【ヤマハ MT-10 開発者に聞く】ついにバイクのあの場所が楽器に!? “眉毛”デザインのねらいとは

ヤマハ MT-10 開発者インタビュー前編はその「音」と「デザイン」のこだわりを聞く
  • ヤマハ MT-10 開発者インタビュー前編はその「音」と「デザイン」のこだわりを聞く
  • ヤマハ MT-10 開発メンバー
  • ヤマハ MT-10
  • ヤマハ MT-10 プロジェクトリーダーの鈴木智一朗氏
  • ヤマハ MT-10
  • ヤマハ MT-10
  • ヤマハ MT-10のサウンドを生み出す『アコースティック・アンプリファイア・グリル』
  • ヤマハ MT-10 サウンド担当の齋藤久典氏

MTシリーズの最高峰『MT-10』がフルモデルチェンジ。ヤマハ発動機は新型を10月26日に発売すると発表したばかりだが、その開発チームを独占インタビューすることができた。

超フライングと言ってもいいだろう。最速インタビューとあって、もはや自制心が効かない。挨拶もほどほどに、前のめり気味で開発陣を質問攻めにした。第一弾はいきなり変化球だが、その「音」と「デザイン」についてだ。

ヤマハ MT-10 開発メンバーヤマハ MT-10 開発メンバー

【インタビュー参加メンバー】

鈴木 智一朗(プロジェクトリーダー)
PF車両ユニット PF車両開発統括部
SV開発部SP設計

中原重徳(BD実験 プロジェクトチーフ)
PF車両ユニット PF車両開発統括部
車両実験部 プロジェクトG

齋藤久典(サウンド担当)
パワートレインユニット PT開発統括部
第2PT実験部 PT実験技術グループ

多々良 涼(スタイリング&カラーリング)
クリエイティブ本部 プランニングデザイン部
プランニングデザイン1グループ

音にこだわる! さすがは楽器メーカー!!

ヤマハ MT-10ヤマハ MT-10

----:眉毛のある斬新なフロントマスクや最高速度を設定できる新たな電子制御など、聞きたいことは山ほどあるのですが、僭越ながら順序を無視して好奇心が向くままにお聞きします。タンクカバー上面の左右にある、新たに設置されたものは一体なんでしょうか!?

※一同、いきなりのド直球クエスチョンに戸惑いつつも笑みがこぼれる。

鈴木智一朗(プロジェクトリーダー):音の響きを強調する『アコースティック・アンプリファイア・グリル』で、吸気ダクトからの音とともに、吸気ダクト自体の振動である“ダクトの鳴り”をライダーに向けて発生します。

齋藤久典(サウンド担当):エアクリーナーボックスから断面積と長さの異なる3本のダクトが伸びていまして、それぞれの管長を細かくチューニングし、周波数の組み合わせで音づくりしています。ダクト自体が鳴る音もとてもいい音が出ていまして、スロットル開度に追従してサウンドが盛り上がっていく構造としました。

ヤマハ MT-10のサウンドを生み出す『アコースティック・アンプリファイア・グリル』ヤマハ MT-10のサウンドを生み出す『アコースティック・アンプリファイア・グリル』

鈴木:こうしたサウンドをライダーに向けてダイレクトに届けたいという想いから『アコースティック・アンプリファイア・グリル』を設けました。デザイン担当にも頑張ってもらい、見た目にもスタイリッシュに仕上がったと思います。

----:電気を使わない“アコースティック”な音の響きを増幅させるのですね。まるで楽器じゃないですか! バイクの“音”といえば、マフラーからの排気音が肝心と考えられてきましたが、いまや吸気音も重要なのでしょうか!?

齋藤:はい、とても大切だと考えています。マフラーからの音は絶えず出ていますが、吸気音はアクセルを開けたときにしか発生しません。エキサイティングなスポーツライディングを愉しむ際、吸気音によって高揚感が増し、加速時やコーナー立ち上がり時のトルク感に加え、サウンドでも走る悦びをライダーに伝えるのです。

ヤマハ MT-10 サウンド担当の齋藤久典氏ヤマハ MT-10 サウンド担当の齋藤久典氏

吸気音で目指したサウンドとは

----:たしかに、エンジンが空気を吸い込む音を耳にすると気持ちが高ぶります。どういうサウンドを目指し、開発したのですか?

齋藤:MT-10のクロスプレーン型クランクシャフトの4気筒エンジンは、もともと特徴的な音がしまして、低回転ではドコドコとしていますが、途中から音質が変わって甲高く伸び上がるようなサウンドとなっていきます。そのドコドコから気持ちよく伸びるところを、いかに堪能できるか、開発メンバーのみんなで試作車に乗り込んで、音づくりの方向性を決めました。

----:エンジン回転数でいうと?

ヤマハ MT-10ヤマハ MT-10

齋藤:4000~8000rpmあたりですね。トルクピークへ達するまでの加速感を音でも演出しています。『MT-09』でも断面積と長さの異なる3本の吸気ダクトを採用し、各周波数帯で共鳴させ、音圧をチューニングすることで中高回転域で官能的なサウンドを実現していまして、今回はその進化系と言えます。

----:マフラーの排気音だけでなく、エアを取り込む吸気音にまでこだわっているヤマハのバイク、いやはや面白いですねぇ。

鈴木:モデルの特性に応じてですね。MT-10やMT-09ではエキサイティングな走りをより強調するひとつの手段として、あえてつくったというのではなく、もともとある音をより活かして強調・演出しているという形になります。

眉のあるフロントマスクで個性の強い尖ったモデルへ

ヤマハ MT-10ヤマハ MT-10

----:個性といえばやはりデザインですが、新型のコンセプトを教えてください。

多々良涼(スタイリング&カラーリング):はい。MT-10の主なカスタマー層は30代後半から50代前半の比較的裕福な男性で、兄弟モデルからステップアップしてきていることがリサーチによってわかっています。エンジンおよび車体コンポーネントに対する評価は高いものの、トップモデルとしての所有感・質感に課題があることも開発チームは把握していました。

1000cc超のセグメントでMT-10は堅調な売上もトップセールスにはなれない現状が続きます。分析により、同クラスでは個性の強い尖ったモデルほど高く評価される傾向があることがわかりました。

従来モデルから受け継ぐ素材の良さを強調し、価値ポイントで磨き、進化させようと新型では狙っています。素材を磨くということろで、コンセプトを『The Darkest Diamond』としました。きらびやかにするのではなく、原石の良さを引き出すという方向です。

ヤマハ MT-10 のスタイリング&カラーリング担当 多々良 涼氏ヤマハ MT-10 のスタイリング&カラーリング担当 多々良 涼氏

----:ダイヤモンドですか。

多々良:ダイヤモンドの品質評価点は「カラット・重さ」「透明度」「色」「研磨・磨き」の4つなのですが、これをMT-10のコンセプトにそれぞれ当てはめました。

■ダイヤモンドの品質評価点:4C
Carat(カラット・重):迫力あるボリューム
Clarity(透明度):MTに特化したシルエット
Color(色):クールでダークな世界観
Cut(研磨・磨き):削いで磨かれた質感の高さ

----:なるほど。それにしても目と眉毛があるフロントマスクは個性的ですね。

多々良:社内で賛否両論ありましたが、ポジションランプやヘッドライトといったあるべきものをあるべきところに配置し、極力無駄なものを削いだ結果、先代に比べコンパクトなフロントマスクになりました。

----:ヤマハのデザインはいつの時代も先を行っています。慣れてくると、だんだんカッコよく見えるから不思議です。(笑)

ヤマハ MT-10ヤマハ MT-10

多々良:いま受け入れられるものだけでなく、この先、いつまでも飽きられない、2歩、3歩先を行くデザインを心がけています。慣れてくると、ポジションライトが目に見えるようになるんですよ。(笑)

----:(従来の)MT-10は見た目以上にウインドプロテクションに優れますよね。

鈴木:速度域の高い欧州の高速道路でも快適に移動してもらえるよう、形状や取り付け位置にこだわっています。小さいのに、こんなに効いているのというくらいに、効果絶大です。

変わらない。変えないことを選んだ

ヤマハ MT-10ヤマハ MT-10

----:ヘッドライトがハンドルマウントではなく、フレームマウントなのもMT-10らしさ。ハンドリングが軽いですよね。

鈴木:じつは、新型の開発段階でもハンドルマウントにするというトライもありました。ハンドルやステップの位置もミリ単位でいろいろと試した結果、やっぱり従来のままがいいと、引き継ぐことにしました。

----:フレームマウントであることは4気筒エンジンだから?

ヤマハ MT-10 プロジェクトリーダーの鈴木智一朗氏ヤマハ MT-10 プロジェクトリーダーの鈴木智一朗氏

中原:4気筒であることは関係ありません。ハンドルマウントにすると、操舵に重さが出てしまうのでやはりフレームマウントを踏襲したまでです。

----:カラーバリエーションも新鮮で、ホイールが外装と異なる色使いは目を引きます。サッカーや陸上の選手が、左右で違う色のスパイクシューズを履いているのをテレビで見たことがありますが、バイクのホイールも前後輪で色を変えてみては?

多々良:我々も検討したのですが、現状、メーカーがやるというのは……。

----:やるなら先を行くヤマハしかいないでしょう! 期待しています!!(笑)

《青木タカオ》

モーターサイクルジャーナリスト 青木タカオ

バイク専門誌編集部員を経て、二輪ジャーナリストに転身。多くの専門誌への試乗インプレッション寄稿で得た経験をもとにした独自の視点とともに、ビギナーの目線に絶えず立ち返ってわかりやすく解説。休日にバイクを楽しむ等身大のライダーそのものの感覚が幅広く支持され、現在多数のバイク専門誌、一般総合誌、WEBメディアで執筆中。バイク関連著書もある。

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