“当て舵”いらずの「UDアクティブステアリング」がすごい、大型トラック『クオン』公道試乗で見えた「今できる課題克服策」

2022年型の大型トラック『クオン』で公道を走る

通常の運転操作で燃費が伸びる「ECO+」

“当て舵”いらずの「UDアクティブステアリング」

今できる課題克服策

UDトラックス クオン
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自動車メディアの主要コンテンツには、いわゆる「試乗記」なるインプレッション記事がある。その多くは、一般ユーザーのためのバイヤーズガイド的な意味合いを持つため、試乗車種は乗用車であることがほとんどだ。しかし今回は、8輪タイヤの大型トラックのガチンコ公道試乗記をお届けする。

レポーターは交通コメンテーターの西村直人氏。試乗を通じて改めて見えた物流業界の課題とその克服策とは。

◆2022年型の大型トラック『クオン』で公道を走る

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公道試乗を行なったのはUDトラックスの大型トラック、2022年型『クオン』だ。車両は「CG 8×4」、つまり8つある車輪のうち4セットの後輪(1輪ごとダブルタイヤなので実際は後8輪)が駆動するタイプで、前4輪すべてを操舵する。

エンジン型式は「GH11TB」型を名乗る。最高出力は7タイプ存在するが、試乗したのは販売台数の多い400ps仕様で最高出力は1600回転で得られる。最大トルクは2000Nmと強力で、950~1350回転の広範囲に渡って発揮する。

これに「ESCOT-VI」と呼ばれる前進12速、後進2速のシングルクラッチ(乾式単板)方式ATを組み合わせた(前述7タイプのなかには3ペダル方式の7速MTモデルもある)。ブレーキシステムにはUDトラックスのこだわりがあり、一般的なドラム式ではなく専用のディスクブレーキ式を総輪に装備する。

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2022年型では燃費数値と走行性能の両面を向上させるため、従来型の2021年型から出力で10ps、トルクで250Nm高めた(結果が400ps/2000Nm)。単に最大値をアップさせただけでなく、加速力を左右するトルク値ではアイドリング回転数の直上である800回転から最高出力を発生する1600回転まで2021年型を上回る値を発揮する。

また、エンジンの摺動抵抗低減、シリンダーブロックの剛性強化、燃料噴射圧の10%向上(220bar)などの相乗効果によって、燃費数値では2021年型に対し最大で6%程度向上(UD社内測定値)というから、新たな重量車モード燃費(法規)である「JH25モード」にも余裕をもって対応できるだろう。

◆通常の運転操作で燃費が伸びる「ECO+」

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走行性能の向上はどうか。試乗ルートは茨城県内の常磐自動車道と周辺の一般道路。アップダウンが連続し、トンネルも多い道路環境だ。

2022年型ではトランスミッションであるESCOT-VIのファイナルギヤを2021年型から27%程度、高速化した。また、トップギヤである12速ギヤ比を従来のオーバードライブ状態から直結状態になるようギヤ比を見直したことで、駆動力とエンジン回転マネージメントの最適化が図られた。

これにより12速へのシフトアップ許容速度が、2022年型では55km/hへと大きく低められ、一般道路の法定速度域においても燃費数値と走行性能の両面を大きく伸ばすことに成功している。

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新しくなったエンジンとトランスミッションの性能をさらに伸ばす機能も追加された。それがドライブモードの「ECO+」だ。2022年型クオンのドライブモードではECO/ECOオフ/ECO+の3種類が任意のスイッチ操作で選べる。

このうち燃費数値と走行性能のベストバランスを狙った新設のECO+モードでは、走行性能重視のECOオフで実感するストレスのない動力性能に近い出力特性を確保しながら、必要以上と判断される加速性能を自動的に絞り込み燃料の消費を抑えてくれる。実際、今回の試乗でも通常の運転操作をするだけで燃費数値が伸び、坂道でも失速の少ないスムースな走りが行えた。

◆“当て舵”いらずの「UDアクティブステアリング」

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先進安全技術では、「UDアクティブステアリング」の機能が光った。この機能の目的は優れた直進安定性の確保と、ステアリングフィールから雑味を取り除き操舵力を軽くしてドライバーの疲労を軽減することにある。

車両に積荷、そして乗員を含めたGVW(車両総重量)で25tにもなる大型トラック(今回の試乗時はGVW20t)は、走行中に路面のうねりを受けたり、トンネルの出口付近や橋梁で受けやすい横風では車体が大きく振られたりする。そのためドライバーには、こうした外乱を見越した“当て舵”が常に求められるが、これが地味に身体に堪え疲労蓄積の要因になる。

UDアクティブステアリングでは、外乱である「うねり」や「横風」を各種センサーによってリアルタイム(2000回/秒)に検出しながら、システムが外乱であると判断した場合には、ギヤボックス上部の電動モーターによって適切な反力を生み出して、これを疑似的な当て舵として活用する。

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結果としてドライバーが当て舵をせずとも外乱は見事に打ち消され、車内は平穏な運転環境に保たれるのだ。筆者の経験値で示すと疲労度は30%程度、抑えられた。

同様の機能は、車両開発プロセスを同じくするボルボトラックの大型トラック『FH』も搭載する。ボルボでは「ボルボ・ダイナミック・ステアリング」と呼ぶこの先進安全技術は、UDアクティブステアリングと同じシステム構成で目的や効果も同一だ。

違いはシステムの介入度合いにある。FHのボルボ・ダイナミック・ステアリングでは、北欧スウェーデンに本拠地を構えるボルボらしく、より高速域での直進安定性確保に加え、雪上路や凍結路など滑りやすい路面での確実なステアリングサポートも視野に入れている。

ボルボ「FH」。直列6気筒13.0Lの大型ディーゼルターボに12速のAT「I-シフト」を組み合わせた。サスペンションはエアサス方式で、全輪に乗用車と同じディスクブレーキを採用ボルボ「FH」。直列6気筒13.0Lの大型ディーゼルターボに12速のAT「I-シフト」を組み合わせた。サスペンションはエアサス方式で、全輪に乗用車と同じディスクブレーキを採用

◆今できる課題克服策

このように大型トラックでは、ドライバーの運転操作における負担軽減を目的に、高速道路や自動車専用道路で使用できる先進安全技術が実装され始めた。一方で、一般道路を走行する機会が多い小型トラックでは、対応シーンを増やした衝突回避支援技術の開発が継続的に行なわれている。

経済を下支えする物流業は日々の繁栄にとって欠かせない存在だ。いわゆる「人の移動、物の移動、お金の移動」を基本に、これまで多くの人々に支えられ物流業は成り立ってきた。

新型コロナウイルスによるコロナ禍によって我々の生活は一変したが、経済活動の根幹であるこうした物流業のあり方も大きく変わった。その一例が個人向け小口物流における取扱い数の増加だ。

国土交通省「物流政策課」の最新調査によると、2019年と2020年の同時期における宅配便・取扱個数は最大で148.0%と大幅な伸びを示し、2022年12月現在も110%以上、伸び続けている。

これはリモートワークなど在宅率の高まりにより、インターネット・ショッピングである「eコマース」の利用率が一気に上昇したことが主な要因だ。さらにドライバーの高齢化対策、交通事故の抑制も物流業が抱える課題である。

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これらの解決策として国土交通省が2020年6月に指針を示した。「2040年、道路の景色が変わる」と題したそれには、道路行政が目指す「持続可能な社会の姿」と「政策の方向性」が描かれ、自動運転技術を活用した配送業務と、高度な管理業務の連携が重要だと唱える。

具体的には、自動運転技術によるODD(Operational Design Domain/運行設計領域)に、トラックを活用する物流業ならではの特異性を組み込み、IoT(Internet of Things/物のインターネット化)の促進と、BD(Big Data/量・質ともに多彩な情報)、AI(Artificial Intelligence/人工知能)などから得られる高度な情報を一元化することで、物流業が抱える課題の克服を目指すという。

すばらしい世界だが、ここで語られている最先端技術の普及には時間が掛かる。それまでは、トラックそのものを安全、快適にすることでドライバーを守り、そして経済を下支えしていくという発想も大切だ。今回試乗したクオンや別日に試乗したボルボFHなどに搭載される先進安全技術は、今できる課題克服策として大いに歓迎したい。

UDトラックス クオンと西村直人氏UDトラックス クオンと西村直人氏

西村直人|交通コメンテーター
クルマとバイク、ふたつの社会の架け橋となることを目指す。専門分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためにWRカーやF1、さらには2輪界のF1と言われるMotoGPマシンでのサーキット走行をこなしつつ、4&2輪の草レースにも精力的に参戦中。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も積極的に行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席したほか、東京都交通局のバスモニター役も務めた。大型第二種免許/けん引免許/大型二輪免許、2級小型船舶免許所有。日本自動車ジャーナリスト協会(A.J.A.J)理事。2022-2023日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会・東京二輪車安全運転推進委員会指導員。日本イラストレーション協会(JILLA)監事。

《西村直人@NAC》

西村直人@NAC

クルマとバイク、ふたつの社会の架け橋となることを目指す。専門分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためにWRカーやF1、さらには2輪界のF1と言われるMotoGPマシンでのサーキット走行をこなしつつ、4&2輪の草レースにも精力的に参戦中。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も積極的に行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席したほか、東京都交通局のバスモニター役も務めた。大型第二種免許/けん引免許/大型二輪免許、2級小型船舶免許所有。日本自動車ジャーナリスト協会(A.J.A.J)理事。2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会・東京二輪車安全運転推進委員会指導員。日本イラストレーション協会(JILLA)監事。

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