アジアから拡大するe-CRB
---- これは今回の取材全般で感じたのですが、e-CRBなど広汽トヨタで導入されているシステムは、「王道のトヨタ方式が21世紀風に作り直されている」という印象を受けました。

友山 そうですね。やっぱり製販一体でマネージメントするという発想が、自動車産業ではほとんどなかったので、それを作り直している点は意義深いと感じています。全体最適化、すなわちリーンを自動車ビジネスの全課程に適用していくとどうなるか、という面でも実際に大きな効果が上げられています。

---- e-CRBは自動車ビジネスをICTで変えうる力まで持ち始めているわけですが、このコンセプトは日本でG-BOOKがスタートする前から描かれていたものなのでしょうか。

友山 漠然としたイメージはありましたが、具体的なヴィジョンになったのは広州に来てからですね。そもそも、SLIMやSPMなどは(中国に)来てから追加で作ったものですし。やはり、現場を見てこそわかることがある。そのために日本のシステムエンジニアもずいぶんと中国に連れてきてしまった(笑)。

---- e-CRBやSLIMは新興市場と親和性が高いこともあって、まず"中国市場で成功させた"わけですが、今後はどうなるのでしょうか。他地域展開は考えていますか?

友山 むろん、他地域展開します。そのためにやっていますから。もちろん、その前に中国でのパッケージ展開をしなければならない。一汽トヨタやレクサスなど、他のディストリビューターでも成功させないといけませんから。

---- まずは中国で普及させる、と。

友山 そう、そして次はたぶんインド市場になるでしょう。インド市場の潜在規模は大きく、そこでトヨタの競争力を高めていく必要がありますから。そして、その次は日本です。すでに日本市場向けには「i-CROP J」というのが進められていて、もう少ししたら発表できるでしょう。しかし、日本市場は販売チャネル数が多く、歴史もある市場ですので、中国で作られたパッケージとは内容や展開方法が異なるでしょう。最後に欧米市場ですが、ここはe-TOYOTAとしては今のところ視野に入っていません。当面はアジアの最重要マーケットからというスタンスですね。

---- リーマン・ショック以降の自動車ビジネスの方向性を見るようですね(笑)。翻って広汽トヨタで見ますと、すでにe-CRBが本格稼働して1年半。世界でも最新のシステムとして稼働しているわけですが、今後はどのようにして最終形を目指すのでしょうか。

友山 まずは調達と部品の領域をSLIMにつなげたいですね。クルマの生産では約3000からある部品を調達しますので、その多くが日本から輸入している。 SLIMは生産計画の領域まで適用しているので、これをもうひとつ前段階の部品の製造や調達まで連携できるようにすれば、かなり効率があがると思います。部品調達&在庫のスリム化ですね。これはぜひやりたい。

---- 日本にある部品工場もSLIMと連携する、と。

友山 ええ、そこまでやりたい。そして、もうひとつはG-BOOKの車載通信機の活用です。納車後の品質管理をサポートして、その情報をSLIMやe-CRBと連携させていく。そうすると、仮に品質問題が発生したときでも初期段階で検知して、すぐにメーカーやディーラー全体がその状況を把握して、すばやい対応ができるようになります。これはお客様の信頼に繋がりますし、メーカーからすると対応コストの削減になります。

また、日本のテレマティクス的な用途も考えていまして、例えば「地図更新」や「渋滞情報」のニーズは中国でもありますので、これらもやりたい。また、オペレーターサービスも意外と受けているので、今後はそれらのサービスがどこまで廉価版にまで広げられるか考えなければなりませんね。

---- 本日はどうもありがとうございました。

《インタビュアー:神尾寿(通信・ITSジャーナリスト)》




友山茂樹(ともやま しげき)

1958 年生まれ。1981年群馬大学工学部卒業。1981年トヨタ自動車入社。以降、第三生産技術部、FAシステム部、生産調査部、国内企画部業務改善支援室を経て、1999年国内業務部業務改善支援室室長。2000年GAZOO事業部部長、ショッピングサイト『GAZOO』を立ち上げる。2002年e- TOYOTA部部長。トヨタの第二世代テレマティクス『G-BOOK』を立ち上げる。2003年トヨタモーターアジアパシフィック株式会社に出向。 2004年帰任しトヨタ自動車e-TOYOTA部部長に復帰。2008年1月には広州トヨタ有限公司に出向、社長補佐にあたる総経理助理の任に着きながら、e-TOYOTA部の主査、そしてGAZOOやG-BOOKを運営するトヨタメディアサービス株式会社の代表取締役社長も兼任している。
神尾寿(かみお・ひさし)

通信・ITSジャーナリスト。IT雑誌契約ライターを経て、大手携帯電話会社の業務委託でデータ通信ビジネスのコンサルティングを行う。1999年にジャーナリストとして独立。通信分野全般に通じ、移動体通信とITSを中核に通信が関わる分野全般を、インフラからハードウェア、コンテンツ、ユーザーのニーズとカルチャーまでクロスオーバーで見ている。レスポンス特約記者およびレスポンスビジネスユニットの客員研究員も努める。記事執筆先は、レスポンスのほか、朝日新聞社、日経BP社、世界文化社、徳間書店などの専門誌および一般誌。著書は『自動車ITS革命』など。その他講演多数。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
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