THS ハイブリッド開発の経験がエンジニアを育む THS ハイブリッド開発の経験がエンジニアを育む
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TECHNOLOGY
ユーザーデータから明確な進歩が見えるTHSテクノロジー < TOP  1 2 3 4  NEXT >
対談フォト01 川端 10年前までは理論でしかなかったハイブリッドですが、いままでに世界で100万台以上ものハイブリッド車がお客様の手もとに届いて街を走っています。実際、「e燃費」でプリウスユーザーのデータを集めてみたところ、同等のパワーを持つ2リットル車の平均的な燃費と比較すると、実燃費でもほぼ2倍という数値が出ています。当初、無理だと思ったような高い目標に、実燃費でも到達したことをどう思われますか?

朝倉 実際にプリウスを使っていただいた結果をこういう形で見れるのは、エンジニアとしてはとてもありがたいですね。クルマといっても、いろいろな使い方があるわけですから、一人ひとりのお客様の使い方の違いが燃費にどう反映されるのか、今後のハイブリッド開発にも非常に役立つデータです。もうひとつ嬉しいのは、初代/マイナーチェンジ、そして2代目と、モデルごとに進化しているのが実燃費でも表れていることですね。
グラフ
2006年度平均実走行燃費 
プリウス×2リットルクラス
グラフ
プリウス
エアコン使用による実走行燃費
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プリウス
大都市×地方 実走行燃費
グラフ
プリウス
最新型ほど燃費も進化
川端 季節的に見れば、特に夏のデータが面白いですね。初代プリウスでは、夏場は燃費が少し落ちています。燃費アップのためにエアコンまわりを改良したそうですが、その結果がそのままデータに反映するのを目の当たりにできるのは面白いですね。

朝倉 ご存知のとおり、10-15モードのテストをするときは、エアコンの効率は関係ありません。しかし、お客様の使われ方を考えれば、当然、エアコンをかけたときの実燃費の向上は重要なテーマでした。2代目の時にエアコンのコンプレッサーを電動駆動に変えたのですが、その効果がデータに出ているのは嬉しいですね。エアコンに限らず、今の自動車の中はカーナビやシートヒーターなど、電気エネルギーを使うものが多いですからね。ハイブリッドに限らず、オルタネーターを使った回生など、従来の自動車でも地道な努力を重ねています。

川端 ほかには、プリウスは都市部の走行で燃費性能を発揮すると思われるデータがあります。このデータを見てみると郊外に比べ都市部では特に普通のガソリン車とプリウスの燃費の差が大きいですね。

朝倉 そうですね、渋滞や信号で停まったときのエンジンストップが効果的なのでしょう。クルマは使われ方も千差万別なので都市部や郊外という地域的な問題ではなく、「ゴー&ストップがどれくらいあるか」、「車速の変化の大小がどのくらいあるか」などによって、その燃費の差が大きくなるのだと思います。

川端 もうひとつ、普通のガソリン車はお客様の使い方次第で、燃費もだいぶ変わってくるようですが、プリウスの場合は、燃費のバラつきが少ないですね。簡単にいってしまうと、どんな人でも平均的に1リットルあたり20km前後という優秀なデータが出ています。

朝倉 普通に運転すればいい燃費が出ますよ。プリウスの場合、普通に運転すれば、クルマがエンジンの燃費制御をしてくれます。流れに沿ってスムーズに運転する、それだけで燃費がよくなるはずです。

川端 私たち人間がエコドライブに頭を使わなくても、プリウスは、動力分割機構やソフトウェアが必死に頑張ってくれているということですね。普通のガソリン車なら、人間がいろいろ考えてエコドライブしなくては燃費が向上しませんよね。

朝倉 クルマが考えてエコドライブをする、それがプリウスと普通のガソリン車との一番の違いですね。

川端 今後、ハイブリッド技術は、どういう方向に進んでいきますか?

朝倉 正直にいえば、10年前、いまのハイブリッドを取り巻く状況を予想したかと聞かれたら、少なくとも私は予想できませんでした。目の前にある課題を解決することで精一杯でしたから。ただ、技術開発の過程でさまざまな技術を手がけてきた分、今後、ハイブリッドを開発する上での選択肢が増えたとは思っています。つまり、技術的な余裕ができたわけです。だから、どんな方向かと一言では言えませんが、ハイブリッド技術を通して、将来も持続可能なクルマのあり方を見い出し続けたい、そう思っています。

もうひとつ、ハイブリッドは10年の歴史があると同時に、まだ多くの可能性を秘めています。ハイブリッドシステムを手がけるエンジニアは、ベースである機械工学の上に、よりシステム的な開発経験(システム的思考)を積むことができるからです。新しいことを知り、創造することができる分野だからこそ、その可能性も拡がるのです。

ハイブリッドは、クルマの永続的な発展をもたらしながら、人(開発者)を育てる。これからエンジニアを志望する若い人たちが、真のエンジニアとして育っていく過程で、素養を深め、自らのポテンシャルを引き上げてくれる技術でもあるのです。
PROFILE
朝倉吉隆朝倉吉隆(あさくら・よしたか)

1976年トヨタ自動車工業(現 トヨタ自動車)入社。第2技術部(車両の実験部署)振動実験課に配属。89年開発企画部に異動。人馬一体のクルマの操縦性、安定性を目指した車両総合制御開発を担当したのち、第1車両技術部にて振動・乗り心地のよいシートの技術開発を手がける。95年7月EV開発部に異動し、電気自動車開発プロジェクトに参画。RAV4 EVや初代プリウスを始め、トヨタのHV(ハイブリッド)システム、ユニットの実験評価を統括。2006年11月より現職。自動車技術会 電気動力技術部門委員会 幹事を兼任
川端由美川端由美(かわばた・ゆみ)

工学系大学院で材料工学を修了。エンジニアとして研究・開発に携わったのち、自動車専門誌の編集記者を経て、現在は、フリーランスの自動車ジャーナリスト。クルマのエコロジーとテクノロジーを中心に精力的に活動している。環境分野では、エネルギー問題やバイオマスなどの技術分野に加えて、母親の視点に基づいたオーガニックなど、取材フィールドは幅広い
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