日々アップデートされるxEV市場をどう読み解くか…矢野経済研究所 田中善章氏[インタビュー]

日々アップデートされるxEV市場をどう読み解くか…矢野経済研究所 田中善章氏[インタビュー]
  • 日々アップデートされるxEV市場をどう読み解くか…矢野経済研究所 田中善章氏[インタビュー]

トヨタがレクサスのEVブランド化や30車種のEV投入を発表したのは遠い昔のようだが、まだ1年たっていない。それから半年もしないうちにヒョンデ、続いてBYDが日本乗用車市場に参入することは誰が予想していただろうか。

業界の動きが早く感じるのは、それだけ市場が活発で伸びている証でもある。自動車産業のうちBEV/FCEV/PHEV/HVなど電動車(xEV)市場をウォッチ、分析しているシンクタンクは多い。矢野経済研究所もそのひとつで、定点観測的業界動向を追っている。矢野経済研究所によれば、2021年は2020年に引き続きxEV市場は成長しているという。だが、サプライチェーン問題、ウクライナ情勢、米中摩擦などグローバル化からリージョン化、ブロック経済化の動きもみられ、市場予測は非常に困難な状況にある。

同研究所 デバイス&マシナリー産業グループ 上席マネージャーの田中善章氏が、 xEV市場の現状と展望2022について9月29日開催のオンラインセミナーで講演する。どんな内容になるのか、また22年以降の業界の見通しについてお話を伺った。

成長の背景を市場動向と政策動向で分析

――さっそくですが、セミナーではどんなことをお話するのでしょうか。

田中氏(以下同):お話する内容は大きく4つトピックです。まずxEVをとりまく市場動向の概要(1)、次に関連する政策動向(2)と車載用リチウムイオン電池の動向(3)。最後に今後展望についてを考えています。どのトピックも、海外の動向を含めて事例などの紹介もします。

20年以降、国内でも電動化の動きが活発化していますが、21年、22年上期だけでもどんどん状況が変わっています。最新の動向や状況を押さえることは、ネット情報や報道に惑わされず正しい戦略を決めるうえでも重要です。そのために必要な情報を提示できればと思っています。

――市場動向や政策動向について、全体としてはどう分析されているのでしょうか。

xEV市場は成長を続けています。弊社では同市場の成長シナリオは、純粋に市場ベースの成長と政策ベースの成長と2つあると思っています。市場ニーズは高まっているものの、課題も多いxEV。足元は補助金など政策ベースの動きがメインになっていると見ています。このような状況を踏まえ、弊社では、xEVの生産台数について、政策ベースの予測(成長率高め予測)と市場ベースの予測(成長率低め予測)を行っています。

21年は予測の上振れで終わっています。その背景要因は中国とEUのxEV市場の拡大です。日本はトヨタの電動化戦略アップデートの動き、今年22年では日産、三菱の軽EVの躍進などがトピックとしては挙げられますが、21年時の国内の市場動向としては大きく変わっていません。

日本はxEV市場に乗り遅れているのか

――一部では日本はこの動きに出遅れているという評価もあります。やはり遅れているのでしょうか。

私は必ずしも日本のxEV技術が遅れているとは思いません。ワールドワイドではEV・PHEVのシェアが10%を超えた地域もありますが、押し上げているのは中国とEU市場です。どちらも政策先行型の市場なので、日本との比較は難しいと思います。市場が成長しているのは確かで今後もその流れ自体は変わりませんが、成長率や時間軸については慎重な見方が必要だと考えています。

成長率は国や地域によって大きく違います。今後のxEV市場は地域性がより色濃くでてくると思っています。グローバル全体でみると、日本の動きは遅れている印象はありますが、地域ごとの戦略を考えることも重要です。

――政策的な状況はどうでしょうか。

中国では、当初20年に電動車の補助金が終了する予定だったので、19年にかけて成長の鈍化がみられました。しかし、22年までの延長が決まり再び市場ニーズが活発化しました。

日本との違いでいえば、EUや中国は補助金などで支援も行うが、ペナルティ政策と並行している点です。中国は国策としてEV産業を育て世界市場を目指しています。EUはディーゼルゲート以後の環境シフトなどバックグラウンドが違うので、やはり表面的な政策だけで判断できないと思います。

今後、注目すべきは北米の動きです。バッテリーなど材料を含めた自国生産をEVに強く求める方向で議論が進んでおり、今後の展開は押さえておく必要があります。

脱中国・北米の動きに注視:日本は難しいかじ取り

――工場がアメリカにあればいいのか、バッテリーの材料も自国でなければだめなのか、その範囲は複雑ですね。

地政学的な問題や米中摩擦もあり難しいところです。バッテリーについていえば、原材料のレアメタル等の中国依存度がかなりあります。リチウムイオンバッテリーの生産計画をみても、中国が最大規模の生産国です。

一方で資源の価格高騰もあり、比較的安価なLFPバッテリーにも注目が集まっています。各国OEMは、ニッケルやコバルトなどに振り回されたくないという思惑から、リン酸鉄を評価する動きがあります。ただし、LFPバッテリーのシェアはBYD、CATLなどが上位を占めています。

また、LFPの場合、サイクル特性面からリユースでは優位な側面を持つ一方、レアメタルの含有が少ない分、リサイクルに難点があります。リユース・リサイクルはエネルギー・環境政策とも絡む問題で企業は無視できません。

――脱中国は簡単にはいかないようですね。日本の業界も難しいかじ取りが求められているようですが、日本のメーカーやサプライヤーはどんなポイントに注意していけばいいでしょうか。

先ほどもいいましたが、市場の成長率は慎重に見ていく必要があると思います。カーボンニュートラルや車両電動化の流れは変わらないものの、EUはウクライナ情勢などから石炭火力発電の稼働を再開させるなど変化がみられます。今後、カーボンニュートラルの時間軸やその手段が変わる可能性もあると考えます。

各国の状況ごとに市場や政策を見極めることが重要なのではないでしょうか。

田中氏が登壇するセミナー「xEV市場の現状と展望2022」は9月29開催。詳細はこちら。
《中尾真二》

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