編集部 最近の日産の新型車を見ると、アジアを含む日本、ヨーロッパ、そして北米と、地域別のデザインアイデンティティができつつあるように思えます。また中村さんは就任以来、デザイン開発体制の国際的な再構築を当面の課題としてあげてきました。ここで、地域別デザインの最適化と企業=日産アイデンティティとは矛盾しないのですか。矛盾するとしたらどう解決するのですか。
中村 日産には幅広い製品レインジがあります。クロカンの『パトロール』からポルシェと比べられる性能のスポーツカー『GT-R』、そして家族向けの『ミニバン』までありますから、ブランドの構築は重大な課題です。しかし欧州メーカーのようなブランド戦略は考えていません。フォルクスワーゲンなどのドイツ勢、ジャガーやプジョーなどが欧州メーカーのデザイン戦略の一例です。
フミア 日産は違うのですか。
中村 アウディの『A8』と『A2』は同じデザインモチーフをもっています。
フミア ええ、“スケールダウン”ですね。
中村 しかし『プリメーラ』をはじめとする欧州日産車は、それぞれが同じデザインモチーフは持っていません。でも似てはいます。
フミア ヨーロッパでは大事な点です。
中村 我々は日産であり、自分自身の道を行きます。それはデザインの「統一」ではなく、「整合性」「調和」とも呼ぶべきものなんですね。我々は顧客を喜ばせようとして製品を作りますから、日産がBMWのようなブランド構成だと日産の顧客は絶対に喜びません。だからデザインのアイデンティティ構築にたいして我々は違った態度で臨まなければなりません。それは何かというと、“スピリット”です。
フミア なるほど。
中村 革新的で大胆なスピリット。日産デザインのアイデンティティにおいてスピリットは、クルマが同じに見えることより大切なのです。製品の精神やマインドがいっしょでも形は同じではない。それが日産デザイン・アイデンティティの基本です。したがってクルマの形がいろいろ異なることと、ブランドとは矛盾しません。
丸い『マーチ』と四角な『キューブ』を見て、ひとつのブランドに見えると言った人がいたのですが、最大の褒め言葉です。和食、中華、イタリアン、フレンチ……、同じシェフの同じレストランで出すようなものです。
フミア 難しい挑戦ですね。新しいイメージを創造するのは難しいことです。幸運をお祈りしています(笑い)。しかしこんなに多種多様な新型車が登場して私はうれしい驚きを感じています。ランチア『Y』(イプシロン)はほかとは違ったクルマだったので人気になりました。日本車もかつては似通ったクルマばかりでしたが、個性的であることを理由にクルマが売れるようになったんですね。消費者の感性がオープンになりました。
中村 だからこそデザインの改革、ブレークスルーが必要なんです。日産では3年前からそういったデザイン研究を続けています。日産だけでなくホンダなど他のメーカーにも呼び掛けています。
フミア 「ジャパニーズ・デザイン」はモダンでユニークですから、それにブランド・スピリットが加わればいいものが登場するでしょう。期待しています。
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