ビジネスとして広がるインドネシアのMaaS…APスターコンサルティング 代表 藤井真治氏[インタビュー]

ビジネスとして広がるインドネシアのMaaS…APスターコンサルティング 代表 藤井真治氏[インタビュー]
  • ビジネスとして広がるインドネシアのMaaS…APスターコンサルティング 代表 藤井真治氏[インタビュー]

かつて、固定電話の整備が遅れていた新興国では、モバイル通信の発達では驚異的なスピードを見せた。電話もままならなかった国が、携帯電話普及率で人口比率100%超えの国もめずらしくはない。

なまじ既存インフラがなかったので、保護されがちな既得権益や地場産業保護も必要なく、基地局の整備もしやすかったからだ。

モビリティサービスの世界でも似たような現象が起きようとしている。ASEAN諸国ではUberやGrabの進出がある一方で、現地発のシェリングサービスや配車サービスの成功も広がっている。インドネシアではGojekの2輪、4輪の移動サービスが国民の足として機能し、Uberは撤退を余儀なくされたという。

欧米で先行するイメージが強いMaaSだが、ASEAN他、新興国のMaaS事情はどうなっているのだろうか。ASEANビジネスに詳しく、ITおよび自動車関連のコンサルティングも行う藤井真治氏(APスターコンサルティング代表)に、インドネシアのMaaSビジネスについて話を聞いた。

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バイクを筆頭に4輪のシェアリングサービスが広がるASEAN

――少し前は、中国のレンタル自転車がニュースになりましたが、ASEANではシェアリングカーなどのビジネスはどのような感じなのでしょうか。

藤井氏(以下同):アジアでは一般的にGrabが強いですが、2輪を中心に現地ビジネスが増えています。UberはASEAN市場からは撤退しており、シンガポール、インドネシア、マレーシアでカーシェアやタクシーに代わる旅客サービスが広がっています。タイはそれほどでもない印象です。ベトナムは二輪大国なので、2輪のサービスが強いです。

インドネシアでは、GrabとGojekがライドシェアビジネスの二大勢力となっています。Gojekはもともとバイクのサービスを展開していましたが、近年は4輪でも市場を拡大し、Grabに迫る勢いです。

――ライドシェアやMaaSについて、ASEANでもニーズがあるわけですね。その中でUberが撤退したのはなぜでしょうか。

一言でいえば現地になじめなかったということです。現地のビジネスややり方を尊重できなくて、現地密着ではなかったからだと思っています。Uberは、アプリやサイト運営などいわゆる空中戦は得意ですが、ドライバーの募集ができませんでした。

消費者のニーズはあったと思うのですが、ドライバーにとってアメリカ式のアプリの登録や管理、制服、レーティングなど負担に思う人が多かったのですが、それに合わせる努力をしませんでした。

――日本や海外の話を聞くと、たいてい現地のタクシー業界の反発にあっています。インドネシア、ASEANでは業界の反発はなかったのでしょうか。

Grabはシンガポールの会社で国が認めているので、反発はあるのかもしれませんが、シンガポールでは大きい問題にはなっていません。他の国の場合、そもそも既存のタクシーの評判が良くないといった事情があります。料金やサービス、車両などで、安全・安心・清潔といったイメージはありません。

アプリやレーティングシステムが整備されたライドシェアは、むしろ、そこに秩序をもたらして、ユーザーも安心して使えるタクシーとして受け入れられています。通りでタクシーを拾うよりアプリで呼んだほうが安心です。タクシーだと、ライセンスの写真と違う人が運転していることもありますが、GrabやGojekなら、呼んだ車両と違う車種やドライバーだったらその場で拒否できます。2輪も緑のジャケットを着たGojekのライダーなら安心して頼めます。

ASEANで広がるギグワーカー

――庶民の足としても定着している感じですね。社会やビジネスへのインパクトも大きいのでしょうか。

そうですね。インドネシアは鉄道や地下鉄の整備が遅れています。地下鉄がようやくジャカルタに開通しましたが、ライドシェアが新しい移動手段として認知されていると思います。キックボードのシェアリングビジネスなども始まっています。

ドライバーにも影響を与えています。Gojekでは、車両をもっていなくても4年間で車両の代金を払いながらドライバーをするというファイナンスモデルができています。4年目以降は、車両は自分のものとしてドライバーを続けることができるので、ギグワーカーが増えています。また、5台、10台と車を持っている人、持てる人は、GrabやGojekプラットフォームで配車ビジネスができます。

どちらも、現地にはこれまでなかった働き方で、文字通り、ビジネスと雇用を生み出している状態です。

――課題は何になるのでしょうか。

GrabもGojekも、海外からの投資を含めて、資金流入は多く、お金はあるのですが、配車ビジネスそのものの収入は赤字です。集まった資金をどう活用するかが、各社の戦略としてポイントになっています。運用で実業部分の赤字を補てんしていくのか、事業を拡大していくのか、各社の考え方しだいです。他のベンチャーへの投資、インキュベーション事業を始めたところもあります。

ただ、アプリをベースとしたユーザープラットフォームを活用するビジネスが、これから大化けする可能性があります。というのは、キャッシュレス決済と組み合わせて、ライドシェア以外のサービスと連動させる動きがあるからです。

シェアリングエコノミーが無法タクシーに秩序をもたらす

――課題克服に向けての動きや取組みはあるのでしょうか。

現地の裕福層が、冠婚葬祭に出かけるとき、髪型のセットや正装のため業者に自宅に来てもらい、そのまま会場に移動することがあります。業者の自宅への移動、その後の移動を含めたサービス、自宅のパーティや集まりで、ケータリングサービスとセットにしたもの、など移動に関連した購買やサービスとの連動が見られます。

今後、地下鉄などがさらに整備され、バスやタクシー、鉄道などとも連携すれば、さらにビジネスが拡大するかもしれません。

――それこそ、我々が日ごろ議論しているシームレスな移動、モビリティ革命ですよね。

はい。スタートはただのマッチングアプリかもしれません。しかし、カオス的だったモビリティサービスにルールと秩序をもたらし、周辺サービスにも広がっています。それが市場ニーズとビジネスモデルに裏付けされている点がASEAN MaaSの強みだと思います。

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《中尾真二》

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