e-CRBはなぜ「中国市場」で広がっているのか
---- 今回、e-CRBやSLIMを見ていて印象深かったのが、クルマが生鮮食料品のように扱われていたことです。ジャスト・イン・タイムなので当然なのかもしれませんが、クルマが生産されてから納車されるまでの「鮮度」をいかに維持するかに注力されている。

友山 (全体最適による)リーンやジャスト・イン・タイムでリードタイムを少なくするということは、重要視しています。(中国や北米などの販売現場の考えだと)今までは在庫がたくさんあることがお客様のためだと考えられていましたが、そうではない。お客様に生産されたばかりの、できるだけ新鮮なクルマをお渡しすることが重要であると考えています。(購入者は)6ヶ月も在庫だったクルマは欲しくないだろうし、一方で、とてもめずらしい色が欲しいというニーズもある。ですから、お客様を大切にするからこそ、生産および販売システムは全体最適されたリーンであるべきなんです。

---- 長期在庫はメーカーやディーラーのビジネスにとってもマイナスですが、それを受け取る顧客にとっても「よい」とは限らない。そのあたりが鮮度重視の背景にあるわけですね。

友山 もちろんビジネス的なメリットもありますよ。特にキャッシュフローという視点では、鮮度重視で在庫を圧縮すれば販売店のキャッシュフローがよくなりますし、メーカーのキャッシュフローもよくなります。流通量の全体最適化が進めば、変動要因に対しても強くなります。

これは本質的には不運なことなのですけれども、リーマン・ショック前後にe-CRBとSLIMが稼働していたことで、物流過程やディーラーの在庫状況がどのように動くか、さらにその情報をリアルタイムで把握することで、(大きな景況悪化など)変動要因下でのモノの動きや、在庫を抑えて販売機会を伸ばす方法論など貴重な経験ができました。その上で、我々はSLIMの恩恵でリーマン・ショック後の打撃を軽減し、早期回復させることが可能になったのです。

---- そう考えますと、e-CRBの中にあるi-CROPやSMB、SLIM、G-BOOKなど個別のシステムの適用範囲を広げていき、それらを有機的に「つなぐ」という狙いもよくわかりますね。

友山 我々の開発したシステムは、バラバラに見ていくと狙いがわかりにくいのですよ(笑)。しかし全体で見ますと、リーンやジャスト・イン・タイムの仕組みを自動車ビジネス全体に広げて、それによって「ひと」「クルマ」「ディーラー」「メーカー」をつなごうとしていることがわかる。(e-CRBやSLIM、 G-BOOKなど)個々のシステムやサービスは、"顧客満足"という理想を実現するためのパーツなのです。

---- 最近ですと、トヨタ以外のメーカーも「つながる」というキーワードを使います。そこで私がおもしろいな、と思うのは、他のメーカーとトヨタでは「繋がる」のコンテキストといいますか、考えている意味が若干ちがうということです。多くの場合は"クルマがネットに繋がる"世界を指しているのですが、友山さんの「つながる」はクルマを取りまく関係性の世界を指している。

友山 クルマを取りまくビジネス構造と、その先にいるお客様ひとりひとりとトヨタが「つながる」ことで、顧客満足度の向上と(自動車ビジネスにおける)収益性の改善を目指しています。広い意味での「バリューチェーン」でなければならない。そう考えています。また、さらに私個人としましては、そこに自動車ビジネスの将来の夢も"つながる"ようにしたいのです。

いま、自動車ビジネスを取りまく環境は閉塞感がありますが、お客様の満足を中心において、ビジネスやサービスの「つながり」を変えていけば、その先に新しい未来がある。今後は生産のさらに前にある「調達」も含めて、つながる領域を広げていかなければなりません。

---- 調達と生産の部分のみにフォーカスしますと、これまでもサプライチェーンマネジメントが導入されていたわけですが、それがもっと大きなバリューチェーンにつながるわけですね。逆説的に言えば、そこまで広く「つながる」ことが、今後の自動車ビジネスにおいて重要である、と。

友山 非常に重要だと思いますね。ひとつのネットワークで効率的な「調達」「生産」「販売システム」を構築することってのは、今後の自動車産業で生き残るための最低条件になるでしょう。それとやはりそこに従来の自動車ビジネスの変革のポイントがある。

《インタビュアー:神尾寿(通信・ITSジャーナリスト)》



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