フミア デザインの話題からそれるかも知れませんが、日産と提携相手のルノーとの、デザイン・フィロソフィについての関係はどうなっているのですか。ルケモン(ルノーのデザイン担当上級副社長)と話した機会はありませんが、私はルノーのデザインを評価しています。とくに量産車よりコンセプトカーがいいですね。ルノーはフレンチであろうとしています。合理的で、数学的で、それでいながら一種独特のものをもっている。ルノーも「正しい道」を進んでいるメーカーですよ。
中村 どちらもアバンギャルドですね。ただ、お互い完全に独立した企業で、ひとつの企業の中の2つのブランドではないので、互いに干渉はしません。まずこれが戦略の基本にあります。
次にアイデンティティを2社で変える、という課題があります。ルノーはフランス文化、いっぽう日産は日本文化に立脚し、それらの文化をどのように造形したらいいのかを議論しています。アイデアをプレゼンテーションしあって、似通ったデザインにならないように注意しています。ただし人為的に、つまり変えるためだけに変えるようなことはしません。アイデンティティは自然に育てるものですから。
フミア 部品の共通化についてはいかがですか。スタイリングを変えるのは難しくなりますよね。
中村 部品の共通化は消費者の目に見えない部分です。
フミア 目に見えない部分ですか。コストとの戦いは厳しいものがあります。気を付けてください、ドイツのメーカーでは同じに見えるのに実は違うクルマを作っているところがありますからね。
文化と言えば日本はハイテクの国です。日本車デザインはハイテクを表現し、アピールすべきだと思いますよ。日本製カメラのように技術や品質にいいものがクルマにもあります。それを表現すれば日本車デザインはステップアップできるのではないでしょうか。
編集部 さきほどより何度か「日本デザイン」というのが話に出てきました。フミアさんは日本のデザインに造詣が深いし、中村さんも日本デザインの独自性を機会があるごとに主張なさっています。日本デザインがどんなものであるか、いま一度明らかにしていいだきたいのですが。
中村 一言では表せませんが……。日本文化は「ミックス」です。たとえば文字には漢字、平仮名、カタカナ、アルファベットと4種類があり、これらをまぜて使っています。このような日本文化をどのようにクルマへ移植したらいいのか。ユーザーのために配慮の行き届いたアイデアがあり、シンプルなデザイン……。
フミア クリーンで調和を求めるのが日本デザインです。異なる素材、たいていは自然素材を組み合わせているのが日本の伝統的なデザインの特徴だと思います。現代建築でもビルの装飾には「静寂」を感じますよ。こういった幾何学的なデザインが、ボクシーな自動車のデザインにつながっているのではないでしょうか。
中村 幾何学的でもエモーショナルな、ね。
フミア 退屈ではない。でも建築は幾何学的でなければならないのですから。日本デザインはエモーショナルな幾何学的デザインとでも言いましょうか。
中村 西洋の庭園は左右対称にデザインされます。日本庭園は非対称です。こんなことも東西の文化の違いの表われかも知れませんね。
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