CO₂を吸収してプラスチックに変わるゴムを発明



~CO₂を利用した光学的情報記録材料としても期待~

2025年11月12日
岐阜大学
横浜国立大学
信州大学
名古屋市立大学

CO₂を吸収してプラスチックに変わるゴムを発明 ~CO₂を利用した光学的情報記録材料としても期待~

 

 

本研究のポイント

・CO₂吸収によって1000倍以上硬化してプラスチックへと変化する一方で、加熱によってCO₂を取り除くと元の柔軟な状態に戻るエラストマー注1)を発明しました。

・このエラストマーは1gで約220mgのCO₂を吸収するフレキシブルなシート状吸収材料としても応用可能です。

・このエラストマーは、CO₂を吹き付けると表面の摩擦が瞬時に低下する性質があり、摩擦特性をコントロールできる機能性コーティングとして期待されます。

 ・このエラストマーは、CO₂を吸収すると蛍光注2)発光強度が大きく増加する性質があり、光学的な情報の表示と記録が可能な材料としての応用が期待されます。

 

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202511118889-O7-w6dgd3l5

 

 

研究概要

  近年、持続可能な社会を目指し、主要な温室効果ガスである二酸化炭素(CO₂)の空気中からの回収、貯留、さらに回収したCO₂の有効活用技術の開発が進められています。

 岐阜大学工学部の三輪 洋平 教授、工学研究科博士課程1年の岡田 和真さん、自然科学技術研究科修士課程1年の林 拓海さんらの研究グループは、横浜国立大学の中野 健 教授、大久保 光 准教授、信州大学の山本 勝宏 教授、名古屋市立大学の高瀬 弘嗣 博士との共同研究で、CO₂を吸収すると硬く、そして強靭なプラスチックに変化するエラストマーを開発しました。このエラストマーはCO₂によって蛍光の発光強度(輝き)が増大するため、CO₂の供給と除去によって光学的な情報の記録と消去が可能な材料としての活用も期待されます。

 本研究によって、「材料の機能制御のためのCO₂利用」という新しい視点からのCO₂の有効活用用途の開拓が期待されます。

 本研究成果は、日本時間2025年11月11日(火)にNature Communications誌オンライン版で発表されました。

 

 

研究背景

 近年、持続可能な社会の実現を目指し、主要な温室効果ガスであるCO₂の空気中からの回収、貯留、さらにその有効活用に関する技術開発が進められています。例えば、回収したCO₂の有効活用として、CO₂を原料としたメタノールやポリマー注3)の合成などが研究されています。

 三輪教授の研究室では、CO₂に応答して性質が大きく変化するユニークなポリマー材料の開発を進めてきました注4)。例えば、CO₂を吹き付けると融けて成形加工可能なプラスチックがあれば、省エネになります。また、CO₂によって表面特性が変化するエラストマーを利用すれば、使用前にCO₂を吹き付けて滑り止め効果を出すグリップや、逆にCO₂で表面がツルツルになって清掃が楽になるコーティングも実現可能かもしれません。さらに、CO₂によって色の変わるポリマー材料は、CO₂を利用した表示材料や情報記録材料に利用できる可能性があります。この様に、CO₂応答性ポリマー材料は、CO₂の新しい有効活用方法を切り拓く可能性を秘めています。

 

 

研究成果

 本研究では、CO₂によって1000倍以上硬くなって、プラスチックへと変化するエラストマー(ゴム)を開発しました。

 このエラストマーは、ポリエチレンイミン(PEI)注5)とポリジメチルシロキサン(PDMS)注6)を分子レベルで複合化して作成します(図1)。最初は輪ゴムくらいの柔らかさですが、CO₂を吸収した後にはアクリル板のように硬くなります。これは、PEIがCO₂と反応して硬化するためです。また、このエラストマーは1 gで約220 mgのCO₂を吸収するためにCO₂吸収材料としても利用できます。さらに、エラストマー表面の粘着性や摩擦特性がCO₂吸収により瞬時に大きく低下する一方で、CO₂を加熱によって除去したら元に戻ることについても明らかにしました。これは、このエラストマーが機能性コーティングとして有用であることを示しています。

 加えて本研究では、このエラストマーの蛍光特性がCO₂によって増大することを発見しました(図1)。 CO₂を部分的に遮ることで情報の書き込みと消去が可能であることを示し、CO₂を利用した情報記録材料としての応用可能性を提案しました。

 

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202511118889-O9-4UAIYHo2

図1.本研究で開発したCO₂を吸収して硬化する、また、蛍光を増大させるエラストマー

 

 

今後の展開

 三輪教授らの研究グループは、これまでにCO₂によって軟化するエラストマーや、 CO₂を吸収して破れにくくなるエラストマーを開発しました注4)。現在、様々な企業との共同研究などを通して、 CO₂を活用して性質や機能をコントロールできるポリマー材料の実用化をめざしています。

 

 

研究者コメント

 私たちの研究室では、新しいポリマー材料の分子レベルからの設計に挑戦しています。

 本研究に興味をもった学生の皆さん、私たちの研究室で一緒にエキサイティングな研究をしませんか?

 

 

用語解説

注1)エラストマー:

一般的に、日常では“ゴム”と呼ばれています。エラストマーとは、伸縮性と弾力に富んだポリマー注3)材料のことです。

 

注2)蛍光:

蛍光とは、物質がある波長の光を吸収して、すぐに別の波長の光を放つ現象です。本研究のエラストマーは、UVを照射すると青色に輝きます。

 

注3)ポリマー:

高分子とも言います。分子量がおよそ1万を超える巨大分子で、ひもの様に細長い分子形状をしています。プラスチックやゴム、ビニールなどはすべてポリマー材料の一種です。

 

注4)過去のプレスリリース:

2019年4月22日に「世界初、CO₂ガスで自己修復を促進する気体可塑性エラストマーを開発」を発表しました。

https://www.gifu-u.ac.jp/news/research/2019/04/entry25-7085.html

 

2024年3月5日に「“空気を読んで”、性質を変化させるポリマー材料 ~CO₂に応答して劇的にタフになるエラストマーを実現~」を発表しました。

https://www.gifu-u.ac.jp/news/research/2024/03/entry06-13063.html

 

注5)ポリエチレンイミン:

アミンを分子内に豊富に持つポリマー。 CO₂との反応性に富み、 CO₂回収にも利用されます。

 

注6)ポリジメチルシロキサン:

ケイ素を含んだポリマーであるシリコーンポリマーの一種で、シリコーンゴムの原料などとして利用されています。

 

 

論文情報

雑誌名: Nature Communications

論文タイトル: CO₂-triggered reversible transformation of soft elastomers into rigid and highly fluorescent plastics

著者: Yohei Miwa, Kazuma Okada, Takumi Hayashi, Kei Hashimoto, Hikaru Okubo, Hiroshi Takase, Katsuhiro Yamamoto, Ken Nakano, and Shoichi Kutsumizu

DOI: 10.1038/s41467-025-65495-4

 

 

研究者プロフィール

三輪 洋平 (みわ ようへい):論文筆頭著者、論文責任著者

岐阜大学 工学部 教授

 

岡田 和真 (おかだ かずま)

岐阜大学大学院 工学研究科 博士課程1年生

 

林 拓海 (はやし たくみ)

岐阜大学大学院 自然科学技術研究科 修士課程1年生

 

橋本 慧 (はしもと けい)

岐阜大学 工学部 助教

 

大久保 光 (おおくぼ ひかる)

横浜国立大学 環境情報研究院 准教授

 

高瀬 弘嗣 (たかせ ひろし)

名古屋市立大学大学院 医学研究科 技術職員

 

山本 勝宏 (やまもと かつひろ)

信州大学 工学部 教授

 

中野 健 (なかの けん)

横浜国立大学 環境情報研究院 教授

 

沓水 祥一 (くつみず しょういち)

岐阜大学 工学部 教授