中村 日産では新世紀のデザインの方向性について議論を続けています。まず日産には立派な歴史がありますが、レトロには向かいません。
フミア いいですね。いい傾向です。いや、私に言わせれば「傾向」ではなく、それこそが「正しい道」ですよ。チャレンジングですけどね。先ほど触れたようなダウンスケールの方が簡単ですから。ヨーロッパには伝統のあるメーカーが多いので原点に回帰したレトロルックスが増えています。これはマーケティング的に正しいのかも知れませんが、創造性では何も新しくありません。アメリカメーカーが主役のデトロイト・オートショーはやりすぎです。デザイン専門誌はそういったネガティブな点はあまり指摘しませんね。
中村 でも、フミアさんもおっしゃったように商業的には成功しているんですよ。いくらグッドデザインでも商業的に成功しなければ、デザイナーはこれが「正しい道」だとは主張できません。幸いなことに日産のデザインは消費者に理解してもらえました。
フミア 日産のデザイン開発でクリニック(社外の消費者による開発途中での審査)はするのですか。
中村 いいえ。
フミア デザイナーの責任重大ですね。
中村 決定するのは(自分を差して)「この男」です(笑)。
フミア クリニックでデザインを決定すると1年ぐらいは「いい」と言われますが、2-3年もすると人気は落ちます。
編集部 レトロではない、クリニックもやらないとすると、どうやってテザインのアイデンティティを見つけるのでしょうか。
中村 レトロデザインは採用しませんが、過去は振り返ります。日産にはグッドデザインが多くあります。
フミア 歴史がある。
中村 いい歴史です。そのとき形を見るのではなく、スピリット、姿勢を見ます。それが我々のブランドです。デザインではなく、もはや哲学ですね。
フミア いい表現ですね。私がクルマをデザインするときは「サイクル・オブ・アイデンティティ」というものを用います。クルマをデザインするときには、まずそのメーカーがもつ長年の伝統、過去を理解しなければなりません。写真を見たり、博物館へ行ったりしてチェックします。核にあるスピリットをつかまえます。
中村 シェイプではない。
フミア コピーでもない。そしてそのつかまえたシンプルな要素を、新しいデザインを築くために用いるのです。ランチアYをフィアットグループのためにデザインしたときは、戦前のランチア車のラインを流用しました。しかしそれはごくわずかなもので、新型車は全く新しいユニークなデザインを備えています。古いのかと問われれば新しいのです。つまりスピリットを流用したのであって、ピュアなラインを抽出したわけです。
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