【日産 リーフ 冬季1900km試乗】充電回数は14回、熱源がないBEVならではの問題をいかにクリアするか[後編]

豪雪地帯を走るリーフe+

熱源のないBEVならではの「着氷問題」

雪国こそ200A充電器が必要なのでは

初のビバーク、バッテリー60%あれば丸1日は余裕?

リーフe+のスタビリティコントロールが活きる

道の駅を発見!!・・・しかし冬季休業中だった。日産 リーフ で冬季1900km試乗。
  • 道の駅を発見!!・・・しかし冬季休業中だった。日産 リーフ で冬季1900km試乗。
  • 県境を越えて秋田に入り、横手手前の道の駅まめでらが~で小休止。コンビニ以外の店舗は営業終了している時間帯だったが、自販機でしょっつるの卵、横手焼きそばなどのお土産が売られているという面白さ。
  • 秋田の道の駅十文字まめでらが~にて。夜になって気温が急激に下がり、クルマへの着氷が著しくなってきた。
  • 横手で旧式の107A充電器で30分充電。実測マイナス6度の低温環境で推定19kWh入ったのはBEV黎明期から隔世の感があるが、雪上だとせいぜい航続80kmぶんといったところ。
  • 秋田市で今回初めてCHAdeMO 2.0準拠の高速タイプ、新電元の200A機で充電。29.9kWh、航続120kmぶんが入る。冬季のことを考えると今後、東北では200A以上をデファクトにすべきと思った。
  • 八郎潟から大館に向かう途中、の米内沢でコンビニに立ち寄り。過疎地だが物流トラックが夜間も通るため国道285号線沿線には数軒、24時間コンビニがある。
  • パウダースノーがまるでエアロパーツのような形状に付着。コンビネーションランプの雪は定期的に払わないと危ない。ワイパーにスノーブレードを装備しなかったのは今ツーリング最大の失敗。
  • アンダーボディにも空気抵抗に影響が出るほど着氷する。こちらもエアロパーツ的な形状。

鹿児島人である筆者が厳寒期の東北を日産のバッテリー式電気自動車(BEV)『リーフe+』で1900kmツーリングしてみたリポート。前編では、東京から福島、山形へと充電を繰り返しながら走った。後編では秋田に入ってから青森を経て横浜に帰着するまでの様子を、データを交えつつお届けする。

豪雪地帯を走るリーフe+

県境を越えて秋田に入り、横手手前の道の駅まめでらが~で小休止。コンビニ以外の店舗は営業終了している時間帯だったが、自販機でしょっつるの卵、横手焼きそばなどのお土産が売られているという面白さ。県境を越えて秋田に入り、横手手前の道の駅まめでらが~で小休止。コンビニ以外の店舗は営業終了している時間帯だったが、自販機でしょっつるの卵、横手焼きそばなどのお土産が売られているという面白さ。

東北内陸部を縦貫する国道13号線出羽街道。並行する東北中央道はまだ全通しておらず、山形~秋田県境区間はその13号線を走ることになる。県境の雄勝トンネルを抜けると、それまでとは違う雪が降っていた。あられを巨大化させたような大粒の雪がバラバラとフロントウィンドウを叩く。そして当たった瞬間粉々に砕ける。雨であれば夕立のごとく大粒の雨粒なのだろう。豪雪地帯の人々にとっては珍しくも何ともないのだろうが、鹿児島出身の筆者にとってそんな天候の中をクルマで走ること自体が新鮮な体験だ。

山形と比べても明らかに厳しくなった冷え込みの中を横手まで進み、充電。新庄からの走行距離は81.5kmでバッテリー電力残は新庄での充電完了時の50%から15%へ。推定電力消費量は19kWh。オンボード電費計値は4.4km/kWhだったが、実際はそれより少し悪い。家庭の電力消費量を電気メーターで簡単に計測できるように、BEVの電力消費量を測るのは内燃機関の燃料消費量を測るのに比べるとずっと高精度だ。実際、温暖期にはズレがほとんど発生しなかった。寒冷期にズレが出る理由は不明だが、低温環境ではバッテリーの放電効率が下がり、電費計に出ないロスが発生しているといったことが考えられる。

横手の充電器は日本のBEVユーザーには最もなじみ深い日産製の107A(公称出力44kW)。これまでで最も低性能な充電器だが、ここでも新庄で使った125A・50kW機と同様、30分充電のラストまで107Aのまま速度が落ちなかった。充電完了時のバッテリー充電率は新庄出発時と同じ50%で、ちょうど横手まで使った電力を補充した格好。19kWhの推定充電電力量も温暖期と同等だった。

熱源のないBEVならではの「着氷問題」

アンダーボディにも空気抵抗に影響が出るほど着氷する。こちらもエアロパーツ的な形状。アンダーボディにも空気抵抗に影響が出るほど着氷する。こちらもエアロパーツ的な形状。

山形では気にするほどではなかった問題が、秋田に入った頃から急浮上した。それはクルマへの着氷である。雪国を走っているとクルマの至るところが雪だらけになるのは、雪国の住人でなくともスキーに行ったことがある人ならある程度知っていることだ。とくに留意すべきはホイールハウスにたまった雪で、これを除去しないとタイヤが氷に接触してせっかくのスタッドレスが不要な摩耗を起こすし挙動は乱れるし、ステアリングの切れ角も制約されてしまう。

そのために持ってきた小型シャベルとハンマー。この程度はお見通しだぜとばかりに、早速除去作業に取りかかった。ちょっと氷が浮いたところを見つけ、シャベルをこじ入れていけば氷が板となってバリバリ落とせる。

…という考えは甘かった。その氷が強固も強固で、シャベルがまったく食いこまない。ホイールアーチからホイールハウスの奥まで雪ががっちり詰まり、低温で強固な氷と化している。そこで次なる兵器、ゴムハンマーを繰り出したのだが、衝撃を与えても与えてもてもこれまたびくともしない。

ええいままよと力を込めてブッ叩こうかとも思ったが、手元が狂ってうっかりボディを叩いてしまっては弁償モノだ。結局シャベルをノミがわりにしてゴムハンマーで柄を叩くことにした。大作に挑むミケランジェロのごとく延々氷と格闘し、充電が終わる頃にようやく前後輪ともタイヤと氷が干渉せずに走れるだけのクリアランスは何とか確保できた。が、サスペンションに氷は残っているし、サイドシルの下端には車体の構造とオス型メス型になるように氷が成型されてしまい、入り組んでいて除去するのはほとんど不可能。これではまたすぐに走行に支障を来すくらい雪がたまるだろうな…案の定、74.4km先の秋田市に着いた時にはまたもや同じ格闘を繰り広げることになった。

この氷問題はもちろん普通の内燃機関車でも起こることだが、筆者の過去のウィンタードライブの経験に限って言えば、ここまで強固な氷塊にはならない。これはBEVが熱源をほとんど持たないことによるものと考えられる。ホイールアーチやサイドシルだけでなく、ワイパー下部に氷がたまるのもBEV独特。ボンネットからの暖気がないので窓に付いた雪が氷の板となって際限なくたまっていくのである。この氷の板を落とすのも借りモノのクルマの塗装を傷つけないよう、結構神経を使う必要があった。

雪国こそ200A充電器が必要なのでは

横手で旧式の107A充電器で30分充電。実測マイナス6度の低温環境で推定19kWh入ったのはBEV黎明期から隔世の感があるが、雪上だとせいぜい航続80kmぶんといったところ。横手で旧式の107A充電器で30分充電。実測マイナス6度の低温環境で推定19kWh入ったのはBEV黎明期から隔世の感があるが、雪上だとせいぜい航続80kmぶんといったところ。

横手から74.4km走行し、充電残19%。推定消費電力量16.8kWh、電費4.4km/kWh。雪国では125Aや107Aなど低速なCHAdeMO 1.0の充電器を使うと1充電あたり80km程度の航続になってしまう。30分充電1回あたり1000円かかるとすると、同じ雪道を走る場合でもハイブリッドカーに走行コストで大敗することになるし、常に心許ない航続残で走行することになる。雪国こそ200A充電器が必要なのではないかと思った次第だった。

秋田市で使ったのは久々にCHAdeMO 2.0対応の200A充電器。今回のドライブでは初めての、見慣れた新電元の充電器であった。こちらは郡山、山形にあったシグネットの200A機と異なり、30分をトラブルなく完走。充電率は76%まで回復、充電電力量の表示は29.9kWh。目標の30kWhにわずかに届かなかったが、途中でダウンしたシグネットに比べれば上々のスコアである。

秋田市の次は内陸の町、大館へ。秋田で合流した国道7号線ではなく、ショートカットルートの国道285号線を選択した。マタギの里として知られ、また無医村問題で時折インターネット上で話題になったりもする上小阿仁村を通るルートで、筆者は初走行。八郎潟の近くで国道7号線から分岐後しばらく走ると民家のまったくないエリアに差しかかる。この時は深夜の時間帯で強めの雪も降っていたためほぼ闇夜という感じであったが、昼間なら日本三大美林である秋田の杉林が見られたはずだ。

ここに限らず東北の豪雪地帯の道は冬季閉鎖区間以外、夜中でも定期的に除雪車が走り回り、通行を保全している。その労力たるや大変なものであろう。そのおかげで国道285号線はサブルートである3桁国道であるにも関わらず、物流にも使われている。村の中心部などほとんど日本民話の世界だなと感じ入るほどの光景なのだが、たまにというレベルではなく時折、大型トラックとすれ違う。また人口密度わずか8人/平方kmという過疎地帯ながら、八郎潟手前の分岐から大館までの約70kmの間に24時間コンビニが2軒もある。

今日、日本では全国的に地方部の過疎化が急速に進行している。過疎化した自治体を廃してどんどん都市に人を集めたほうが効率がいいと考える人も多い。もちろんそれにも一理はあるが、筆者は個人的には賛同しない。理由はひとえに多様性である。

横手市や上小阿仁村のような特別豪雪地帯は住むだけで大変な場所だが、そういう逆境は往々にして、便利で平穏な暮らしの中からは生まれないような発想の源泉となる。もちろん筆者の郷里鹿児島の縁辺部や島しょ部もそうだし、宮崎内陸部の大森林地帯だってそうだ。皆が都会を志向し、地方においてもミニ都会を再現することに執心していては、発想もセンスも画一的になってしまう。こんなところにも人がいる…と言えるような状況をどのように維持、発展させていくかは日本の未来にとって大切なことだと思うのだが。

初のビバーク、バッテリー60%あれば丸1日は余裕?

秋田~青森県境近くの大館の手前でオンボード気温計はマイナス11度に。実測マイナス12度。アメダスの記録はマイナス12.3度。秋田~青森県境近くの大館の手前でオンボード気温計はマイナス11度に。実測マイナス12度。アメダスの記録はマイナス12.3度。

話をクルマに戻す。圧雪やアイスバーンの上に粉雪が降り積もった路面は一見平坦だが、実際にはボコボコである。隠れたワダチや落雪が方々にあり、アンジュレーションも場所によってはかなりきつい。リーフe+とブリヂストン「ブリザックVRX3」のコンビネーションはそういうコンディションでも実に素晴らしい快適性をキープした。

ブリザックVRX3はスタッドレスタイヤでありながらサイドウォールがしなやかでハーシュネスカットは秀逸。またトレッドの雪の噛み込みも良好で、いきなりツルッと行ったりせず、アンダーステアがGの高まりに比例して強まっていくという、実に好ましい特性を持っていた。ついでにドライ、ウェット路面での“ウォーン”という感じのスタッドレス的パターンノイズもほとんどなく、言われなければサマータイヤと思うのではないかというほど。10年ほど前にスタッドレスもほとほと良くなったものだと思ったことがあったが、まだまだ進歩はとどまるところを知らないようだった。

大館到着時の気温はオンボードでマイナス11度、実測マイナス12度。さすが内陸部の冷え込みは一味違う。秋田から108.6kmを走り、バッテリー充電率は23%。オンボード電費計値は4.2km/kWh、推定実電費は3.8kW/h。結構なハイペースだったことと、ほぼ全線にわたって新雪を被った路面であったことによる走行抵抗の増加の相乗効果か、電費低下ここに極まれりという感があった。救いはマイナス11度でも新電元の200A機での充電効率が落ちなかったことで、充電電力量は秋田市と同じく29.9kWh、充電率80%まで回復した。

この大館では第1回目のビバークテストを行ってみた。電源ON、エアコンの設定温度20度、内気循環、シートヒーターONの状態で寝るのである。どこでも寝られるタチの筆者にとっては上等すぎるくらいの快適環境である。寝過ごさないよう6時間の目覚ましタイマーをかけ、その後の記憶がないくらい即座に寝入った。

6時間経過し、ピピピピというスマホの音に叩き起こされた。眠い目をこすりこすり計器を見てみると…充電率は72%。6時間でSOC(ステートオブチャージ=バッテリーの実使用範囲)の8%、推定使用電力量4.3~4.4kWhというのは事前の予想よりはるかに少なかった。酷寒の外気を丸ごとヒーターで温めなければいけない外気導入だと電力消費量は増えるであろうが、万が一雪崩に道をふさがれてその場を動けなくなったり豪雪で立ち往生したりといった事態に陥っても、バッテリー充電率が60%くらいあれば救出後の移動を考えても丸1日くらいは余裕で乗り切れるのではないかと思われた。

リーフe+のスタビリティコントロールが活きる

酸ヶ湯へのファイナルアプローチは国道102号線。急勾配区間ではトラクションコントロールが働き、30km/hほどのスピードでじりじりと登る場面も。酸ヶ湯へのファイナルアプローチは国道102号線。急勾配区間ではトラクションコントロールが働き、30km/hほどのスピードでじりじりと登る場面も。

大館を出ると、いよいよ八甲田山の山麓にある酸ヶ湯温泉へ。急勾配区間はあるが、残量が65%もあればかなり走れるはずと思い、追いチャージはせずに出発した。青森に入り、大鰐で国道7号線から分岐する国道458号線は雪道のワインディングロードである。こういう道ではクルマのスタビリティコントロールシステムの性能が問われるのだが、リーフはトラクションコントロールだけでなく、そのスタビリティコントロールのチューニングもなかなか侮れない良さだった。コーナリング手前で減速して旋回に入ると、前輪が外に膨らみ始めるタイミングを見計らったかのように後輪のブレーキに制御がかかる。「今だ!!かかってくれよ」と思うのとほとんどズレがないのはクルマへの信頼感が高まるポイントだった。

その後、酸ヶ湯温泉まではさすがに頻繁な除雪も追いつかないくらいに新雪が降り積もっていた。救いは気温がマイナス10度以下と低温で、ワダチの間で盛り上がった雪がガリガリになっていなかったこと。最低地上高135mmのリーフe+ではさすがにロードクリアランスが足りず、バンパーでその雪をかき分けることしばしばだったのだが、傷ひとつ付かないまま乗り切ることができた。

冬の林間走行における罠は路面だけではなく、樹木からの落雪がある。地元の人たちが言うには路面の雪は柔らかくても、上から落ちてくる雪の塊はしばしば氷を含んでいて、屋根に当たると損傷することもあるという。もちろん走っている時に不意を突かれたら避けようがない。強風が吹いている時は梢が道路にかぶっていないところでちょっと待機し、風が弱まった時にそこを抜けるという作戦で標高925mの酸ヶ湯温泉に到達した。

当日の積雪量は438cm。さすが圧巻の雪景色であった。酸ヶ湯温泉は昔はひなびた温泉だったが、現代では日本一の豪雪温泉ということで冬でも多くの客が訪れている。駐車場には多くのクルマが停まっていたが、2輪駆動のクルマはチェーンを巻いた観光バスだけで、乗用車ではリーフe+のみ。パウダースノーの急勾配をものともせずよく頑張ったと褒めてあげたくなった。

肌をピリピリと刺すような酸性湯にゆっくりと浸かり、ドライブの疲れを癒した。酸ヶ湯温泉といえば混浴の千人風呂が有名だが、男女別浴と両方に入ってみたところ、刺激的なのは別浴のほうだった。あくまで体感だが、別浴のほうが濃度が高いものと思われた。

2時間ほど滞在の後、下山。元来は雪国に別れを告げて十和田のほうに下りるつもりだったが、バッテリー残量が何と23%しかない。筆者は冒険的なトライを平気でするほうだが、下り坂でしばらくは電力をほとんど使わずに行けそうとはいえ、途中に町がほとんどない約70kmの雪道にこの電力残でアタックする勇気はさすがになかった。帰り道が大幅に長くなるが距離が近く、かつ200A充電器のある青森市に向かうことにした。

充電リッドが凍結する

酸ヶ湯から十和田に抜けたいところだったが、電力残が僅少となっていたため青森市へ。夕暮れには再び雪が降りだした。酸ヶ湯から十和田に抜けたいところだったが、電力残が僅少となっていたため青森市へ。夕暮れには再び雪が降りだした。

大館からの走行距離109km、バッテリー充電率14%で青森市の充電スポットに到着。電費は推定4km/kWh。ここではスタート後はじめて充電リッドが凍結して開かないという経験をした。お湯をかければ簡単に解消するのだろうが、手近にお湯はない。リッド開放のボタンを押してから前に行っても、ぐずぐずしていると開かないまま再びロックされてしまう。リッドを掌底でドンドン叩いて氷の固着を崩したりと何往復かしているうちにようやく開けることができた。

ここの200A充電器はシグネット社製。福島、山形で充電途中、出力制限がかかったヤツだ。三度目の正直、今度こそは上手く完走してくれ…という祈りも空しく、前の2回よりも早い開始後22分で出力制限がかかってしまった。充電器自体に問題があるのか、リーフe+との相性が悪いのかは判然としなかったが、少なくとも新電元の200A充電器よりパフォーマンスは明らかに悪かった。試しにおかわり充電をやってみたところ、最初は高速が出たものの、3分台でふたたび出力制限。日産の充電サービス「ZESP3」は課金が10分単位なので、その途中で問題が生じると実にもったいない。2回の充電で合計26.0kWhをチャージ、充電率は62%となった。

青森市を出発後、下北半島の付け根の野辺地まではしんしんと雪が降っていたが、おいらせ町で買い物のために車外に出てみたら、久しぶりに降るような星空。知らぬ間に雪国と別れていたのかと思うと、少々名残り惜しい気がした。昨年八戸から宮城・仙台まで全通した三陸道、国道6号線、常磐道の太平洋沿岸ルートはずっと青天。ドライ路面になると電費は一気に回復し、氷点下の中を高速クルーズした区間でも5km/kWh台半ば、気温が6度まで上がった関東平野では6km/kWh台後半。雪道で航続に苦しんだのが嘘のようだった。

陸前高田では2回目のビバークテスト。外気温はマイナス5度。今度は外気導入でエアコン設定温度20度、シートヒーターONで6時間半過ごしてみたが、充電率の低落幅は15%と前回の倍近い数値になった。茨城の日立市で3回目のビバーク。内気循環に戻して4時間半車内で過ごしたが、充電率の低落幅は5%と、大館のときと同レベルの電力消費であった。万が一遭難したときは早期救出の見込みがあるというのでない限り、内気循環で乗り切るほうが断然よさそうだった。

まとめ

青森に入るとやおら津軽藩色が強まる。道の駅いかりがせきにて。青森に入るとやおら津軽藩色が強まる。道の駅いかりがせきにて。

こうして総走行距離1886.1km、途中充電14回に及ぶBEVでの冬季東北紀行は終わりを告げた。あらためて振り返ってみると、まず言えるのは雪国でBEVを運用する場合、市街地限定と決めている人以外はなるべく大容量バッテリーのモデルをチョイスすべきだということ。リーフe+であれば自宅で100%充電でスタート後、平均車速30km/hで圧雪路、シャーベット路を走るとして旅行時間にして8時間くらいは行ける。また電費が極端に落ちることを考慮すると、急速充電の受け入れ性もできるだけ高いほうが有利。リーフe+の場合、温暖期だと急速充電を繰り返すと充電速度が落ちていくが、寒冷地ではバッテリーが冷えやすいからか、14回に及んだ急速充電の中でフルスピードが出なかったのは帰路の仙台の200A機を使ったときだけだった。

雪道での走行コストは自宅で充電する場合、大幅に電費が悪化したとしてもなお非常に低コストだ。電費を4km/kWhと見積り、夜間電力契約などを使わず1kWhあたり30円/kWhで充電したとしても150円で20km走行可能な計算になる。石油系燃料が劇的に安くなればハイブリッドカーやディーゼルカーのトップランナーには負けるだろうが、それでも絶対的には安くすむことに変わりはない。

急速充電についてはどのスペックの充電器を使うかで状況が異なってくる。30分で30kWh前後充電可能だった200A機を使うのであれば、30分で1000円取られても大抵のクルマに優越できる。が、旧式な107Aや125A機だと雪上走行80kmぶんくらいしか入らないので、ガソリン価格が170円/リットルとして、13.6km/リットル以上走れるガソリン車やハイブリッド車よりコスト高になる。東北地方は200A充電器がきわめて少ないので、今後のインフラ整備に期待したいところだ。

雪上の走行性能という観点では、BEVを積極的に選択する意味は十分にある。ドライブ前はFWDで圧雪、パウダースノーの山岳路をどれだけ走れるか若干の不安を覚えたりもしていたが、電気モーター駆動ならではの繊細な制御で普通のクルマのAWDと互角とまでは行かずともそれに近いくらいの走りを見せ、一安心だった。リーフも次期型では同社の『ノート e-4WD』のように電動4輪駆動システム搭載グレードが新設されるかもしれない。雪国のユーザーにとっては楽しみなところであろう。

一方で、雪国への適合性を高める設計という観点ではリーフに限らずどのBEVもこれからの課題であろう。そもそも海外メーカーは日本の豪雪地帯のような特殊な環境に合わせたクルマ作りになど関心はないであろう。雪国への愛情は筆頭格のスバル以下、日本メーカーだけが持ち合わせていると言ってもいい。その愛情をBEVにも拡大させるとすると、熱源がなく着氷が著しいという点は要改善。限られた電力を着氷防止に使うのでは本末転倒なので、着氷しにくく、仮に氷になって固着したとしても落としやすい構造を研究するといいのではないかと思われた。

クルマの電動化が世界で叫ばれているが、電動化以外に対処法がないというくらい厳しいカーボンニュートラル目標を課すパリ協定の遵守を迫る欧州の仕掛けは、雪深い、国土が広い、電力が不足している等々、BEVに向かない生活をしている人々のことを切り捨てるも同然の暴挙でもある。一体誰のための環境なのかと言いたいところだが、日本政府や自動車業界には環境至上主義に向かう世界のトレンドを修正するような政治力はない。ここはひとつ、どんな過酷な環境にも適応するBEVを世界に先がけてモノにし、海外勢に目にモノ見せてやるようなクルマ作りを日本メーカーに期待したい。そんな思いを抱いたドライブでもあった。


前編 https://response.jp/article/2022/02/26/354624.html
《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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