自転車教育の欠如と「匿名性」が傍若無人な運転を助長する【岩貞るみこの人道車医】

自転車教育の欠如と「自転車の匿名性」が傍若無人な運転を助長する(写真はイメージ)
  • 自転車教育の欠如と「自転車の匿名性」が傍若無人な運転を助長する(写真はイメージ)

【自転車の匿名性】自転車の事故をどう減らすか。少しずつ対策が進められている……気がするけれど、どうも本気度も持続性も感じられず、本腰が入っていない感ぷんぷんの案件である。

アリバイではない自転車教育を

そもそも自転車は、三輪車の延長線上にあり、玩具だったものが、いつの間にか移動に欠かせない一般公道で走れる乗り物になっている。だから、乗っている本人にとって道交法の対象だという自覚が芽生えるきっかけがないのである。

人を教育する立場にある警察や学校関係者によると、「自転車教育はしている」という。たしかに、学校に警察関係者が来て、講習をすることはあるけれど、その当日に風邪ひいて休んだ生徒児童は、それ以降、フォローする機会はないんじゃないのかなあ。

習ったことがないのに、いきなり「左側通行です!」「二人乗りは禁止です!」と言われても、はあ?と思うのが子どもたちの本音だろう。この際、自転車の事故が増える中学生のときに、「世の中には道交法ってのがあってね」と、根本的な部分からきっちりと(ここ大事。大人がアリバイ的にやったというレベルではなく、まさに、きっちりと叩き込むまで)法律と規範意識を学ばせたほうがいいんじゃないだろうか。

ただ、中学生にきっちりと教えたところで、まわりにいる大人たちが、「そんなもん、あったっけ?」とばかりに一時停止を無視し、傘をさしながら好き勝手に走りまわっていては意味がない。この際、保護者や地区の住民もいっしょに学んでほしい気がするけれど。

「自転車の匿名性」に問題がある

自転車教育の欠如と同時に、自転車が傍若無人な動きをするもう一つの理由は、自転車の匿名性にある気がする。ネット社会では匿名であるがゆえにさまざまな意見を書き込んでトラブルになるケースがあるけれど、自転車もちょっと似ていると思う。

自動車運転免許証を取得している人は、自転車乗車中でも事故が起きれば身元がわかるし(携帯していればだけれど)、飲酒して自転車に乗れば、クルマを運転していたとき同様の罰則が適用される。けれど、自転車には免許がない。つまり、匿名状態である。自転車にはナンバープレートもついていないから、ひき逃げに近い行為も散見される。

ちなみにイタリアでは、14歳になると、写真入りの身分証明書(小さいパスポートみたいなやつ)を常に携帯することが義務付けられている。バスで無銭乗車がばれたときも、係員にこの身分証明書を提示すると、クルマの違反切符と同じような反則金納付のチケットが切られ、期日までに納付しないとさらに大きなペナルティが課せられる。自転車でなにか交通トラブルがあったときも、必ずこの身分証明書を持っているので、どこの誰だかわかるというわけだ。

日本でもなにかしら身分証明書代わりになるものを持たせて、匿名性をなくしていけば、運転に自覚が出てくるのかも。責任をもって運転してくれるかも? 自動車ほど、きっちりかっちりやらなくとも、自転車に乗っているときは運転者としての自覚を促すような免許制度があるといいのに。

1)いかに安全に乗らせるか。
2)事故のときに、どう責任をとらせるか。

保険加入で自覚が生まれるか

このところ、北海道や神奈川県、長野県などで自転車の全車任意保険加入という動きが出ているけれど、保険加入=事故のときの保障ができる、と同時に、毎年、手続きを行って保険金を払うことで自覚も生まれると期待するのは私だけだろうか。

「保険なんて、入らないヤツがいっぱいいるから効果はない」

そう言われちゃうかもしれないけれど、現在の日本において、自転車の事故防止に特効薬がないのなら、やれることはどんどんやっていく作戦しかないと思う。すぐに効果はなくても、気づいたら世の中が変わっているかもしれない。30年前、駅のホームや会議室で当たり前のようにタバコを吸っていたのが、今ではすっかりなくなったように。

少なくとも、このまま自転車がよろよろ走ったままなら、自動運転の一般道での実現なんて、ぜーったい無理だよね。

岩貞るみこ|モータージャーナリスト/作家
イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。主にコンパクトカーを中心に取材するほか、ノンフィクション作家として子どもたちに命の尊さを伝える活動を行っている。レスポンスでは、アラフィー女性ユーザー視点でのインプレを執筆。コラム『岩貞るみこの人道車医』を連載中。

《岩貞るみこ》

岩貞るみこ

岩貞るみこ|モータージャーナリスト/作家 イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。レスポンスでは、女性ユーザーの本音で語るインプレを執筆するほか、コラム『岩貞るみこの人道車医』を連載中。著書に「ハチ公物語」「しっぽをなくしたイルカ」「命をつなげ!ドクターヘリ」ほか多数。最新刊は「法律がわかる!桃太郎こども裁判」(すべて講談社)。

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