[カーマルチメディア・インサイダー]マイクロソフト ITS戦略統括部 平野元幹統括部長
マイクロソフトの異端
Motoki Hirano
あらゆるデジタル機器が高性能化.........
四半期減益は想定の範囲
----Windows Automotiveのこれまでを振り返ると、その歴史はけっこう古い。1998年に「Auto PC 1.0」が発表されており、2000年には改名されて「Windows CE for Automotive v.3.0」になりました。その後、再度、改名されて2003年に「Windows Automotive 4.2」となりました。

平野) バージョンの変遷としては、Windows CE for Automotive 3.0、そして3.5がありましたが、市場に本格的に受け入れてもらえたと感じるのは、Windows Automotive 4.2からですね。 (4.2が)普及した大きな原動力になったのが、AUI(Automotive User Interface)と呼ばれるユーザーインターフェイスをカスタマイズする仕組みだと考えています。

----UIにおける機能拡張が成功の要因になった?

平野) それ以前から画面描画と言いますか、UIの重要性は感じていました。実はAutoPCからWindows CE for Automotive 3.0にバージョンアップして、カーナビメーカーの皆様に『これなら使えるね』と評価されたのが、GDI Subという画面描画系のライブラリでした。

----GDI(Graphic Device Interface)というと、PC向けWindowsでも使われる代表的な描画系ライブラリですね。

平野) ええ、Win32の基本ライブラリのひとつですね。Windows Automotiveの源流であるWindows CEも、Windowsの仕組みを踏襲していますから、GDIを使うのが基本コンセプトにあります。例えば、PDA向けのPocket PCなどはWindows CEのGDIを使っています。
しかしですね、これを使うと画面描画にメーンCPUのリソースが食われるんです。ところがカーナビではこれではダメなんですね。地図は専用のグラフィックチップとライブラリで描画するのが一般的で、(Windows CEの)GDIを使うと何倍も描画に時間がかかるという問題がありました。AutoPCがカーナビメーカーから不評だった点です。

----確かにカーナビ用途での地図描画はリアルタイムでスクロールしなければなりませんし、処理が重いし、特殊です。この場合、グラフィックチップの性能はもちろんですが、ライブラリのチューニングが重要になります。

平野) そこで我々の最初のミッションは、GDIを拡張しました。これがGDI Subです。この仕組みでは、プログラムから呼び出す命令セットはGDIと同じなのですが、グラフィックチップの制御は地図描画に最適化して行います。地図描画などカーナビに求められるGDIの命令セットを、チューニングされたコードに変換するAPIを追加したのが、GDI Subというわけです。

----カーナビメーカーも、「これなら使える」と。採用の前提条件をクリアーしたわけですね。

平野) GDI Subはカーナビメーカーにとってもメリットが大きいのです。グラフィックチップの進化は早いですが、新しいものを採用するとすると、カーナビメーカーは毎回ライブラリを書き換えなければならない。さらにメインプログラムも修正する必要があります。しかし、GDI Subの仕組みでは、メインプログラムと(グラフィックチップの)ライブラリが切り離されます。

----メインプログラムから見えるのはGDIで、グラフィックチップごとのライブラリはGDI Subが担当する。これはWindowsが提供するソフトウェアプラットフォームと同じコンセプトですね。

平野) もちろん、メインプログラムがグラフィックチップの特殊な機能を使う場合は、GDIでサポートし切れませんが、多くの機能は汎用化できます。すると、グラフィックチップベンダーもGDI Sub向けのライブラリを用意すれば、(Windows Automotiveを採用する)カーナビに採用してもらえるようになる。この考え方はPC向けのWindowsとまったく同じです。

---- メインプログラムとハードウェア制御のライブラリを切り離し、メーカーとサプライヤーの両方の開発コスト削減に貢献する。これはAutoPCの時からマイクロソフトが目指したコンセプトであり、汎用OSの狙いそのもの。しかし、実際は地図描画という"カーナビの事情"が壁になった。このふたつの要素を、どちらの節を曲げることなく合致させたのが、GDI Subという追加機能だったわけですね。
Windows CE for Automotive 3.0からカーナビとしての描画機能の改善に着手し、4.2のAUIでユーザーインターフェイスの部分でも、カーナビ開発のニーズに(Windows Automotiveを)あわせてきた。その上でのWindows Automotive 5.0の位置づけはどのようになるのでしょうか。

《インタビュアー:神尾寿(通信・ITSジャーナリスト)》
《写真:石田真一》
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