【ホンダ アコード 新型】世のため人のためになるデザイン…エクステリアデザイナー[インタビュー]

ホンダ アコードデザインスケッチ(初期)
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10代目ホンダ『アコード』のデザインは、新たなパッケージングによるスポーティーな走りをいかにスタイリングで表現するかを追求して完成したという。そこでエクステリアデザイナーにどのような思いでこのデザインを仕上げたのか話を聞いてみた。

世のため人のためになるデザイン

新型アコードのエクステリアデザインを担当した广汽本田汽車研究開発有限会社商品企画室企画造形科科長兼造形係係長の森川鉄司さん(現中国赴任中)は、2016年5月に日本おいて発表された9代目アコードのマイナーチェンジも担当。その成果を、「自画自賛するわけではないが良い仕事ができた、もう思い残すことはないと思っていた」と評価。続けて「フルモデルチェンジをやれといわれてえ~っ!とびっくりした(笑)」と本当に驚いた様子だ。

ただし、先代のマイナーチェンジを取り組んだ際に、「次のアコードに上手く橋渡しができるかを考えていた。従って言い換えると奇しくも末永くお客様のことを考えながら開発できるチャンスをもらえたので、とても感謝したことを覚えている」と教えてくれた。

その橋渡しとは、「その時その時の最適価値を渡していくこと」と森川さん。「マイナーチェンジの時には条件が限られる。一方、これからのホンダのビジョンも伝えていかなければいけない。私はデザインセンターにいる人間なので、そういったものを全部理解しながら日々お客様への価値を作っている。そういったことを踏まえながら、(先代の)マイナーチェンジでやらなければいけないことをやりきった後に、(再びアコードの担当になったので)次のホンダのデザインビジョンを含め、末永くホンダのフラッグシップとしての信頼感につながるデザイン手法はどういうものか、そのくらい俯瞰した考え方で(新型の開発に)望んだ」とその心意気を語る。ホンダ アコードデザインスケッチ(初期)ホンダ アコードデザインスケッチ(初期)

森川さんは、「これまでいろいろな機種をやってきて、自分がやったデザインは格好良いとか、ともすると自分のためにデザインしているような思考も若い時にはあった」としたうえで、「今回はそうではなく、アコードとしてどういうものがお客様に与えられるのか。その結果、本当の意味で“世のため人のためになるデザイン”ができたのがアコードのフルモデルチェンジだ」とコメントする。

“世のため人のためになる”とはホンダの創業者、本田宗一郎の考え方に沿うように感じる。森川さんは、「ものづくりに対する真理はそこかなとつくづく思っている」という。「新型アコードは格好良いといってもらえるが、決して格好のためにデザインしたわけではなく、見た瞬間に走りや性能をデザインで表現できるか。クルマには説明書があるわけでもなく、その都度説明員がいるわけでもない。エンジンの性能も乗り心地も内装の質感も全て見た瞬間にちゃんとお客様に伝わらないといけない。それをどうしたらやれるだろうと思った結果、お客様から格好良いねといってもらえているのだろう」と述べた。

初代から受け継ぐMM思想

アコードのエクステリアデザインのキーワードは“クリーン・スポーティ・マチュア”だ。森川さんは、「今回のアコードは走りとデザインを目指そう。パッケージングから来るスポーティーな走りをいかにスタイリングで表現するかを考えた時に、シンプルに出てきたのがこの3つの言葉だった」と話す。

その一方でアコードというクルマが初代から受け継いできたイメージもある。それは「MM(マンマキシム・メカミニマム)思想だ」。「ホンダのこれからのMM思想は歴代アコードが最初の打ち出しの役割を担っている。その時代時代で相応しいMM思想は、その時でやり方は変わるものの根っこの部分は変わらない」という。ホンダ アコードデザインスケッチ(初期)ホンダ アコードデザインスケッチ(初期)

具体的に今回そのMM思想をエクステリアで表現したところはどこか。森川さんは、「エクステリア、インテリアともに関係するが、フロントピラーを手前側(室内側)に引いたことによる視界の良さ。それと同時にホンダのフラッグシップであるアコードの堂々たる車格感を表現するためにピラーを引いた結果、フードがどんとダイナミックに押し出している。そういった部分を存分に表現するのが、走りとMMの両立なのだ」と述べる。

そして、「本当に視界が良い一方、フードがどんと突き出しているが、それが邪魔ではなく、目印にもなる。その結果、入力している先のフード周りやタイヤの操舵角が、自分の手の内に入るような感覚を持ってもらえるだろう。これはやはり内外ともにMM思想から来るもので、そう感じられる新しいアコードの魅力が打ち出せた」と語る。

光のコントラストにこだわり

さて、今回森川さんが10代目アコードをデザインするにあたり、最も大事にしたことは何だろう。それは前述したとおり、「このクルマをぱっと見た瞬間に、走りや運転のしやすさなど、クルマの内なる性能が目に見えるデザインだ」という。

具体的には、「タイヤに絡みつくようなサイドパネルだ。例えばタイヤが地面にしっかりと踏ん張り、そこにボディがぎゅーっと巻きつくイメージ。またフリーウェイでさっとアコードに追い抜かれた時の、サイドからリアに向かって流れていく光のイメージなど全てのドラマチックな印象を大事に造形した」と説明する。ホンダ・アコードホンダ・アコード

そのサイドビューではショルダーラインの上に大きな面が取られており、そこがとても特徴的だ。森川さんは、「開発の初期段階に、ロサンゼルスのスタジオで基本的な造形作業を行ったが、そこで一番重視したポイントだ」という。

「走りとデザインを表現するにあたって、光のコントラストでスポーティーな低重心感を表現しようと思った」と森川さん。しかし、「日本の和光スタジオだけでクレイモデリングをした後に、現地の光に照らすとあれ?こうじゃなかったのに、まだまだ足りない、というところが出てしまう。そういったところを現地の光で確認をしながら、約1か月近く毎日のように試しては屋外展示場に出して確認してを繰り返した。そして最後の最後によしこれならいけるというところを見つけて日本に持ち帰って、後はその部分はもう変えないで、細かいエリアにどんどん移行していった」と開発の流れを説明した。

ここまでのこだわりの理由は、「このクルマは光のコントラストが勝負」だからだ。そこで、「工場サイドにも光のコントラストの魅力を初期段階から伝え、生産現場とも対話しながら実現していった。なので、肩ごしの光がパンと表現できたのは我々デザイナーのみのこだわりだけではなく、チーム一体となって表現努力した結果なのだ」とのことだった。ホンダ・アコードホンダ・アコード

低重心感を強調するために

もうひとつ特徴的な造形を挙げるならばサイドシル周りだろう。森川さんは、「下半身となるボディと、上半身のキャビン、ガラス周りが、上下で被さったようにではなく、一体感を持って低重心感を表現したかった。先代アコードは、ガラス周りのメッキモールはぐるっとガラスを1周する格好でメッキを配していたが、今回はベルトライン側のメッキはない。その代わりサイドシルのところにメッキを置き、キャビンから下半身まで一体に見えるような効果を狙っている」と説明。

また、そのサイドシル辺りは、「乗り降りが厳しくなりかねないようなでっぱり形をしている」と森川さん。しかし、「走りとスポーティーをエクステリアで表現するためには、ここまでサイドシルを引っ張り出して下周りに光を寄せて、低くするように見せたいという意思がある」とし、「BMW『5シリーズ』相当のサイドシルの張り出し量。これが本当にいいのかどうかを研究グループと議論に議論を重ね、このクルマはミニバンでも軽自動車でもなく、プライドを持って乗るお客様のセダンなんだ、セダンに相応しい足抜きの数字を決めようという結果、最後に結びついたサイドシルの飛び出し量だ」とこだわりを語る。ホンダ・アコードホンダ・アコード

更にその部分のキャラクターラインは、「スリークなキャビンで、今までの3ボックスとは違いかなりクーペライクだ。そこで後ろの方でグッと覆いかぶさるキャビンを下回りできゅっと受け止める効果を狙った」と述べるが、「こういったディテールは局所でしか見なくなってしまいがちだが、開発している時にダイレクターからいわれたのは、余計な線はいらない、クルマの塊だけを見ろというアドバイスがあり、そこから求めた形だ」と森川さん。

「余談だが中国市場でいろいろなリサーチを行ったが、この部分を気に入ってくれているお客様が多かった。中国はセダン市場が大きくいろいろなセダンが存在するが、その中でもひときわここはお客様に気に入ってもらえているところだ」とのことだった。ホンダ・アコードホンダ・アコード

Cピラーの位置

このスリークなキャビンを造形するために、アコードとしては初めてクォーターウインドウを採用するとともに、Cピラーの延長線がリアホイールアーチにかからなくなった。近年多くなったこのデザインだが、実はリアホイールに荷重がかからなく見えることで、違和感を覚えるクルマも散見される。しかしアコードはそう感じさせていない。

その点について本田技術研究所デザインセンターオートモビルデザイン開発室テクニカルデザインスタジオチーフエンジニアデザイナーの古仲学さんは、「従来型のアコードではピラーの部分とドアのカットライン、乗り降りの開口部分が完全に一致したデザインだった。しかし今回はより伸びやかにスリークに見せたいので、なるべく後ろにグっとキャビンを弓なりに引っ張った動きを持たせた」とボディ形状を説明。そして、「ウインドウの上端部分にメッキを走らせて、それが最終的にリアコンビに向かっていく。そういう視覚的効果も合わせながらピラーの形状を形取っていった」と述べる。

Cピラーの形状と位置については、「通常であれば、ピラーが最後にタイヤにグッと巻きつくように戻っていく手法を取っているセダンも多く、ある意味オーソドックスな手法だ」としたうえで、「アコードは違った見え方にチャレンジしたいので、あえてピラーの太さやタイヤに絡ませることよりも、キャビンの伸びやかさ、外から見ても後席も気持ちいい空間なんじゃないかなということが分かるようなところを狙っている」と説明してくれた。

また、リアホイールと荷重に関しては、「ベルトライン側のCピラーにかかってくるところを少しキックアップさせた。通常ではそのまままっすぐに流してしまうが、その動きを使ってキャビンの後ろの重心がリアのタイヤにしっかり乗っていることを狙っている」と解説。因みに「サイドシルの前側も少しピックアップさせているような動きを持たせているが、これはベルトラインのキックアップをリフレインするようなイメージもある」とした。ホンダ アコードデザインスケッチ(後期)ホンダ アコードデザインスケッチ(後期)

古仲さんは、「エキセントリックなことを最初から狙いすぎると、どうしても狙った(いやらしい)デザインに見えてしまう。今回は虚飾や無駄な線を排することが最初にやるべきことだった。そして最終的にはディテールに徹底的にこだわって、ちょっとした動きや最後にタイヤに向かっていく部分もしっかりと残す。そういうディテールにこだわっていった。大きなデッサンは非常にダイナミック、シンプル、スポーティーでマチュア。これはエクステリアのデザインコンセプトでもあるが、ディテールを含めて徹底的に熟成させ、手を入れるところがもうこれ以上ないというところまで詰めていった」という。

中国では若い女性にも好評

現在中国に赴任中の森川さん。現地でアコードは好調に販売が推移していることから、その評判を聞いてみると、「いろいろな場面でお褒めの言葉をいただくが、嬉しいのが、一見するとすごく普通なのだがすごく格好良いといわれること。ぱっと見た時にアコードが一番スポーティーですごく速そうなど、クルマを見た時の一番大事な根っこの部分を褒めてもらえている」とコメント。

そして、「これまでのアコードはどちらかというと商務車、ビジネスでおじさんが乗るようなクルマというイメージがすごく強かったが、今は全くそういうイメージで語られることはない。面白いのは20代の女の子が格好良いといって買ってくれる。ユーザーの購買層の裾野が広がり若者が憧れる大人のクルマと捉えられているようだ」と高評価の様子を語ってくれた。

《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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