上海モーターショー2021が「抱き寄せる」新たな変化

Arc Fox(上海モーターショー2021)
  • Arc Fox(上海モーターショー2021)
  • Arc Fox(上海モーターショー2021)
  • 智己 IM L7(上海モーターショー2021)
  • 智己 IM L7(上海モーターショー2021)
  • 智己 IM LS7(上海モーターショー2021)
  • 上汽通用五菱宏光MINI EV(上海モーターショー2021)
  • NIO ES6(上海モーターショー2021)
  • 奥動新能源(上海モーターショー2021)

世界的に自動車の電動化が進む。欧州諸国は2030年や2040年までの定量目標を設定し、グローバル大手の各メーカーも独自の目標値を打ち出している。自動車産業の変化の潮流を示す“CASE”4つの領域のうち、特に電動化に関しては2020年代を通じてさらに加速することが見込まれる。

2010年代、その牽引役となってきたのは間違いなく中国市場だ。大規模な補助金政策を取り、電池メーカーやEVメーカーの投資を奨励し、2020年にはコロナ禍にもかかわらずEV・PHVで年間136万台の市場規模にまで達した。中国にて大きなシェアを持つVWやGMの電動化シフトは、中国市場のこのような変化が背景にあったと考えられる。

4月19~28日に、その中国にて上海モーターショーが開催された。テーマは「〓抱変化(〓=手偏に用。日本語訳「変化を抱きしめて」、英文訳“EMBRANCING CHANGE”)」だ。電動化という潮流がもはや前提となるなか、次の変化が何であるかという点に注目が集まった。

1000社を超える展示や人々の動きを俯瞰して、ここでは3つの方向性を見出したい。一点目は、電動化によるIT企業の影響力拡大の動き。二点目は、電動化による小型車両の拡大。三点目は、電動化に伴う車電分離の萌芽だ。

電動化によるIT企業の影響力拡大

一点目として、今回、IT企業2社の動きが特に目立った。華為は北京汽車との合弁ブランドであるARC FOXを、アリババは上海汽車との合弁である智己汽車(IM)ブランドを出展した。両者のブースではともに今年販売開始する車両を展示し、多くの来場者を集め注目度の高さがうかがえた。これらの出展自体が、大きな変化の象徴と言える。

かたや米国市場でもGoogleやAmazonが自動運転技術の開発や新興ブランドへの出資という動きを見せており、最近ではAppleが自動車製造に乗り出すかどうかという点に注目が集まっているが、中国ではIT企業と自動車メーカーの合弁会社が、すでに完成車を一般向けに販売開始しようとしている。少なくともこの点では、中国市場のほうが進んでいるという見方ができる。情緒的な感想だが、様々な自動車ブランドが網羅的に集まる場に、当たり前のようにARC FOXや智己汽車が並んでいることで、改めてIT企業による自動車業界での影響力拡大が感じ取れた。

背景には、IT企業と自動車会社の資本力や技術開発力の違いがある。殊に日本市場では自動車会社の力が強いため同様の動きは起きにくいが、中国市場ではIT企業が強く、IT企業から自動車業界への様々な働きかけが可能になっている。実際、今回出展はなかったがテンセントやバイドゥも自動車会社との合弁を設立している。今後、様々な試行錯誤を繰り返しながら、華為らしい自動車、アリババらしい自動車というブランドが目指されていくと考えられる。

電動化による小型車両の拡大

二点目は、小型EVの動きだ。一般的に、普段は接しにくい車種を体感したいという思いからか、モーターショーではプレミアムブランドの自動車に人が集まる。しかしプレミアムでないにもかかわらず人垣ができていたのが、上汽通用五菱の「宏光MINI EV」シリーズだ。昨年、50万円を切る低価格から、グローバルでも中国でもテスラ『モデル3』に次いでEV販売ランキング2位となった車種で、今回のモーターショーでは新車種の展示がされていた。

昨年の宏光MINI EVのヒットで、このような小型EVの市場があることが日本でも知られるようになったが、一方で同社はもともと別ブランドにて低価格EVを年間数万台売り上げていた。また、車種ごとの販売台数は小規模ながら、小型の低価格EVメーカーは上汽通用五菱以外にも存在している。唐突に宏光MINI EVが登場したというよりは、底流には類似の動きがずっとあったと見るべきだ。

今後、このような小型EVは中国市場にてますます拡大することが想定される。というのは、これらの車種の主要ターゲットは地方都市や農村地域で、中国政府はこれらの地域でのEV普及を促そうとしているからだ。地方での充電インフラ整備と相まって、地方都市の都市内移動に特化した用途での普及拡大が起きると考えられる。宏光MINI EVでの人垣は、その可能性を十分に感じさせるものだった。

電動化に伴う車電分離の萌芽

三点目は、車電分離の動きだ。自動車の展示が中心のモーターショー会場で、ひときわ目を引いたのが電池交換設備だ。EVをすっぽり入れるガレージ程度の大きさのハコで、その中でEVをジャッキアップして電池を交換する。ウィーンという機械音とともに、もともとEVに入っていた電池を取り外し、満充電の電池を取り付ける作業を自動で行うものだ。この設備は新興ブランドのNIOと、電池交換設備専業の奥動新能源がそれぞれ展示していた。その様子を間近で見ようと、多くの人がスマホでの撮影を試みていた。

EVは電池コストのせいで高価格になるとよく言われるが、逆に言えば、電池を自動車から切り離して流通させることができれば電池自体による市場を形成させることができる。この点に注目し、中国で起きつつあるのがこのような電池交換サービスだ。そのコアデバイスとして電池交換設備が位置付けられている。現在その交換時間の早さが競われており、モーターショーでは奥動新能源は20秒で交換できることを強調していた。

このような電池交換が今後どこまで普及するのか、予断を許さない。類似の動きはこれまでもあり、必ずしもうまくいったわけではなかった。一方で中国政府自身も車電分離には積極的で、奥動のサービスを上海汽車や吉利汽車など様々なメーカーが受けると表明している。今回は2社による展示に留まったが、来年のモーターショーではさらに進んだ動きが見られるのかもしれない。

個別に注目される動きは他にも様々ありつつも、全体としては上記の3点を特に挙げることができる。テーマの英訳にある“enbrace”とは、「抱きしめる」というだけでなく「利活用する」という意味もある(らしい)。電動化という変化をしっかりと受け止めたうえで、次の打ち手をどうするのかという観点から見ると、この3つはそれぞれ新たな変化を生み出す動きと考えられる。モーターショー終了直後の今から、来年のモーターショーまでの中国市場の変化が楽しみになる。

《程塚正史》

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