視覚障害者の移動をサポートする小型ロボットを共同開発…アルプスアルパインなど5社

スーツ型ロボットを試す浅川氏
  • スーツ型ロボットを試す浅川氏
  • スーツ型の小型ロボットは、機内持ち込みサイズだが、重量は12kgある。最終的にはチェックインできるところまで目指す
  • センサーにはカメラとLiDARを組み合わせて使用する
  • 現状ではバッテリーや電源回路などでスーツケース内が埋まっているが、今後はこれらの小型化により荷物を入れられるようにしたいという
  • 駆動輪それぞれにはモーターが備わっていた
  • AIスーツケースの機能
  • 参加企業のそれぞれの役割。
  • 2020年から22年までの3年間を目標として取り組んで行く

アルプスアルパイン、オムロン、清水建設、日本アイ・ビー・エム、三菱自動車工業の5社は2月6日、視覚障害者の移動をサポートする誘導ロボット「AIスーツケース」の開発で協業する「一般社団法人 次世代移動支援技術開発コンソーシアム」を設立したと発表した。

このコンソーシアムは、障害のある人とない人が互いに認め合いながら共に生きる「共生社会」の実現を目指し、その具体例として、AI を活用した視覚障害者の移動やコミュニケーション支援に役立つスーツケース型の小型ロボットを開発することを目的に設立された。このスーツケースを視覚障害者が使うことで、移動に最適なルートや周辺の混雑状況、対話相手が誰なのかなどを音声や触覚を介して知ることができる。今年6月には都内の商業施設でプロトタイプを使った実証実験を行う予定だ。

記者会見場で公開されたスーツケース型の小型ロボットは、旅客機の機内持ち込みサイズとしたスーツケースに自動走行システムを組み込んだプロトタイプ。センシングはカメラとLiDARを組み合わせ、周辺の状況を確認しながらバッテリー+電動モーターによって駆動する。カメラは周囲の内容を具体的に視認するために活用され、LiDARは周囲にある障害物などを検知に使われる。また、位置情報や走行に必要な最新の地図を通信によって受信し、センサーで検知した差分をリアルタイムで認識することで障害物などを避けて走行できる。

協業5社は、それぞれの得意とする分野を担当。この日公開された各技術の役割は、触覚インタフェースはアルプスアルパイン、顔画像認識はオムロン、測位・ナビゲーションは清水建設、AIやクラウドはIBM、モビリティは三菱自動車がそれぞれ担当する。通信技術やAIといった多様な先進技術を使うため、それぞれの分野で強みを持つ企業が集まって協力することになったという。

AIスーツケースの開発を提案したのは、自身も視覚障害を持つ浅川智恵子氏。同氏はIBMフェローであると同時に、米国カーネギーメロン大学の客員教授も務める。その関係もあってカーネギーメロン大学もプロトタイプの第3号機の開発に取り組んでおり、今後はコンソーシアムと共同で開発や実証実験を行い、AIスーツケースの実用化を目指していく計画だ。

浅川氏によれば「視覚障害を持っていると一人で自由に街歩きをすることが難しいと感じることが多かった」とし、そこで「センサーを搭載してロボット化したスーツケースに誘導してもらえば、それが実現できるのではないかと考えた」ことが発想の原点。また移動ロボットをスーツケース型とした理由として浅川氏は「スーツケースであれば自分より前にして持ち歩くことで、障害物を避けやすくなることを知ったからで、その上でスーツケース型なら荷物を入れて移動できることも採用に至った理由のひとつだ」と話す。

しかし、実用化までには多くの解決すべき壁があることも事実だ。浅川氏は「屋内外の地図情報の収集や、障害物などを認識するには膨大なデータが必要で、ハード面ではさらなる小型化や軽量化、低電力化も欠かせない。こうした壁を乗り越えるには業種を超えた企業がそれぞれの専門分野を活かしてコラボレーションすることが重要だ」と各社への要望を述べた。一方で「目や耳が不自由なことがキーボードなど、数々のイノベーションを創出してきた事実もある。AIスーツケースの技術開発を通して様々な分野の発展につながっていくことを願っている」とも語った。

コンソーシアムの代表理事を務める福田剛志氏(日本アイ・ビー・エム東京基礎研究所所長)は、「コンソーシアムは、長期的な視点で、自由度の高い活動ができるようにしている。この5社に限らず、特に(実証実験ができる)施設などの協力があると嬉しい」と他企業の参加を受け入れる姿勢を示した。コンソーシアムでは2020年6月の実証実験を経た後、22年11月30日まで活動する予定にしている。

《会田肇》

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