【マツダ CX-60】魂動デザインの新表現が味わえる「7つの見所」

マツダ CX-60(欧州仕様)
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3月9日に欧州マツダが発表したマツダ『CX-60』は、新開発FR(後輪駆動)プラットフォームをベースとするラージ商品群の第1弾となるSUV。「ラージ」とはいえ、ボディサイズはBMWの『X3』にほぼ近く、日本でも大きすぎることはなさそう。国内仕様は4月上旬に発表予定だが、それに先立って、とりあえず写真でわかる範囲のデザイン特徴を紹介していこう。

見所1:FRならではのプロポーション

マツダ CX-60(欧州仕様)マツダ CX-60(欧州仕様)

まずはサイドビュー。ボンネットが長く、キャビンを後ろに寄せたプロポーションは、縦置きエンジンのFRならではのものだ。

マツダは、例えば『マツダ3』や『CX-30』のように、FF(前輪駆動)車でもキャビンを後ろに寄せる。キャビンの視覚的な重さがしっかり後輪にかかるようにするためだ。しかしCX-60で注目したいのは、前輪のホイールアーチからドア開口線までの長さ。マツダ3/CX-30よりずっとに長い。縦置きエンジンを活かして、Aピラーの根元を思い切り後ろに引いているのだ。

ちなみにこの前輪からドア開口までの距離を、メルセデスベンツやBMWのデザイナーは「プレミアム・ディメンション」もしくは「プレミアム・ディスタンス」と呼ぶ。多気筒エンジンを縦置きしてきた高級車の伝統を、その長さで示しているというわけだ。マツダCX-60もプレミアムに相応しい長さを、しっかり実現した。

もうひとつFF系マツダ車と違うのが、フロントオーバーハングの短さ。これは横置きFFでは望むべくもない。リヤもオーバーハングが短く、タイヤは理想的にボディの四隅に踏ん張る。

ルーフラインの頂点はBピラーの少し後ろくらい。マツダ3やCX-30はルーフの頂点を(言い換えればキャビンの視覚的な重心を)もっと後ろに寄せているが、CX-60はタイヤが四隅配置なので、それをやる必要がなかったのだろう。

ただ、とくにCX-30はキャビンの重心を後ろにすることで、猛獣が獲物に飛びかかる直前に後ろ脚に体重をかけるような緊張感を醸し出していた。それに比べると、CX-60はより安定感を重視したプロポーションと言えそう。フロントオーバーハングが短く、しかもノーズが分厚いために、グリルをグッと前に突き出すような勢いがないことも安定感重視に見える一因だろう。

見所2:厚みのあるフロントに新しいシグネチャー

マツダ CX-60(欧州仕様)マツダ CX-60(欧州仕様)

昨年11月にアメリカで発表されたCX-50はグリルのワイド感が印象的だったが、今回のCX-60のグリルは幅よりも高さ。SUVらしく、厚み感を強調した顔付きになっている。

このグリルを相対的により大きく見せるのが、コンパクトなヘッドランプだ。そこにも新たなデザイン要素を見ることができる。

メインプロジェクターを囲むL字型のDRL(デイタイムランニングライト)、縦に重ねたメインとサブのプロジェクター、さらにグリルのシグネチャーウイングの上端部分に仕込まれたイルミネーション。いずれも従来のマツダ車にはなかった新しいライティング・シグネチャーだ。これらがラージ系商品群の共通特徴になるのかどうか、今後の注目点である。

見所3:「RX-VISION」譲りの大胆な凹面使い

マツダ CX-60(欧州仕様)マツダ CX-60(欧州仕様)

『NDロードスター』で始まり、マツダ3以降の第2世代「魂動」で本格化した「引き算の美学」。もちろんCX-60も、ボディサイドにキャラクターラインなど一切使っていない。

第2世代魂動には2つの流儀がある。引き算によって生まれる「間」のスペースで、光の移ろいを積極的に表現するのがマツダ3やCX-30。逆に『MX-30』は移ろいを封印しながら、フォルム全体で動きのある表情を醸し出した。CX-60は前者だが、マツダ3/CX-30とはひと味違う。

コンセプトカーも含めれば、第2世代魂動の第1弾は2015年の「RX-VISION」だった。あのとき重視したのは、上下動のリズムを封印すること。『アテンザ』や『デミオ』など第1世代魂動は上下方向に抑揚するラインで躍動感を表現したが、そのラインを引き算しながら、魂動デザインの目的である「クルマに命を吹き込む」を実現したのがRX-VISIONの意義だった。

そこで導入したのが光の移ろいだ。ボディサイドのS字の映り込みがクルマの動きにつれて変化することで、生き生きとした表情をダイナミックに演出する。この手法がRXビジョンからマツダ3/CX-30へと受け継がれた。

しかしマツダ3・セダンやCX-30では、ショルダーから後輪へ光の筋が下降していく。マツダ3・ファストバックは逆に、ショルダーのハイライトがウエッジを描く。上下動のリズムがまだ残っていた。RX-VISIONとは違う。

CX-60はショルダーのハイライトを水平に通しながら、その下の「間」のスペースで光りの移ろいを表現。ドア開口線を見ればわかるように、かなり広い範囲で凹断面を使っている。それによって映り込みがU字もしくはS字に、大きく変化して躍動感を醸し出す。

これはまさにRX-VISIONでトライした手法だ。凹断面を大胆に使うことで、RXビジョンの魅力を量産車に再現したのである。

見所4:金属の輝きを持つロジウムホワイト

マツダ CX-60(欧州仕様)マツダ CX-60(欧州仕様)

欧州のCX-60のボディカラーは全8色の設定。そのうち新色のロジウムホワイトは、ソウルレッドやマシーングレーに続くマツダの「シグネチャーカラー」だという。

「シグネチャーカラー」とはつまり魂動デザインを象徴する色であり、原則的にはどの車種にも設定する色。ロジウムホワイトはおそらく、従来のスノーフレイクホワイトパールマイカに代わるマツダの新世代ホワイトになりそうだ。

ロジウムはクルマの三元触媒でお馴染みのレアメタルだが、装飾品を銀白色にメッキするときにも使われる。しかしロジウムメッキは白金メッキより高価だと言われ、今回のロジウムホワイトがロジウムそのものを使った塗料だとは考えにくい。ロジウムメッキの白く輝くイメージに基づくネーミングだろう。

欧州マツダによれば、ロジウムホワイトの特徴は金属的な輝きであり、一般的なホワイトパール(光輝材に鉱物の雲母を使用)よりハードに輝くという。では、どんな光輝材を使っているのか? 

ホワイト系で金属光沢を求めるならアルミを使ってホワイトメタリックにするのが普通だが、塗膜中でアルミがランダムに並ぶと光を乱反射したり、光の一部が吸収されたりして白さが鈍り、グレイッシュになってしまう。

それを避けるには、アルミを平らに揃えて並べなくてはいけない。マツダはソウルレッドやマシーングレーでその技術を開発してきたとはいえ、白さを確保するには、アルミをもっと平滑に並べるなど、何か新たな工夫が必要だったはずだ。

「シグネチャーカラー」にするからには、他社が容易に真似できないような独自技術が込められているのだろう。国内仕様でロジウムメッキを見るのを、楽しみにしたい。

見所5:ドライバー中心ではないインパネ

マツダ CX-60(欧州仕様)マツダ CX-60(欧州仕様)

インパネは水平基調のデザイン。魂動デザインのインテリアで左右方向の広がり感はいつものことだが、ドライバー席の雰囲気が従来と少し違う。

2014年のデミオ(現マツダ2)以降、マツダはドライバー軸に対して左右対称にベントグリルを配置してきた。インパネ全体の広さ感とドライバーのコクピット感を両立させるためだ。

例外はアテンザ/マツダ6で、2018年のビッグマイナーでインパネを一新した際に、ドライバー軸に対してではなく車両中心線に対して左右対称にベントグリルを配置した。今回のCX-60のインパネは、どちらかと言うとマツダ6に近い。

第2世代魂動のなかでもマツダ3やCX-30のインパネは、ドライバー側から助手席側へ広がるイメージで、主役はやはりドライバーという表現だった。しかしCX-60の車格ともなれば、同乗者への配慮も大事。運転席と助手席を等価に表現するため、インパネ全体を左右対称イメージでデザインしたのだろう。そこにマツダ6からイメージをつなげる意図が込められていたとしても、車格を思えば不思議はない。

インパネ両端には縦長のベントグリルがある。まるでドアトリムに食い込むようにベントグリルを置くことでインパネのワイド感を強調しながら、その左右方向に広がる勢いを縦長グリルでしっかり受け止めるというデザインだ。

見所6:FRらしいワイドなセンターコンソール

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ワイドで高いセンターコンソールは、その下に縦置きパワートレインがあることを示唆する。

『CX-5』に比べて、前席のショルダー高さで測った室内幅は44mm広い。センターコンソールのアームレスト部分の幅はCX-5より37mmワイドということなので、室内幅の拡大分の大半が左右席の距離を広げるために費やされたわけだ。

FRだからセンターコンソールの下にはトランスミッション(新開発の8速AT)があり、それが左右席の距離を広げる。左右席の間隔はインテリアの広さ感に寄与すると同時に、ワイドで立派なコンソールをもたらした。

そんなコンソールの上にワイドなヒーコンパネルを置き、ミドルパッドを挟んださらにその上には12.3インチのワイドなセンターディスプレイ。これまでのFF系マツダ車とは、コンソールからディスプレイまでのワイド感がまったく違う。

室内空間のセンター部分で広さを表現する。それがラージ系商品群の特徴になるのかもしれない。

見所7:本杢と織物で醸し出す魂動の美意識

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欧州向けCX-60では、“Homura”と“Takumi”という2つの上級グレードが用意されている。“Homura”は日本語ではおそらく「炎」。ブラック内装でスポーティだが、デザイン視点で注目したいのはむしろ“Takumi”のほうだ。

“Takumi”のインテリアはブラック&ホワイトにライトグレーを加えて明るくモダンなイメージ。白い革シートには上質なナッパレザーを採用し、センターコンソールやドアトリムの加飾にはメイプル(かえで)の本杢を張っている。

写真を見ると、メイプルではよく出る「縮杢(ちぢみもく)」を活かした杢目だ。不規則に波打つような縞模様が「縮杢」。光の当たり方で縞模様の表情が移ろうので、魂動デザインに似合う杢目と言えるかもしれない。

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“Takumi”のインパネ・ミドルパッドはファブリック張り。一見するとライトグレーだが、いくつかの色の糸を混ぜて織り上げた織物だという。そしてミドルパッドの中段にあえて隙間を設け、その上下をステッチで結ぶというユニークな手法も見せている。

三角形を描くこのステッチは和裁の「千鳥がけ」という縫い方を思わせるが、それとて糸が空間をまたぐわけではない。斬新だし、宙空に糸を張るのは量産製品として非常に大胆な試み。そこに漂う緊張感とある種の儚さ(はかなさ)は、魂動デザインの新境地と言えそうだ。

《千葉匠》

千葉匠

千葉匠|デザインジャーナリスト デザインの視点でクルマを斬るジャーナリスト。1954年生まれ。千葉大学工業意匠学科卒業。商用車のデザイナー、カーデザイン専門誌の編集次長を経て88年末よりフリー。「千葉匠」はペンネームで、本名は有元正存(ありもと・まさつぐ)。日本自動車ジャーナリスト協会=AJAJ会員。日本ファッション協会主催のオートカラーアウォードでは11年前から審査委員長を務めている。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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