世界規模の自動車メーカーになるというBMWの夢の残りは、年産100万台の新型『ミニ』だけだ。BMWはミニをオックスフォードシャーのコウリー工場で生産する。この工場はローバーからBMWにとどまる。現在コウリー工場では『75』を生産しているが、BMWはMGCCに供給を続けたい考えだ。MGCCのほうでもMGのスポーツサルーンとして販売を続けると思われる。
状況がわかりにくい? いや、あなただけでなく誰もがそう思っている。ただ今回の売却劇で、BMWが6年間にローバーの価値をいかに下げたかはハッキリした。実際BMWはローバーの売却先を見つけることはできなかった。それどころか、誇り高いドイツ車メーカーは、どんなにコストがかかろうとも汚れた手を洗いたがっている姿をあらわにしてしまった。
そしてそのコストは金額的なものだけではない。BMWの評判は次の2点で大きく損なわれた。まず第一に、誰もBMWは間違ったことをするとは思っていなかったのに、実際にはローバーの問題を解決するための経営力、あるいは技術力が不足していたということ。
第ニに、売却案が表ざたになる数日前、BMWはあつかましいことに労働組合や政府に対してローバー新型車の開発計画や精算設備投資を発表していたのだ。
トニー・ブレア首相はBMWに対し“激怒”し、売却の禁止も考慮していると伝えられるが、別の政府筋によると、ローバーの将来計画について「嘘」をついた責任でBMW首脳陣を追求するつもりだと、さらに厳しい見方をしている。
いっぽうBMWは、イギリス政府にたいしポンド高抑制策を“依頼”したのに断わられたと弁明する。このため赤字が必要以上にふくらんだという。さらにロングブリッジ工場での新型車開発に対する、イギリス政府からの1億5000万ポンド(約240億円)の補助金支払いが遅れたことも経営悪化の原因にしている。ただし業界筋の大部分は、イギリス政府はEUの意向に従わざるを得なかったのでBMWが望むようなローバー援助策はとれなかったと見ている。
実際はどうであれ、かつて栄華を誇ったイギリス自動車産業界にとって厳しい時代になったということだ。