【ミシュラン パイロットスポーツ5】タイヤのデザイナーに聞いた「より黒く見える新技術」とは

ミシュラン パイロットスポーツ5
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  • フルリングプレミアムタッチ(プレゼンテーションより)
  • ミシュラン パイロットスポーツ5(プレゼンテーションより)
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日本ミシュランタイヤの新世代スポーツタイヤ『パイロットスポーツ5』。そのデザインを担当した研究開発本部・PCタイヤ先行技術開発部の清井友広さんは、「特別な想いを持ってデザインを行いました」と今回の開発を振り返る。

「なぜなら従来のパイロットスポーツ4が、お客様から性能面でもデザイン面でも高い評価をいただいていたからです。その後継タイヤをデザインするというのは、我々にとって高いハードルでした」

足下を黒く引き締めるプレミアムタッチ

プレミアムタッチとの比較(プレゼンテーションより)プレミアムタッチとの比較(プレゼンテーションより)

パイロットスポーツ4のデザイン特徴のひとつに、サイドウォールの「プレミアムタッチ」があった。ミシュランマンや「MICHELIN」ロゴなどの背景を、マットブラックにするのがプレミアムタッチだ。

2013年に「公道も走れるサーキットタイヤ」の『パイロットスポーツ・カップ2』で初採用したプレミアムタッチだが、幅広いユーザーに向けたタイヤにこの処理を施したのはパイロットスポーツ4が最初。スポーツ4が2016年グッドデザイン賞(Gマーク)を獲得する要因にもなった。以後、『プライマシー4』などにも展開してきている。

これまで好評を得てきたプレミアムタッチを、どう進化させられるか? 「今回のパイロットスポーツ5では、より黒く見える新技術を開発し、それをサイドウォールのほぼ全周に施す『フルリングプレミアムタッチ』を採用しました」と清井さん。「この新しいデザインがタイヤを黒く引き締め、車両の美しさを引き立てます」

タイヤは黒い。しかし光が反射すると黒く見えない。黒く見えるようにするのは、表面に微細な凹凸を設けて光の反射を抑える=マットにする必要があるわけだが、その開発は一筋縄ではなかった。

筋彫りでは黒さに限界があった

プレミアムタッチ(プレゼンテーションより)プレミアムタッチ(プレゼンテーションより)

ミシュランではプレミアムタッチ以前から、ミシュランマンやロゴの周囲に凹凸ラインを施していた。断面の谷間は陰になって黒く見えるという狙いだったが、入射光の角度によっては凸断面の先端が全反射し、逆に白っぽく光って見えてしまう。

ビバンダムやロゴの背景を、もっと安定して黒く見せたい。そこで、「従来のものより遙かに細かい密度で凹凸ラインを入れた」のが、カップ2で生まれ、パイロットスポーツ4に受け継がれたプレミアムタッチだ。凹凸の断面もよりシャープにして、全反射する可能性を小さくした。

しかし、ひとつの断面を直線的に引き延ばした筋彫り形状である限り、入射光が全反射する角度はどこかに残る。今回のパイロットスポーツ5はそこの解消に挑んだ。

円錐状の突起が漆黒を生む

ミシュラン パイロットスポーツ5(プレゼンテーションより)ミシュラン パイロットスポーツ5(プレゼンテーションより)

「パイロットスポーツ5では、断面形状が根本的に違います」と清井さん。「どうすれば効率よく光を吸収できるか? それを考えて円錐形を並べたかたちにしました」

ビバンダムやロゴの背景に微細な円錐形を並べる。円錐の斜面に入射した光は反射しても奥に向かうだけで、表に出てこない。円錐の頂点は小さいので、全反射する光もほとんどない。「どの方向からの光も吸収できるのが、従来のプレミアムタッチとの違いです」と清井さんは胸を張る。

「ビバンダムやロゴとその背景のコントラストを、もっと強くしたい。そのために何ができるか? スタートはデザイン提案でしたが、我々だけでは実現できないので、エンジニアや金型のエキスパートなど、さまざまな人たちとアイディアを出し合って量産化にこぎ着けました」

製品で円錐形の突起になる部分は、つまり金型を円錐形に彫り込んでいるということ。清井さんによれば「レーザーを用いた切削加工」とのことだが、レーザー切削は面積に比例して加工コストがかかる。タイヤはサイズごとに金型を用意せねばならないことを考えると、「フルリングプレミアムタッチ」でタイヤのほぼ全周に加工するのはなかなか大変なことだ。

「おっしゃる通り簡単ではないですし、広い面積にレーザー加工するには技術的に高いハードルもありました。ただ、これまでさまざまなタイヤにプレミアムタッチを採用して蓄積してきた経験を活かして、なんとか実現することができました」

どこから見ても、マットな漆黒の新プレミアムタッチ。写真でもその効果は明らかとはいえ、これはぜひ実物で確認していただきたいと思う。

《千葉匠》

千葉匠

千葉匠|デザインジャーナリスト デザインの視点でクルマを斬るジャーナリスト。1954年生まれ。千葉大学工業意匠学科卒業。商用車のデザイナー、カーデザイン専門誌の編集次長を経て88年末よりフリー。「千葉匠」はペンネームで、本名は有元正存(ありもと・まさつぐ)。日本自動車ジャーナリスト協会=AJAJ会員。日本ファッション協会主催のオートカラーアウォードでは11年前から審査委員長を務めている。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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