から希望された分割納付を容認した。

分割納付は裁判確定後に一時金として8000万円を支払い、2人の子供が生存していたと仮定した場合の18歳から32歳までの15年間(長女は平成27年から41年、次女は同29年から43年)の命日に1人あたり270万円を、そして33回忌を迎える15年目に残りの8000万円を支払うというプロセスで行われる。

また、被告側は裁判中に「分割納付の場合、逸失利益に適用される法定利息の控除が行われず、結果的に一括納付よりも受け取る金額が大きくなる」と主張していたが、これについて裁判長は分割納付か一括納付かの選択権はあくまでも原告側にあり、被告はこれに対して異議を唱えることができないと結論づけた。

裁判長は「現在のような低金利の場合、一括納付の場合に裁判所が逸失利益部分に適用する5%の法定利息控除はその額が大きすぎ、実勢利率との解離が生じている。分割納付ではこのような問題が発生することはなく、定期金と一時金とは法的に等価値と評価され、その選択を原告に委ねても不合理とは言えない」と述べている。

これによって今後同様の納付方法を巡る裁判が提起された場合、被告側が一括納付を求めて争うことが事実上困難になり、多くの点で画期的な判断となった。

《石田真一》

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