PROXES CL1 SUV
ROAD IMPRESSIONスポーツ性、そして快適性を両立させた
新世代SUVタイヤ誕生
トーヨータイヤから新たに登場したSUV用タイヤ『プロクセスCL1 SUV』にいち早く試乗する機会を得たのでレポートしていこう。
『プロクセスCL1 SUV』は従来のSUVに多かったM+Sタイヤではなく、完全なるサマータイヤとなる。プロクセスの名に恥じないハンドリング志向のタイヤと思いきや、それは当然の性能とした上で、静かさと低燃費とロングライフも相当な自信を持って仕上げてきたようだ。最近のSUVはHV化を含めてますます重くなっており、それらモデルに履いても目標とした性能をしっかり発揮できるようにしたのが、苦労した点とも聞いている。

敢えて内外のブロック溝をズラして配置したパターンデザイン
パターンデザインは、トーヨータイヤが得意とする左右非対称パターンを採用。通常、まっすぐ走る時には4輪がほぼ均等に接地しているため、内側パターンを適度な剛性に保ち、優しく路面に接地させてノイズを抑制する狙いから、横溝が細かく配置されている。しかし、これだけだと急ブレーキなどでブロックが倒れ込んで制動距離が伸びるなどの心配があるが、そこは倒れ込みそうになるとブロック同士が支え合う3Dマルチサイプを採用している。さらに旋回時に荷重が高まる外側ブロックは大型化され、ハンドリングと旋回時の耐荷重特性の向上を狙っている。

この内側と外側のブロックの横溝はあえてズラして配置されており、ノイズの分散化も行なっている。この音の分散には、トーヨータイヤが近年取り入れた高度なシミュレーション技術「T-MODE」が活躍。ブロックの角を取り、全体が綺麗に均等な面圧で路面に接地する、ブロック自体を“かまぼこ”状とすることでブロックの左右角の面圧が高まることを抑制している。ゴム配合には「ナノバランステクノロジー」技術が取り入れられており、トレッドゴムには発熱コントロール性が高いシリカの含有率を増やしている。それは天然ゴムと強力に結合し長持ちさせるポリマーとの配合比率にも応用されている。これが転がり抵抗低減、ウェットグリップ向上、さらにはロングライフの実現をもたらしている。
強いて言えばエコタイヤ的な優しいフィーリング
しかしハンドルからは適度な手応えが
走り出すと直進安定性の高さと乗り心地の良さに気がつく。特に高速道路だと顕著で、ホイールとの結合を強くしてタイヤのしっかり感を出すビートフィラーを高剛性化し、サイドウォールは適度に柔軟性を持たせたことで、路面の凸凹の入力を優しく吸収しつつもフラつかない。さらにブロックが路面に当たる感覚も優しくて、強いて言えばエコタイヤ的な優しいフィーリングが漂うのだが、それでいてハンドルを切ると適度な手応えが返ってくるから不思議だ。

しなやかなに動き、粘るようなグリップ、
そして自由自在のハンドリング
今回『プロクセスCL1 SUV』を装着して試したクルマはアウディQ3。快適性とハンドリングを両立した人気のSUVだ。このままワインディングを気持ち良く走ろうとしたらさすがに音を上げるだろうと思っていたが、本領を発揮したのは案の定ワインディングだったと言っても過言ではない。穏やかなカーブからきついカーブまで、終始必要な分だけタイヤがたわんでくれる感じで、その際の手応えも明確で運転しやすい。そして何より驚いたのが、連続するカーブでの走りやすさだ。これを体験すると、高速道路の優しい乗り味と同じタイヤなのか?と疑いたくなるほどの激変ぶりだった。

タイヤの全体的な剛性の上手さとブロックの剛性のバランスの良さが成せる技なのだろう、旋回において荷重をかけるほどにタイヤの踏ん張り感や粘り具合が高まり、追い込んだら追い込んだなりに必要な剛性感や踏ん張り感を出してくれる。タイヤ全体がしなやかなに動き、粘るようなグリップと自由自在のハンドリングを提供してくれるのだ。
それが明確にわかるのが連続するカーブ。カーブが終わりハンドルを戻し出すと、その戻し操作にも遅れずにタイヤの“たわみ”が解消されていく。この戻し操作への素直さがそのまま次のカーブへのスムーズな曲がり出しにつながるのだ。
このタイヤの魅力は素直さにある

重量級&高負荷でも素直な特性は、超過酷なドリフト選手権「D1」でトーヨーが好成績を収め続けていることを思い起こした。超高荷重時でのタイヤの“たわみ”のコントロール技術の蓄積があるのではないだろうか、そう思わせる自由自在感があった。
最後にひとつ強くお伝えしておきたいのが、あくまでもこのタイヤの魅力は素直さにあるということ。そして高速道路での静粛性と直進安定性、さらにはロングライフも共存させていることが魅力だ。愛車のハンドリングを少し高いレベルに昇華させるスポーツ性、そして高速道路を含めた快適性と経済性の両立が可能なSUV向けタイヤとして、とてもおすすめしたい。
TEXT:YASUTAKA GOMI
MOVIE:JUNJI IWAMOTO
PHOTO:TAKEO KOBAYASHI

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五味康隆YASUTAKA GOMI
モータージャーナリスト。自転車のトライアル競技で世界選手権に出場し、4輪レースへ転向。全日本F3選手権に4年間参戦した後、モータージャーナリストとしての執筆活動を開始。高い運転技術に裏付けされた評論と、表現の解り易さには定評がある。「持続可能な楽しく安全な交通社会への貢献」をモットーとし、積極的に各種安全運転スクールにおける講師を務めるなど、執筆活動を超えた分野にも関わり、最近ではYouTubeチャンネル「E-CarLife」も立ち上げ活動範囲を広げている。また、環境分野への取り組みにも力を入れており、自身で電気自動車からハイブリッド車も複数所有。つい先日、燃料電池車の新型MIRAIも購入。