プラスチックは次世代車両の隠れた要、素材の目利きで新しいビジネスソリューションを提案するクラレ

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プラスチックは次世代車両の隠れた要、素材の目利きで新しいビジネスソリューションを提案するクラレ
  • プラスチックは次世代車両の隠れた要、素材の目利きで新しいビジネスソリューションを提案するクラレ
  • PMMA/PC複層板「パラマイティー」により偏光サングラス使用時の車載ディスプレイ視認性が向上する
  • 加飾フィルム「パラピュア」は接着が難しいポリプロピレンへの加飾が可能、塗装代替技術として注目されている
  • ガソリンタンクの樹脂化に大きく貢献した「エバール」
  • 「エバール」のフィルムは食品、医薬品等の包装のほか、真空断熱板、壁紙など多様な分野で使われている。
  • ケチャップボトルで使用されていた「エバール」の高いガスバリア性をヒントにして誕生した樹脂製ガソリンタンク
  • 燃料蒸散規制強化への対応のため、タンクだけでなく給油口からタンクへの配管へも「エバール」が使用される
  • 「ジェネスタ」を用いて出力ギアを小さくすることにより、アクチュエーター部品の小型化が実現する

プラスチックなど樹脂製品の自動車における利用率はおよそ30%と言われている。車両に対する環境性能や快適性の追求から、車両の樹脂化比率は年々高まっており、いまやトラックの板バネさえ樹脂素材に置き換えが可能になっている。

この傾向は、もちろんCASE車両といった次世代車両の開発においても引き継がれているが、化学素材メーカーは小さいネジ工場からクラウド上のサービスプロバイダまで、おおよそ全産業に広がる自動車OEMサプライチェーンの中では埋もれがちだ。しかし、高分子素材、添加剤や乳化剤がなければ、グリップ性能と耐久性、氷上性能とドライ性能などを両立させたタイヤの開発は不可能なように、ケミカルインダストリーに依存する領域は意外に広く、ときには車両性能をも左右する。

CASE車両であれば、バッテリーセルのラミネートフィルム、セパレータ、電極素材、さらに車載コンピュータや通信モジュールなど電子回路基板も樹脂フィルム化が進んでいる。FCVについても、軽量高耐圧タンクへのケミカル新素材利用が注目を集める。結果、CASE車両でなくとも、軽量化や静粛性、剛性や強度確保、デザインの自由度といった理由から、多くのコンポーネントが樹脂製品に置き換えられているのだ。

基礎研究能力とビジネスソリューションを両立させる

クラレの素材は、生活雑貨から自動車まで幅広く利用されている。ここで紹介した素材や技術以外にも、高剛性遮音中間膜(薄膜ガラス)、活性炭、不織布、面ファスナー、PMMA/PC複層板、液状ゴム、高反発・低反発素材、人工皮革、アクリル樹脂、金属調加飾フィルムと、自動車に応用できるものだけでも引き出しは豊富だ。それだけプリミティブかつ独自性の高い素材技術と製品を持っているという証左だが、課題もある。

クラレが製造するパラペットは定番製品となっているPMMA/PC複層板「パラマイティー」により偏光サングラス使用時の車載ディスプレイ視認性が向上する

それぞれは市場で高い競争力を持つが、社会的な課題や企業ニーズとの間をつなぐソリューション開発が手薄なことだ。自動車業界であれば、環境・安全・快適といったマクロなニーズがある。環境性能であれば、軽量化・電動化・低エミッションといったニーズにかみ砕くことができる。安全ならばセンシングやインテリジェント機能、UIだ。快適性ならばノイズや振動対策(NVH低減)、脱臭・防塵・抗菌となるだろう。

クラレでは、このようなニーズと素材を結びつけるソリューション開発に力を入れている。たとえば、樹脂化による各部の軽量小型化。これには紹介した部品以外に、サンルーフやガラスも含まれる。低エミッションでは、溶剤フリーや塗装代替、めっき代替といったソリューションだ。安全面では、センサー用新素材の他、高性能ヘッドアップディスプレイや反射・ブラックアウト防止のメーターパネル。快適分野では、振動吸収素材、高性能タイヤ、高性能フィルター、各種内外装製品などが考えられる。

樹脂化による部品の小型化は今後力を入れていく分野とのこと加飾フィルム「パラピュア」は接着が難しいポリプロピレンへの加飾が可能、塗装代替技術として注目されている

そもそも、同社の強みは、中堅化学メーカーとして大手にない独自性とオンリーワンの製品群にあった。ただし、新しい特性を持った素材のブレークスルーに強い半面、それを応用した製品・自社製品の強みを活かしたソリューションの提供が他社より後手になってしまっていた(クラレ 経営企画室 中野一郎氏)。

素材の技術力は高く、市場の評価でいくつかのデファクトスタンダードを作ってきた企業だが、フォードからガソリンタンクへの応用を打診されたエピソードが示すように、顧客の要望ベースとした提案だった。以前は、高い技術力があれば市場からオファーがきていたが、現在は技術力だけで選ばれる時代ではない。

いまやスタンダートとなった樹脂製のガソリンタンク、
生まれたきっかけはケチャップの容器から!

ガソリン車の軽量化に大きく貢献した『エバール』ガソリンタンクの樹脂化に大きく貢献した「エバール」

その代表例にガソリンタンクがある。現在、グローバルで製造されているガソリン車の90%以上に、クラレの「エバール」というガスバリア性の高い樹脂が薄膜層として利用されている。クラレというと、人工皮革の「クラリーノ」やランドセル、最近ではアルパカのマスコット(クラレちゃん)を思い浮かべる人が多いかもしれない。日用品の素材というイメージが強いが、グローバルでは、特殊な化学素材のメーカーとして認知されている。

高密度ポリエチレンと『エバール』を組み合わせる事で誕生した樹脂製ガソリンタンクケチャップボトルで使用されていた「エバール」の高いガスバリア性をヒントにして誕生した樹脂製ガソリンタンク

「エバール」もそのひとつで、見た目はただのポリタンクを、揮発性の高いガソリンを保存できるようにしている重要な素材だ。ガソリンは可燃物であり揮発性も高い。そのため強度や安全性を保つには金属製である必要があった。耐火性や強度だけならポリエチレンだけでも代替可能と言えるのだが、ガソリンの蒸発とそのガスによる環境基準を満たすために内部にガスバリアが必要となる。

「エバール」は、もともと食品の鮮度や香りを保つための素材として販売されていた。鰹節パックやマヨネーズボトルが普及したのも「エバール」という素材があったからだ。ガソリンタンクへの応用が行われ、実車採用されたのはクライスラー(現FCA)・ジープ『チェロキー(94年モデル)』が最初となる。

元々は自動車メーカーであるフォードが軽量化のためガソリンタンクの樹脂化を考えたとき、ガソリンの蒸発と大気へのガス漏出の問題から(ポリエチレンで1mmの「エバール」と同等なガスバリア機能を実現しようとすると、厚さで10メートル必要)、ハインツのケチャップに使われている素材に目を付けた。当時、「エバール」のようなガスバリアを持っている化学メーカーは数社ほどしかなく、クラレはトップシェアメーカーだったため、指名されたという(同前中野氏)。

今では『エバール』を使用して給油口からタンクまで全て樹脂製のものまで出てきている燃料蒸散規制強化への対応のため、タンクだけでなく給油口からタンクへの配管へも「エバール」が使用される

こうして、高密度ポリエチレンと「エバール」による多層構造樹脂タンクが完成したわけだが、鉄より軽く、形状の自由度が高い樹脂製ガソリンタンクは瞬く間に業界標準となり、現在では、給油口からタンクまですべて樹脂製の車両も存在する。PHEVなど、パワートレインをダブルで持つ車両において、スペース効率を最大限に生かせる樹脂製タンクのニーズは高い。

ギアの樹脂化によって、機構部品の進化を加速させる

自動車部品でクラレの素材が存在感を放つものとして「ジェネスタ」という耐熱性ポリアミド樹脂(PA9T)がある。「ジェネスタ」もクラレ独自開発の製品で、自動車部品としての耐熱性能はもちろんのこと、低吸湿性能で他のポリアミド(ナイロン)の群を抜く製品だ。

耐熱性の高いポリアミド製品は、一般的に電子部品の表面実装やリフロー半田に利用できるため、コネクタやチップ部品などに多用される。自動車の電装品としても適用場面が多い素材のひとつだが、「ジェネスタ」は熱や湿気による形状の変化・変形がおきにくいという特徴を機構部品にも生かしている。

耐熱性ポリアミド樹脂『ジェネスタ』で製作され、小型化されたギア群「ジェネスタ」を用いて出力ギアを小さくすることにより、アクチュエーター部品の小型化が実現する

高い低吸湿性と耐熱性は、例えばギアのような精密部品のナイロン樹脂化を可能にする。玩具や家電製品の一部では、ナイロンギアは珍しくないが、産業ロボット、ドローン、自動車といった過酷な環境で利用するアクチュエーターへの適用は簡単ではない。ジェネスタを利用すれば、小型軽量、かつ高温・多湿でも精度を保てるアクチュエーター、機構部品を実現できる。

「ジェネスタ」の適用事例では、可変ヘッドライトの光軸制御アクチュエーターがある。高熱にさらされるLEDヘッドライトの向きを制御するギアボックスでも「ジェネスタ」のギアを使うことができる。従来は金属製かナイロン製の場合、大型化しないと実現できなかった性能・精度のアクチュエーターを40%ほど小さくできるという。

ジェネスタを利用すれば、小型軽量、かつ高温・多湿でも精度を保てるアクチュエーター、機構部品が実現できる高耐熱性、寸法安定性を備えた「ジェネスタ」は、各種コネクタ、機構部品、構造部材への応用展開が期待される

「ジェネスタ」は、熱や物性変化に強いだけでなく、化学変化にも強い。燃料噴射の配管は金属製が多い。これは、環境性能や燃費性能を上げるため噴射燃料の微細化が進み、樹脂製の配管だと溶出する分子がノズルを詰まらせるからだ。「ジェネスタ」はここにも適用され、軽量化に貢献する。

ナイロン樹脂は絶縁体としてバッテリーや電子機器にも利用されるが、「ジェネスタ」の耐高電圧性(耐トラッキング性)は、同じ大きさ(幅)でも絶縁耐圧を上げることができるため、EVバッテリーや制御モジュールを小さくすることが可能だ。また、温度による気体・液体のバリア性能が高いため、バッテリーの冷却システムの配管にも利用できる。さらに、炭素繊維による補強をプラスすれば(CFRTP:炭素繊維強化熱可塑性プラスチック)車体の構造部材への応用も可能ではないかと検討を進めている(経営企画室 マーケティンググループ 渡邊哲哉氏)。

コネクテッドカー・5Gに欠かせない液晶ポリマーフィルム

最後に紹介するのはLCPフィルム「ベクスター」だ。「ベクスター」は低吸水性、高い絶縁性能、耐熱性能を持つフィルム素材だが、これに銅箔を貼り付けて電子機器のプリント基板として応用する製品である銅張積層板も手掛け始めた。

高性能液晶ポリマーフィルム『ベクスター』5Gの普及で今後の拡大が予想されるLCPフィルム「ベクスター」は銅張積層板のサンプル出荷も開始する

LCP(液晶ポリマー)フィルムは、高い周波数領域で低い伝送損失を示し、5Gの通信機器やアンテナなどの用途で注目されている素材だ。一般に5Gと呼ばれる通信方式で利用される電波(搬送波)の周波数は410MHzから7GHz程度とミリ波帯と呼ばれる28GHzと言われている。

当然要求される回路特性は、温度、湿度といった使用環境に左右されないことも重要だ。「ベクスター」の銅張積層板は、フレキシブルプリント基板やフィルムケーブルといった用途だけでなく、5Gのフィルムアンテナ、ミリ波レーダーのアンテナ素材として応用可能だ。

他にも、合わせガラスのPVBフィルム、やしがらを使ったバイオ由来のリチウムイオンバッテリーの負極素材(ハードカーボン「クラノード」)、燃料電池自動車部品といった分野でもクラレの素材が使われている。「クラノード」は、高出力での充放電に耐える負極として、バッテリーの出力アップ、充電時間の短縮につながる素材だ。また先ほどの「ジェネスタ」は燃料電池スタックの冷却部品でも採用実績があるほか、将来は高い水素バリア性を備えた「エバール」「ベクスター」などの素材や「ジェネスタ」PA9T樹脂の炭素繊維UDテープによる補強などで水素タンクの高機能化・量産化への提案も予定している。

素材開発の力を損なわずソリューション力をつける

クラレでは優秀な素材を組み合わせて新しい価値やソリューションを自ら顧客に提案できる体制を整えた理由はここにある。つまり、個々の素材(シーズ)を理解した上で、世の中の課題やニーズにどう適用できるかの「目利き」を育てようとしている。

株式会社クラレ 中野氏(左)/渡邊氏(中)/小山氏(右)株式会社クラレ 中野氏(左)/渡邊氏(中)/小山氏(右)

また、これまでも多くの製造業が「シーズからニーズへ」と技術ありきの戦略の見直しを行ってきた。最も、多くの製造業はエンジニアや研究者に商品企画や目利きのスキルを求めがちだ。もちろん研究者の意識改革は重要だが、優秀な人材を業務外の役割で疲弊させる弊害もある。

クラレでは「目利き」専門の部署を別につくることで、研究者やエンジニアは従来どおり独自研究やオリジナリティのある発想で業務に集中できる環境が整っている。テクノロジーがビジネスのドライバーとなっている時代。オンリーワンの特性を生かしたままビジネスソリューション能力を向上させる、クラレの独自性に特化した素材を活かしたドラスティックな事業展開に今後も注目だ。

自動車・モビリティ領域における、
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《中尾真二》

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