自動車の流通に変革をもたらしてきたIDOM。3年前に始めたクルマのサブスクリプションNORELについて、羽鳥由宇介 代表取締役社長は「思うようにいかなかった」と振り返る。しかし同時に、その経験から得た手ごたえもある。いまだ成功事例の見えないクルマのサブスクリプションにどう挑むのか。羽鳥社長に聞いた。
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会社の使命として取組むべきこと
IDOMの業績が好調だ。インタビューに先立つ7月12日、IDOMは四半期決算を発表、大幅増益を叩き出した。主業種である中古車小売事業が貢献した形だ。そんななか、サブスクリプションに“あえて”取組む意味とは何だろうか。
羽鳥社長は「IDOMという企業の存在意義として重要な事業」なのだと強調した。
「創業社長(現名誉会長の羽鳥兼市氏)が福島で事業を興したときから、お客様視点で自動車の流通を変えていきたい、という想いでやってきましたので、クルマの使い方や関係性をいろいろ提案していくことは、企業の使命として、存在意義として重要な事業だと思っています。」
「モノづくりの会社ではないので、サービスを作っていくことが重要です。これからもいろいろ提案していきたいし、その第一弾がNORELだということです。」
一次流通から十字流通まで
NORELのサービスが始まって3年が経過しようとしているが、羽鳥社長は「クルマのサブスクリプションは難しい」と振り返る。音楽や映像、クラウドサービスのように、ユーザーが増えるごとに原価率が下がる仕組みではないからだ。
「自分たちでも3年経験して、結果として思うようにいきませんでしたが、そのうえで可能性が見えてきた部分があります。」
「クルマだけではなく、家具や時計など、いろいろな“モノ”のサブスクがありますよね。そういった事業をされている方々とも話したのですが、(サブスクリプション期間が終わり)モノが戻ってきた時にどうするか。モノのサブスクリプションは、そこで損失を出さずに、うまく利益につなげていくか、というところが難しいんです。」
NORELでは昨年からBMWやMINIの新車をサブスクリプションで提供するサービスを開始している。
「新車をサブスクリプション(一次流通)で提供し、一定期間後に戻ってきます。それを中古車で販売し、そしてまた3年後に買い取らせていただく。二次流通、三次流通まで事業として見通しておく。そこがポイントです。」
「販売力がなかったり、オークションに出してもなかなかペイしませんが、買取り、販売はIDOMの得意分野です。その商流に乗せることで、クルマのサブスクリプションが立ち上げられます。」
IDOMでは、アフリカ・タンザニアに中古車を輸出する事業も手掛けている。日本では市場価値が無くなってしまった10年落ちの中古車も、クルマとしてはまだまだ現役。タンザニアは、そのようなクルマを流通させることができる市場としてとらえている。
「一つの事業でドンと利益を上げるのではなくて、サブスクリプションの利益、中古車販売の利益、究極はアフリカまで行ってスクラップになるまで、ちょっとづつ利益を作っていく。一次二次、十次流通まで、できればカーライフの全部に携わること。我々はカーライフタイムバリューと呼んでいますが、こういう考え方が、自分たちが見えたひとつの可能性です。」
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苦労してローカライズしたアフリカのサービス
タンザニアでの取組みがまた興味深い。アフリカの事情にローカライズされた新たな業態というべき事例だ。
日本では市場価値がないクルマを、現地のUBERと提携して、ドライバーに貸し出す。これを実現するために、日本では想像できない苦労があったようだが、熱意と工夫で乗り越えた。羽鳥社長は、タンザニアの方々のカーライフを変えることができると手ごたえを感じているようだ。
「タンザニアでは、(途上国という事情もあり)金融機関の与信ができないんです。なので、ドライバーで稼ぎたいという人がいても、お金を借りられないので、クルマが買えない。」
「そこでUBERと組んで、仕事とクルマ両方を提供する仕組みを作りました。UBERはアプリを提供し、クルマの貸し出しやサービスのオペレーションはIDOMがやります。」
「与信は自社でしています。(ドライバー志望者の)村まで行って、村長に会って話をして、保証人になってもらう。そうやって与信を通しています。」こうして苦労して、なんとかクルマを貸出す仕組みを作り上げたのだ。
社長自らタンザニアに出向くと、ドライバーから涙を流して感謝されることもあるという。仕事を手に入れて貧困から抜け出すことができ、そしてオフの時はクルマが自由に使えるので、時には家族とドライブを楽しんでいると。
「銀行もどこもお金を貸してくれなかったのに、信じてくれてありがとう。おかげで生活が一変した、と喜んでいただいています。」
複数の流通サービスを提案する
NORELやタンザニアの事例にとどまらず、IDOMでは個人間カーシェアリングの「GO2GO」というサービスも手掛けている。
「価値観も人それぞれ、いろいろある時代です。クルマの使い方も、毎日乗る人もいれば、週末だけという人もいます。様々なニーズに合わせて、クルマの提供の仕方も変わっていくべきだと思っています。」
「クルマを売るビジネスに終始するのではなく、(クルマを利用するための)いろいろなサービスをいくつも持って、組み合わせてビジネスにしていくことがカギだと感じています。」
所有から利用へ、人々の価値観が変化しつつある今、機を見るに敏なスタートアップだけでなく、自動車メーカー自らこの市場に参入しようとしている。では、自動車流通のトップランナーであるIDOMの強みとは何だろうか。
「IDOMは流通サービス業であって、モノづくり企業ではないので、一番いいものを提案していける立場です。また、カーライフタイムバリューのビジネス化を、今の段階でもある程度実現できていることが強みです。」
カーライフタイムバリューのビジネス化を目指す
消費者視点の自動車の流通革命に向けた“カーライフタイムバリュー”というコンセプトが完成するのは、いつ頃になるのか。
「企業としてはずっと改善・改革を続けていかなければならない。そういう意味でゴールはないが、この先4-5年である程度実現したいですね。」と羽鳥社長は明かす。
「クルマは単なる移動手段ではないと思っています。価値観やライフスタイルの変化に合わせてカーライフを楽しんでいただくためには、クルマの適正配置をしなければなりません。そのためにも実現させたいと思っています。」
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