ドイツの特殊化学品メーカーであるランクセスは、中国・常州市で自動車向けプラスチック製品を製造する新工場の開所式を行った。現地で、同社の経営委員会メンバーフーバト・フィンク博士、ハイパフォーマンス・マテリアルズ・ビジネスユニット責任者マイケル・ゾベル博士、および銭明誠アジアパシフィックプレジデントに、中国自動車市場の今後について話を聞いた。
----:2017年11月の発表では、総額2000万ユーロを投資して年間2万5000トンの生産能力を備えるということでしたが、計画通りに完成しましたか? 最近の中国経済、特に自動車市場の成長には陰りが見えますが…。
フィンク博士:当初の計画通りです。この新工場は、(テストオペレーションを経て)既にフル稼働しています。同じプラスチック製品を既に量産している無錫工場の6万0000トンと合わせ、中国での総生産能力は8万5000トンに拡大しました。グローバルにビジネスを展開している当社にとって、中国およびアジアパシフィック市場におけるプレゼンスの強化はとても重要です。したがって、今回の常州工場の稼働開始は、非常に重要なマイルストーンとなります。
----:しかし、様々な報道、完成車メーカーや一次サプライヤーの2019年上期決算などを見ると、中国自動車市場の成長や自動車業界全体の景気にはネガティブな印象を受けます。ランクセスでは事業計画の変更はないのでしょうか?
銭明誠アジアパシフィックプレジデント:確かに中国の自動車市場の成長が、上半期はスローダウンしました。しかし、長期的には今後も力強い成長が続くと考えています。中国は世界の自動車産業全体にとって、最も重要な市場の一つであることに間違いはありません。当社としては、継続的に製品ラインナップを強化し、お客さまに対してベストな製品を提供するために投資を行っていきます。先行きに不透明さが出てきたのは事実ですが、中国市場に関しては今後10年、決定的な(ネガティブな)変化はないと考えています。当社では、今後4年間で2億5000万ユーロ(300億円超)をアジアパシフィック地域に投資する計画です。中国が、そうした計画の中心的役割を果たしていくと考えています。
----:中国市場は、その規模の大きさに加え、成長のポテンシャルもまだまだ充分という判断なのですね。
ゾベル博士:規模に加えて、当社の強みを生かせる市場特性も積極的な投資判断の理由です。政府のサポートもあり、中国では車両の電動化が世界で最も速く進んでいます。今年の6月までに中国で販売された乗用車は述べ約1億9800万台。このうちの344万台がいわゆる「新エネルギー車両」であり、さらにその中の281万台が電気自動車(EV)です。ハイブリッド化や電動化によって、クルマの重量は増える傾向にあります。そこで、軽くて強く、成形がしやすい特性をもった高性能プラスチックの需要も増えています。そうした複合的な要因から、我々のビジネスにとって自動車業界、特に中国市場には、まだまだ可能性があると判断しています。
常州市の中央政府からもゲストを招いて行われたオープニングセレモニーでは、中国市場への強い「TRUST (=信頼)」を繰り返し語ったランクセス。積極的な投資に関するコメントにも力強さが感じられた。ニューモビリティとそれに伴うニュープレイヤー(新規参入者)によって、自動車産業全体の構造変化はあり得るが、モビリティの発展は続いていくという判断だろう。