【池原照雄の単眼複眼】CASE実装で日本の物流を変える---「あり得ない」を超えたトヨタ・いすゞ・日野の協業

3社提携を発表したトヨタの豊田社長(中央)、いすゞの片山社長(右)、日野の下社長
  • 3社提携を発表したトヨタの豊田社長(中央)、いすゞの片山社長(右)、日野の下社長
  • トヨタが開発した小型FCトラックとセブン-イレブンの店舗イメージ

脱炭素とドラーバー不足などの課題に立ち向かう

こうした切り口での協業復活もあるのかと驚かされた。トヨタ自動車と商用車大手のいすゞ自動車および日野自動車が提携し、次世代技術・サービス群である「CASE」の展開を小型トラック分野を中心に加速させるというのだ。

3社の発表会見によると、提携ではいすゞと日野が培ってきた商用車の事業基盤に、トヨタが先行するCASE(コネクティッド、自動運転、シェアリング、電動化)技術を組み合わせ、その社会実装を進めていく。具体的には、電気自動車(EV)と燃料電池車(FCV)の共同開発による電動化の推進をはじめ、商用車版のコネクティッド基盤のオープンな構築などを図る。

これにより、物流のかなめでありながら、低効率やドライバー不足といったトラック輸送業界が抱える課題の解決とともに、脱炭素による「カーボンニュートラル社会」実現に貢献する狙いだ。協業推進に当たり、3社は共同出資による新会社「コマーシャル・ジャパン・パートナーシップ・テクノロジーズ」(東京都文京区)を設立し、4月から事業に着手している。同社にはトヨタが80%、いすゞと日野が10%ずつを出資し、社長にはトヨタの社内分社組織である「CV(コマーシャルビークル)カンパニー」の中嶋裕樹プレジデントが就いた。

新会社は3社での議論を踏まえ、商用車におけるCASE技術やサービスの企画を担っていく。さらに、このプロジェクトの円滑な構築や推進を図るため、トヨタといすゞは再び資本提携する。トヨタは、いすゞが実施する第3者割り当てによる自己株式の処分により、議決権ベースで5.02%分のいすゞ株を428億円で取得する。いすゞも同額分の市場買い付けによってトヨタ株を取得する。

苦い決別から3年、異例の復縁へ

両社は2006年に、米GM(ゼネラルモーターズ)がいすゞへの出資を引き揚げるのを機に、トヨタが6%弱を出資し、共同で乗用車用のディーゼルエンジン開発などに取り組んだ。しかし、具体的な成果がないまま、18年8月に両社は資本提携を解消していたので、3年ぶりの復活となる。

この提携が不調に終わったのは、それぞれが「余りにも自社の技術にこだわり過ぎたから」と、関係者から聞いたことがある。こうした苦い思いで別れると、復縁はなかなか難しい。ましてや今回の提携には、トヨタが50.1%を出資するトヨタの連結子会社の日野も加わっている。いすゞと日野は、合計で国内商用車シェアの約8割を保有する強力なライバルでもあるのだ。

「あり得ない」と思われる3社が新たな協業に踏み切る背景には、CASEという新技術・サービス群の台頭とカーボンニュートラルという世界的な社会課題の存在がある。提携発表会見の席上、トヨタの豊田章男社長は、日本では「商用車は保有車両全体の2割と少ないが、走行距離は4割を占めており、CO2(二酸化炭素)の排出量は年7700万トンと車両全体の約半分(4割)となっている」と、数字を挙げて商用車の環境負荷の実情を示した。

最大のライバル関係はこれからも不変

自動車部門でのカーボンニュートラル化を進めるうえで、トラックやバスといった商用車への対策強化が避けて通れないのだ。そこで、車両の電動化とともに、コネクティッドによる輸送の効率化などで環境負荷の抑制を実現していくこととした。コネクティッドでは輸送業界の省力化などを通じで、人手不足といった慢性的な業界課題の解決にもつなげる構えだ。

3社提携に踏み出すきっかけについて、豊田社長は「商用車でCASE技術を使っていただくためにユーザー視線で考えると、(水素ステーションやコネクティッド基盤など)インフラとセットで車両に実装することが最も大切との考えに至った」と指摘した。一方、日本の自動車関連産業の就業者は550万人規模であり、うち輸送部門にはほぼ半数の270万人が従事する。それは完成車や部品・車体製造部門の88万人の3倍以上に達する。「3社の強みを生かせば輸送の現場で困っている多くの仲間の助けになるのではないか」(豊田氏)と、「550万人」の視点からも協業の意義が見えてきたようだ。

いすゞの片山正則社長は、会見の冒頭「日野自動車は最大のライバルであり、日々世界中で闘っている。それはこれからも変わらない」と強調した。国内シェア8割の連合となるので、競争政策当局への配慮をにじませた格好だが、カーボンニュートラルいった「公」のためには、日夜争うライバルという「私」の事情を置いてでも組むという決意が伝わってきた。3社は「志を同じくする他のパートナーとの連携」についても、オープンに対応する方針でいる。物流は強い産業に欠かせない足腰であり、オールジャパンの取り組みへの広がりを期待したいところだ。

《池原照雄》

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