――レジェンドから始まる第三世代インターナビでは、インターナビVICS車線情報とインターナビウェザーという2つの新機能が投入されました。これらの新サービスのポジションからお聞かせください。

今井 インターナビには"骨"と言いますか、サービス全体を貫くコンセプトがあります。それが「環境」「安全・安心」なのですが、これはずっと変わっていない。第三世代で投入したインターナビVICS車線情報とインターナビウェザーも、この基本コンセプトの延長線上にあるものです。

――なるほど。第二世代のインターナビプレミアムクラブでは、渋滞情報サービスの充実を積極的に行っていましたが、これはユーザーから見れば「利便性の向上」ですが、ホンダとしては「環境」機能の向上を狙ったものである。

今井 今回の新機能のひとつであるインターナビVICS車線情報も、真の狙いは(渋滞回避による)環境性能の向上です。その点では従来路線の延長と言えますね。渋滞を避けることは環境貢献に繋がりますので、これは極めていかなければならない。

――渋滞回避サービスについてはホンダは第二世代から積極的に取り組んでいますね。傍目には、ホンダの渋滞回避サービスは他社に対してもアドバンテージがあり、かなり「やり尽くした感」もあるのですが、いかがでしょうか。

今井 いや、まだまだですね。やり残した部分はあります。新しい機能として「まだあるか」と言われると、確かに少なくなっているのかもしれませんが、本当に(実際の渋滞状況に即した)最適ルートが提供できているのか、という点では、まだまだやるべき事はある。今後は情報のクオリティをあげていかなければならない。

――今回のインターナビVICS車線情報は渋滞予測情報の拡張であり、サーバー側で機能アップで実現しているところがポイントですね。

今井 既存ユーザーのお客様も、端末のソフトウェア更新によって対応ができるように腐心しました。渋滞予測情報の拡張ですから、最適ルートの検索に加味して利用します。インターナビVICS車線情報はデータ蓄積型のサービスで、フローティングカーの仕組みを使っています。従来型の端末をお使いのお客様は地図ソフトウェアの更新で対応します。

――なるほど。車線別の渋滞情報をフローティングカーのプレミアムメンバーズVICSで集めて、それを渋滞予測情報に活用するわけですね。これだと「走っているクルマ」の数を増やすメリットが大きいから、従来端末を対応させるメリットが大いにある。

今井 レジェンドはいいクルマですが、国内の販売目標は月間500台ですからね。これだけでは集められる情報量に限界があります(笑)。HDDインターナビプレミアムクラブ対応カーナビをご購入いただいたお客様には、2年目の地図無償アップグレードで対応します。また2005年1月から会員向けに特別価格による地図更新サービスを始めます。無償アップグレードまで時間があるお客様で、新機能対応や地図の更新を受けたい方はこちらをご利用いただこうと考えています。

――特別価格というのは?

今井 ホンダでは今後、年2回の頻度で地図と基本ソフトウェアの更新を行います。これをインターナビプレミアムクラブ会員の皆様に、格安でご利用いただくためのプログラムです。具体的な価格はまだ申し上げられませんが、ごく一般的なハードディスクカーナビの地図更新と比べれば、ご利用しやすい値段にする予定です。

――現在、ハードディスクカーナビの地図更新料は2万2千円から2万4千円程度が相場ですが、これは高い、と。

今井 2万円を切らないとお客様のご負担は大きいのではないかと考えています。詳しい金額は機会を改めて発表させてください。

――ちなみにハードディスクカーナビの更新はどのようにやるのですか?

今井 ディーラーでハードディスクを外して、ホンダの地図更新センターでお客様の情報をしっかりと保護して書き換えます。お客様にはディーラーに2回ご足労いただき、また書き換え期間中はカーナビのご利用ができなくなってしまいますが、書き換え中のデータ損失事故を防ぐにはこの方式がいいと判断しました。

――地図更新だけでなく、新機能の実現まで考えると、有償でも格安なソフトウェア更新サービスはありがたいですね。ところで話がインターナビVICS車線情報に集中してしまいましたが、インターナビウェザーは既存ユーザー向けのバージョンアップで対応しないのですか?

今井 残念ながらできません。インターナビウェザーは地図情報の上にまったく新しい情報レイヤー(層)をかぶせて実現しているので、ハードウェア側の対応がどうしても必要なのです。

――ただ天気情報をアイコン表示しているわけではないのですね。

今井 情報を表示する、という見え方の部分ではあまりわからないのですが、インターナビウェザーは地図上にメッシュ単位で天気情報をのせて、それがルート検索をはじめカーナビ側のプログラムと密接に関わるようになっているのです。そのためカーナビの開発と並行してインターナビウェザー対応をしなければならない。従来機種は、ソフトウェア更新だけで対応しきれない部分がどうしても出てくるのです。

――ハードウェア依存をしているわけではなく、カーナビソフトウェアの依存度が高いという事でしょうか。

今井 それがハードウェア依存もけっこうしているのです(苦笑)。インターナビウェザー導入にあたり、送受信をする情報量が増えたため、データの圧縮通信機能を採用しました。例えば従来のインターナビプレミアムクラブでは渋滞情報のダウンロードだけで1分10秒程度の通信時間がかかっていたのですが、レジェンド以降の第三世代インターナビでは(データの圧縮通信を用いることで)渋滞情報と天気情報を含めて40秒前後でダウンロードが終わるようにしました。

――圧縮通信は日本通信のb-mobileやDDIポケットのAir H”などでも使われていますが、サーバー側とクライアント側の両方で対応しないといけませんね。

今井 そうなんです。むろん、圧縮通信を実現するプログラムそのものはソフトウェアですが、メモリー容量やCPUパワーなどハードウェアリソースの設計見直しをしなければならない。それが従来機種でインターナビウェザーが利用できない最大の理由です。

――素朴な疑問なのですが、インターナビウェザーは新レイヤーの採用やメッシュ情報管理が細かくて、それが結果としてデータ容量の増大に繋がっている。もう少しデータのきめを粗くして、従来型端末のユーザーにも利用可能な形にするという選択肢もあったのではないでしょうか。例えば、パイオニアは以前から、インターナビウェザーほど細かい情報ではないにせよ、通信を使って気象情報提供サービス「ウェザーライブ」を実現しています。

今井 従来の気象情報サービスとの決定的な違いは、ナビゲーション連動である、という事です。目的地設定をしたら、渋滞情報と天気情報の両方をダウンロードします。それにより目的地周辺はもちろん、ルート上の気象情報が(ルート検索の)データとして利用されます。目的地までのルート上に大雨や濃霧といった気象警報が発令されていればドライバーに音声で注意を促します。通信のリアルタイム性を活かして、台風情報も警報・警告情報として利用できます。

――他社のカーナビやテレマティクス、ケータイなどの気象情報は自ら情報を取りに行かなければならない。インターナビウェザーはそれがカーナビのルート検索と密接に融合していて、ひとつのパラメーターになっているという事ですね。

今井 例えば濃霧警報で通行止めになっている道路は事前にわかりますし、通行止めにまでなっていなくても、濃霧注意報発令中のメッシュエリアにクルマが進入すると、カーナビがドライバーに注意を促します。インターナビウェザーの情報は5分単位で更新していますので、密度の高い情報が提供できます。

――最初インターナビウェザーで「天気」と聞いたときは、他社もすでに始めているし目新しさを感じなかったのですが、ホンダならではの部分としては運転支援の色合いが強いですね。

今井 インターナビウェザーは単なる情報提供にとどまらず、安全運転支援という位置づけを与えています。そこが従来のクルマ向け天気情報提供サービスと大きく違う点です。

――情報を提供する事で「安全」に寄与する。ITSでは、プリクラッシュセーフティやスタビリティコントロールなどクルマの"身体"をIT技術で高知能化して安全を確保する技術が盛んに実用化されていますが、テレマティクスによる安全運転支援情報の提供はクルマの“脳”、すなわちドライバーをIT技術で高知能化して安全を確保するアプローチと言えますね。インターナビウェザーは、テレマティクスが環境性能向上だけでなく、安全支援も行っていく、ひとつの里程標になりそうです。
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