フロアマットビジネスから脱却せよ…デロイトトーマツ 執行役員 平井学氏[インタビュー]

フロアマットビジネスから脱却せよ…デロイトトーマツ 執行役員 平井学氏[インタビュー]
  • フロアマットビジネスから脱却せよ…デロイトトーマツ 執行役員 平井学氏[インタビュー]

100年に一度の変革、新車販売モデルの崩壊、地域のモビリティ拠点へ…自動車産業の業界再編についてセンセーショナルな文句が踊るが、これらの本当の意味や、本当のインパクトを実感している人はどれくらいいるのだろうか。

国内新車販売は、働き手不足やZ世代に代表される市場価値観の変化から、アフターコロナやエネルギー安保、サプライチェーンの不確実性まで変革過渡期の激動の時代を迎えているといってよい。市場が変わる、業界も変わらなければならないのはわかる。しかし、なにをどう変えればよいのか。どんな戦略があるのか。

来る6月24日に開催予定の無料オンラインセミナー 「自動車ディーラーのデジタル活用~トヨタ系販売店の事例最前線~」では、この疑問、業界の不安にひとつの指標を示すため先駆者・識者を招いた。このうちデロイトトーマツ コンサルティング 自動車セクター DXリード 執行役員 平井学氏は、コンサルタントとして国内自動車販売業者の課題に取り組んでいる。今回の講演概要について聞いた。

――セミナーではどのようなお話をされるのでしょうか。概要から教えてください。

平井氏(以下同):まず、業界を取り巻く状況の変化を整理します。その上でデジタルによる購買体験の再構築、ディーラーのデジタルトランスフォーメーション(DX)について紹介します。ここでは、ディーラー機能のあり方、OEMとの役割分担、ビジネスモデルの考え方などにも言及したいと思っています。これら背景情報と戦略の概要が見えてくると、変革の方向性を示すことができます。

ここでは、ディーラーやアフターマーケットの事業者がどうすればいいか、なにを変えればいいかを、なるべくわかりやすくイメージできるように、いくつかの事例を紹介したいと思っています。

――なるほど。セールスやアフターマーケットでは、新車のリース販売やサブスクリプション、オンライン販売やリモートメンテナンスなどがキーワードとしてあがってきています。実際、ディーラーの現場でも変革や対応の動きは見られるのでしょうか。

自動車ビジネスの変化、販売のデジタル化という話は2年ほど前からありました。質問や問い合わせの話題にあがることもありましたが、具体的なコンサルティングの問い合わせまではいかない状態でした。しかし、今年に入ってから相談や案件が急激に増えています。OEM系ディーラーに限らず、中古車販売業者や輸入車の販社・代理店などからもあります。

――各社の危機感が高まってきたと言っていいでしょうか。

はい。国内の新車販売は今後減少傾向、2040年までには現在の18%ほど減少すると言われています。多くのディーラーや事業者が、新車販売のマージンやメンテナンスパックによるビジネスだけでは立ち行かなくなるという現実を意識しています。

テスラ、ボルボ、ヒョンデ(IONIQ 5)などのオンライン販売、提携事業者を活用したサービス網、出張サポートなどの動きもあり、業界が培ってきたディーラーによる信頼の顧客サポートが揺らぐほどではないとしても、新車販売が減っている現実に、いまのままでよいという認識は薄れつつあります。市場の変化だけでなく、社会的な課題もこの危機感に拍車をかけています。いうまでもなく、整備士などの人手不足、なり手不足の問題。過疎化や労働人口の減少はローカルエリアで深刻です。

――市場の変化についてはどんな対策が必要でしょうか。

話は、単に販売手続きや注文をオンライン化すればいいという問題ではありません。ビジネスモデルそのものをデジタルシフトさせる必要があります。デジタルネイティブの世代は、車の情報収集は既存メディアだけでなくネットも多用します。販売員の説明を聞くより自分でネットの声を調べたりもします。来店する場合は一定の知識を持ったうえ目的を持ってきますので、昔ながらの接客ではうまくいきません。

オンライン、EC、キャッシュレスに慣れ親しんだスマホ世代、Z世代前提の接客、購買体験を提供する必要があります。たとえば、豊富なオプションなどもカタログで説明して売るよりオンラインで選びやすくするといった工夫です。高額なEVが増えればサブスクリプションやリースが増えるかもしれませんし、メンテナンスビジネスもオイル類やエンジン関係の消耗品・保守部品が減少していくかもしれません。それより充電プランや別のサポートや付加価値、顧客体験を提供しなければなりません。

――新車販売モデルから付加価値提供モデルへの変化ということですね。

OEMがディーラーに車両を卸し、ディーラーが集客と販売、メンテナンスを受け持つ。そして買い替えというサイクルが変わってきています。とはいえ、デロイトのアンケートでも8割くらいが実物を見たい、試乗をしたいというニーズが確認されています。

なんでもデジタル化、オンライン化すればいいとうわけではありません。店舗は依然として残りますし必要です。ただし、機能や役割の変化は避けられないでしょう。

――具体的にはどんな機能ですか。

店舗ならではの情報の提供、サービスの提供。ショールーム的な体験の提供も重要です。もうひとつ重要なのは、価格や値引きの透明性やわかりやすさの担保です。これまで車種やディーラーごとに値引きが違うのは普通でした。顧客も値引き交渉を含めた購入体験という面もありましたが、現在、これはむしろ不透明な価格、わかりにくいものとしてネガティブな評価につながります。

ディーラーとしても、従来型の値引きやオプションサービスによるビジネスは、本来管理コストがかかり効率がよいとは言えません。定量化しにくい値引き率の設定、細かいオプション設定や複雑な見積もりは、新車が普通に売れている時代は意味がありましたが、いまはその手間やコストに見合わなくなっています。

スマートフォンも0円端末のために複雑なオプションやサービスをつけるより、「アハモ」のような単純に通信料を下げたプランが受け入れられる時代です。

――なるほど「フロアマット」や「愛車セット」より、わかりやすい価格設定にしたほうがいいということですね。

もちろんすべてを一気に変えるということではなく、できるところからになりますが、自動車販売やディーラー機能の再定義は必要だと思っています。

機能の再定義の他に役割の再定義もあります。端的な例はコネクテッド車両が増えてくると、車両および顧客情報の管理をどうするかという問題が起きます。これまでは、ディーラーが顧客情報を管理していました。しかし、コネクテッドカーでは車両の情報は直接メーカーのクラウドに集約されます。

ここで、データのダブルマネジメントが発生しますが、顧客にとってはその区別はあまりありません。新しい個人情報保護法とも関係しますが、顧客が預けたデータは顧客が自由に制御できなければなりません。メーカーもディーラーもそれぞれが集めたデータはそれぞれのものだという考え方がなじまなくなっています。

情報漏えいリスクやコンプライアンスを考えると、データはユーザーのものとして管理して、OEM、ディーラー、整備とそれぞれに必要なデータをどうアクセスするか、適正にユーザーのために使えるか、という視点が必要です。
非常に難しい点ではあるものの、「ユーザー情報はユーザーのもの」という視点、同時に「既存ユーザーのリテンションを上げていく」という視点も、極めて重要です。国内市場は成熟期を迎えているとも言え、「買い替え」が新車購入の主たる動機です。ユーザー情報を活用し、ユーザーに徹底的に寄り添いながら、新たなビジネスの種を掘り起こしていく、こういった難易度の高い課題にディーラーは直面しています。

――最後にこのような課題に対応するために、ディーラーはどんな点を変えていけばいいのでしょうか。

ディーラーは古くから地域密着型を売りにしてきた側面があります。地方と都市部では状況が違いますので、一般化は難しいです。逆にいえば、地域ごとのディーラーの役割や拠点のあり方が変わってくると言えます。再定義のポイントは、地域ごとの課題や変化に対して、デジタルやオンラインをどう組み入れて事業を変えていくかということです。

商談のオンライン化、オンライン販売は表層的なものでしかありません。本質は、既存プロセスやOEMとの取引関係にとらわれない自立したビジネスを構築することです。

無料のオンラインセミナー「自動車ディーラーのデジタル活用~トヨタ系販売店の事例最前線~」は6月24日開催予定。詳細は こちらから。
《中尾真二》

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