【MaaS体験記】観光スポットをつなぐシームレスな交通手段とは…横須賀・三浦エリアの観光型MaaS

「みうらよこすかMaaS」アプリとは

みうらよこすかMaaSの観光体験

提案型のおすすめ観光スポット

三浦半島の周遊課題

観光客の「受け入れ側」のデジタル推進がカギ

うらりマルシェで「三浦・三崎おもひで券」をかざす
  • うらりマルシェで「三浦・三崎おもひで券」をかざす
  • 「みうらよこすかMaaS」アプリのチケット購入画面
  • 三崎港
  • 京急高輪駅の有人改札にある、まぐろのマーク(NFCカード)専用スタンド
  • 「京急バスフリー乗車券」画面
  • 三崎港魚市場食堂で「まんぷく券」をかざす
  • 三崎港魚市場食堂での刺身定食
  • 三崎港

今回の取材は、横須賀・三浦エリアにおける混雑・密を避けた新しい旅行体験の提供を目的とした観光型MaaSの実証実験だ。京浜急行電鉄が販売する「みさきまぐろきっぷ」のデジタル化をはじめとし、キャッシュレス決済(NFC認証)や、シームレスな乗り換え案内、リアルタイムの観光情報の提供により、三浦半島の周遊性向上を検証する。今回は、実際に「みうらよこすかMaaS」アプリを利用して、三崎港周辺で鉄道・バス・食事・お土産の購入までを体験できた。

三崎港三崎港

「みうらよこすかMaaS」アプリとは

本実証は、令和2年度の国土交通省による日本版MaaS推進・支援事業に選定された事業で、京浜急行電鉄、京浜急行バス、NTTドコモ、三浦市、横須賀市が取り組む三浦半島MaaS協議会が母体になる。本実証にはNTTドコモが提供する専用のiOS対応スマートフォン向けアプリ「みうらよこすかMaaS」を展開する。実証期間は、6月22日~7月21日まで。

本アプリでは、京浜急行電鉄が販売する企画乗車券「デジタルみさきまぐろきっぷ」を販売するほか、さまざまな交通手段の経路検索や予約、混雑情報の確認ができる。また、エリア内の対象店舗や観光施設などを観光マップから探すことができ、旅の途中でも「おすすめスポット」が通知される。さらに、NFC技術によりデジタルみさきまぐろきっぷ対象の駅、店舗、施設に設置されたNFCカード(専用スタンドなど)にスマホをかざすことで、電車の乗り降りや、食事券や施設利用券が非接触で利用できる。

「みうらよこすかMaaS」アプリのチケット購入画面「みうらよこすかMaaS」アプリのチケット購入画面

みうらよこすかMaaSの観光体験

品川の京浜急行高輪駅から三崎口駅まで電車で向かう。あらかじめ「みうらよこすかMaaS」アプリで「デジタルみさきまぐろきっぷ」をクレカ決済で購入する。このチケットには、京急電鉄および京急バスの乗車券、対象店舗での食事券や施設利用券が含まれる。紙券と同じ大人3570円だ。

駅の有人改札にある、まぐろのマーク(NFCカード)専用スタンドにスマホをかざして電車に乗車した。アプリ内にある「京急線乗車券」の「チケットをかざす」をタップし「スキャンの準備ができました」を表示した状態で、端末の先端のほうをNFCカードの中央部にかざす必要がある。1時間ほどして三崎口駅に到着。ここでも有人改札にある専用スタンドにスマホをかざして駅を出た。そこから京浜急行バスで三崎港まで向かう。京浜急行バスの乗り降りには、NFCではなくバスの乗務員にスマホ画面を見せる必要がある。電車とバスとで提示方法が異なるのは違和感があったが、今後統一されることに期待する。

京急高輪駅の有人改札にある、まぐろのマーク(NFCカード)専用スタンド京急高輪駅の有人改札にある、まぐろのマーク(NFCカード)専用スタンド
三崎港到着後、お昼前だったので三崎港市場の2Fにある三崎港魚市場へ行き昼食を食べた。新鮮なまぐろの刺し身と揚げ物もついていてボリューミー。こちらの受付でも、スマホ内にある「まんぷく券」画面で「チケットをかざす」をNFCカードにかざし、使用済みチケットID番号を店員に見せて受け付けてもらう。NFCカードで非接触に受付ができる一方、店舗側では手書きでID番号を書き控えていたのが印象的だった。

三崎港魚市場食堂での刺身定食三崎港魚市場食堂での刺身定食
昼食を済ませて、お土産を購入できる「うらりマルシェ」に移動。紙の「みさきまぐろきっぷ」を片手に持ちながらブラブラしてると、対象商品を扱っている店舗から直接声がかかる。今回はスマホの「デジタルみさきまぐろきっぷ」になるため利用可能かを確認した。店員が気づかない場合もあるため「デジタルの」や「スマホで」などを添えるとすぐに対応してくれる。こちらでも、スマホ内にある「三浦・三崎おもひで券」画面で「チケットをかざす」をNFCカードにかざし、使用済みチケットID番号を店員に見せて「三浦大根おろし」ドレッシングを購入することができた。

うらりマルシェで「三浦・三崎おもひで券」をかざすうらりマルシェで「三浦・三崎おもひで券」をかざす

提案型のおすすめ観光スポット

無事にお土産を購入できたので、京急バス、京急電鉄を利用して品川に帰る。帰り途中の電車でアプリの観光スポットを見ていたあと、しばらくすると「横須賀のおすすめスポットに立ち寄ってみませんか」という通知が届いた。三崎港周辺にいたときは通知はあまりなかったが、過去に一度訪れたこともある横須賀中央で降りようか迷っていたときだったので、この提案はちょうどよく、途中下車して横須賀中央で「海軍カレー」を買って帰ることができた。ちなみに横須賀中央駅では、有人改札が自動改札横にあり、窓ガラスに「まぐろのマーク(NFCカード)」が貼られているので、スマホをかざしてスムーズに入退出ができた。

今回は、行こうかどうか迷っていた周辺をアプリで見ていたこともあり、通知で届いた提案は、観光マップを見ていたからかGPSで場所を検知したからかはわからなかったが、途中下車する後押しにはなった。「デジタルみさきまぐろきっぷ」に含まれる京急線乗車券は、一方向であれば途中下車することができるとあらかじめ聞いていたこともあり、今回のように途中下車するキッカケを提案してくるのは、ちょうどよかった。

途中下車して向かった横須賀海軍カレー本舗途中下車して向かった横須賀海軍カレー本舗

三浦半島の周遊課題

今回の実証エリアである三浦半島は、有数の観光資源がたくさんある一方で、人口減少も相まって観光客の横ばい傾向が続いている。「観光スポットはたくさんあるが、それらが点在しており、うまく繋ぐ交通手段が課題としてあった」とNTTドコモの井ノ上氏は話す。

取り組みを進めている三浦半島MaaS協議会には、京浜急行電鉄、京浜急行バス、NTTドコモ、三浦市に加えて横須賀市が参画している。井上氏は「品川から三浦海岸、三崎港に来て日帰りする観光客も多く、横須賀市は通過型観光地と見られる場合もある。今回のMaaSを通じて、品川駅と三浦近郊の往復だけではなく、知らなかった観光スポットにも立ち寄れる動機を提供していきたい」と話す。

今回、MaaSアプリにすることで、乗車券や食事券などこれまで複数の紙券を財布に入れていたものを、スマホにすべて入れて持ち歩くことができることや、店舗や施設側でも紙券の回収や発送をデジタルに置き換えること、ほぼすべての京急電鉄の駅に設置したNFC技術の活用により、観光客の行動がリアルタイムでデータ化されることなどの利点をあげる。さらに、そのデータをもとにした提案型の情報配信は、一番フィットする情報だけに選別してお届けするというアプローチだ。集中しがちな三崎港近郊だけの旅行だけではなく、途中下車も含めた周遊にどれだけ貢献できるかがポイントとなる。

三崎港三崎港

観光客の「受け入れ側」のデジタル推進がカギ

電車に乗り、バスに乗り継ぎ、目的地に着いて観光を楽しむ。食事をしたりお土産を買ったり。この一連の流れをシームレスにしようとすると、すべての決済をひとつにまとめる必要がある。今回の実証実験は、まさにこの一連の流れをNFC技術を用いて実証する取り組みだ。

観光型MaaSと呼ばれる事業の多くが、スマホの画面を見せるデジタルチケットを採用しているが、今回の実証ではスマホの画面を見なくても非接触で認証できるNFCカードを採用している。専用リーダーが必要なQRコードでもないため、設置コストが安価で済み、目視チェックする手間も省ける。

「京急バスフリー乗車券」画面「京急バスフリー乗車券」画面
一方で、今回の実証ではバスの利用にはNFCは非対応で、ほかと同じように運転手の目視チェックを要する。また、食事やお土産の購入には、店舗側の対応にスマホ画面のID番号を控えるなどアナログ作業が混じっていたのが印象的だった。もともと紙券の利用が前提となるので、アナログでの受付はなくすことはできないというのも理解できた。

シームレスな観光体験には、観光客側だけの視点では解決できない面もある。デジタルデータを活用するのは、観光客ではなく事業者側(鉄道やバス、店舗や施設)だ。ピンポイントでデジタル化するステージは前提として、一連の観光客の流れをデータにもとづく科学的なアプローチに早期に移行していくことが求められる。

事業者側が、これまでのアナログからデジタルを活用するに至るためにも、今回の実習実験で得たデータを分析し、三浦半島全域での観光に役立ててもらいたい。

■MaaS 3つ星評価
エリアの大きさ:★☆☆
実証実験の浸透:★☆☆
利用者の評価:★☆☆
事業者の関わり:★★☆
将来性:★★★

坂本貴史(さかもと・たかし)
株式会社ドッツ/スマートモビリティ事業推進室 室長
グラフィックデザイナー出身。2017年までネットイヤーグループ株式会社において、ウェブやアプリにおける戦略立案から制作・開発に携わる。主に、情報アーキテクチャ(IA)を専門領域として多数のデジタルプロダクトの設計に関わる。UXデザインの分野でも講師や執筆などがあり、2017年から日産自動車株式会社に参画。先行開発の電気自動車(EV)におけるデジタルコックピットのHMIデザインおよび車載アプリのPOCやUXリサーチに従事。2019年から株式会社ドッツにてスマートモビリティ事業推進室を開設。鉄道や公共交通機関におけるMaaS事業を推進。

《坂本貴史》

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