バブル直後、520万円で発売された伝説のバイクに出会った…知る人ぞ知る「ホンダNR」とは

1992年に520万円でわずか300台が発売されたホンダNR。その存在は伝説的だ。
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当時520万円で発売された伝説のバイク

バイクブームはもうとっくに終わってしまったと言われるが、休日に高速道路のサービスエリアに行けば、二輪パーキングがオートバイで溢れかえっている光景を目にすることができる。

首都圏のドライバー&ライダーにはお馴染みの東名高速・海老名サービスエリアもまた然りで、連休中のとある日曜日、バイク用駐車スペースは満車となって、もう駐める場所が見つからないといった状態に。そんななか、ひときわ目立つ色鮮やかなオートバイがいた。

なんとホンダ『NR』ではないか! 信じられないと目を疑ったが、正真正銘のホンモノ。1992年5月に、当時としても現代にしても超破格と言える520万円で発売された伝説の1台である。オーナーがいたので、すぐに質問攻めに。お名前は和久井さん、年齢は40代半ばだ。

「はい、知っている人にはよく話し掛けてもらえます。やっぱり嬉しいですよね。ボクは2005年に中古で買ったんです。それまでずっと普通2輪免許だったので、NSRやVFRなど400cc以下のレーサーレプリカに乗っていました。大型2輪免許を取得し、何に乗ろうかなって考えて、その時点でNRのことを知って買ったんです」(和久井さん)

試しに中古車情報サイトで検索してみたが、中古車市場には出回っていない。というのも、限定300台というただでさえ少ない販売計画台数だったが、時はバブル崩壊。予約キャンセルが相次ぎ、一説には300台に達しないまま生産が終了したとも言われている。簡単に手に入るものではないが、和久井さんは「たまたま運良く買えた」と言う。

「NR」とは?

ホンダNRホンダNR
NSではないし、NSRでもなく“NR”だ。その名はバイクファンでないと、耳にしたことがないかもしれない。しかし、ホンダレーシングマシンの由緒正しき血統である。そのデビューは1979年8月の世界選手権ロードレース第11戦イギリスGP、最高峰である500ccクラス。当時、2ストローク4気筒が主流であり絶対有利と考えられていたが、ホンダは1気筒あたり8バルブ、楕円ピストンという常識外れの4ストロークV型4気筒エンジンで勝負を挑んだ。

通常のピストンは真円だが、楕円(長円状)にすることで1気筒に8個のバルブを収めることができ、ポート形状の不均一さもない超ショートストロークのエンジンレイアウトが可能となり、2万回転という高回転を実現。ただし、81年の鈴鹿200kmロードレースでこそ優勝したものの、世界グランプリでは苦戦が続き、ホンダは2スト3気筒の『NS500』を投入。NRは実戦から姿を消してしまう。

しかし、92年に市販車として復活したのだった。耐久レーサーとしてナナハン化されていたこともあって、排気量は747cc。レーサー同様に1気筒あたり8個の32バルブで、点火は2プラグ方式、ピストンは2本のコンロッドで支持されている。

真円2気筒と比較すると、バルブの有効開口面積は12%大きく確保でき、往復運動部質量は4%軽減。シリンダー周長和が30%短くなり、幅は18%小さくできた。

極太アルミツインチューブフレームの表面は、念入りなバフ仕上げとアルマイト加工が施され、フェアリングとボディカウルには軽量高剛性のカーボンファイバー(CFRP=炭素繊維強化樹脂)を採用。異形デュアルヘッドライトやプロジェクターライトを内蔵したフェアリング、赤色高彩度塗装の外装、チタンハードコートのウインドスクリーンなど、当時の最先端技術を結集した独創的なスポーツバイクとして仕上げられている。

開発段階で、営業部門から「利益に寄与しない開発は中止すべき」ともいわれていたらしいが、ホンダらしく夢を追いかけたのだった。

ホンダらしい、突き抜けたマシンたち

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こんなバイク、他にあるのか……!? つまり、最高技術の集大成として発売されたホンダのスポーツモデルだ。まず思い浮かぶのが、1987年に発売されたRC30こと『VFR750R』だろう。ワークスマシンRVF750の公道仕様で、市販車ベースのスーパーバイク世界選手権(SBK)に出場するためのホモロゲーション(承認)モデルとしての役割も担った。価格は148万円で、その内容を考えればお買い得であったため、国内外で限定1000台ずつの発売ながら注文が殺到し、抽選販売になるほどの人気ぶりであった。

MotoGPレーサー「RC213V」を一般公道で走行可能にした『RC213V‐S』は、2015年7月から商談受付を開始した。価格はなんと2190万円。それでも熱烈なバイクファンらの間ではバーゲンプライスと言われるのは、ロードレース最高峰で勝つためのマシンと同じように、予算など度外視したパーツが使われ、手間が掛けられているから。クローズドコースのみで使用可能な「スポーツキット」も設定している。

オフロードファンにも至極の1台が誕生

そして、今年9月に登場したばかりなのが、モトクロス競技車のトップエンドモデル『CRF450R』に保安部品を付けた『CRF450L』だ。ユニカムバルブトレインの4バルブ単気筒エンジンは、バルブタイミングや吸排気系を見直し、公道走行や環境規制に対応。ミッションは5→6速化され、樹脂製だった燃料タンクはチタン製で新設計し、容量も増やした。税込み価格129万6000円で発売中だ。

いずれも、最高のマシンを妥協せずつくろうというホンダの熱い情熱から生まれたもの。NRもそうであるように、究極の1台はいつの時代も唯一無二の輝きを放っている。

CRF450LCRF450L

《青木タカオ》

モーターサイクルジャーナリスト 青木タカオ

バイク専門誌編集部員を経て、二輪ジャーナリストに転身。多くの専門誌への試乗インプレッション寄稿で得た経験をもとにした独自の視点とともに、ビギナーの目線に絶えず立ち返ってわかりやすく解説。休日にバイクを楽しむ等身大のライダーそのものの感覚が幅広く支持され、現在多数のバイク専門誌、一般総合誌、WEBメディアで執筆中。バイク関連著書もある。

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