ビー・エム・ダブリュー(BMWジャパン)は、SAV(スポーツアクティビティビークル)の『X2』を発表した。『X6』や『X4』に続くX2の開発意図やマーケティング戦略について関係者に話を聞いた。
◇SUV+クーペながら機能性は確保
----:まずはBMW X2の開発意図から教えてください。
ビー・エム・ダブリュー(BMWジャパン)BMWブランド・マネジメント・ディビジョンプロダクト・マーケティングプロダクト・マネジャーの丹羽智彦氏(以下敬称略):BMW X2が属するコンパクトなプレミアムカーセグメントが世界中で拡大していますので、そこにお客様のニーズがあります。
また、SUV、我々でいうところのSAV全体のセグメントは既に確立して来ましたので、そこでの新しい顧客開拓の必要性を感じ、新しい商品が必要だと考えました。社長もコンパクトセグメントの中のコンクエストという表現をしていますように、そのセグメントを取りに行くという商品が必要であることから、あえてエッジーなクルマを出したのです。
----:つまりSUVのクーペが欲しかったということですか。
丹羽:SUV市場が確立されていますので、その中で競合他社はいろいろなことを考えています。例えばコンバーチブルタイプやクーペタイプなど新しいデザインを試しています。
我々としては『X6』から始まるBMWのSUV+クーペのコンセプトはコンパクトセグメントでも必要と考えていました。ただし、単にX6のサイズを小さくするだけですと後席が狭くなってしまいますので、X2ではより良いバランスを取るために、他のモデルと比べるとルーフラインはあまり極端に落としていません。
◇新しいデザインエレメント採用の理由
----:そのようにしてSUVとしての機能性を確保しているのですね。デザイン面ではフロント周り、特にキドニーグリルは新たなトライとなっていますが、なぜこのX2で採用されたのでしょう。
丹羽:この新キドニーグリルは、伸びているセグメントの中で新しい顧客を開拓すると共に、新しいコンセプトを提供することも必要だということで採用したエレメントのひとつです。その他にもCピラーのBMWのロゴもそうですし、Cピラーにホフマイスターキンクを入れながらショルダーラインを極端に蹴り上げるラインを採用するなど新しいエレメントを入れることによって、他のXシリーズとの差別化を図っているのです。
----:BMWの傾向として新しいグリルなどを採用した場合、それ以降他のクルマでも展開されることが多いのですが、今回はどうなのでしょう。
丹羽:現場ではまだそこまでは考えていないようです。確かに7シリーズで入れた技術、例えばキドニーグリルのフラップ技術を、5シリーズに採用するなどの流れもありますが、今回のデザインに関しては、X2の差別化という意味付けが第一のようです。
◇実は若いターゲットユーザー
----:X2のターゲットユーザーは“ミレニアル”ということです。このターゲットは世界共通のことなのですか。
丹羽:はい。『X1』よりも若い層を狙うのかX2なのです。それは世界的に変わりません。
----:X1の年齢層はどのくらいなのですか。
丹羽:X1はおよそ40代中頃です。それに対しX2は30代を狙いますが、実質的には30代後半になるでしょう。
----:どのメーカーもこのあたりの層を狙っていますし、かなりマーケティング戦略としては難しいですね。
丹羽:はい、全てを賄うSUVであればもう少し上の層でもいいでしょう。しかし、年齢的には若くても、例えば都心で結婚はしているがまだ子供はいないとか、若くしてビジネスを立ち上げてという方々がいる層があります。そういった方々は個性を主張しますので、そこをターゲットに、我々としては今まであるものとは違うものを出すことで、目を向けてもらう、そして我々としてもそういった方を取り込みたいと考えているのです。その結果として、新しいデザインエレメントなどを取り入れました。
◇香取慎吾がブランドフレンドに
----:他のインポーターもそうなのですが、このあたりの層を狙うクルマではほぼ同じようなことをお話しされますね。いちばん取りにくいところであるがゆえに、取りたいところでもありますから。
そこで、そのいずれとも差別化する必要は絶対に出て来るのですが、X2ではそのあたりをどう考えていますか。ひとつはマーケティング戦略的にどう他と違うクルマなのかを訴求していくこと、そしてもうひとつはクルマそのものとして他のクルマとは違うことを認識させていくかです。
丹羽:そういった全てのことを含めてブランドフレンドとして香取慎吾さんを起用したのです。香取さんは決して全ての新しいものを作っている人ではありません。ジャニーズという枠の中にいた人で、その後、独立して新しい世界を自ら築いていこうと思っている人なのです。
----:最初に香取慎吾さんが出るということを聞いた時に、少し驚きました。これまでBMWはあまり“人”を前面に出しての訴求はしてこなかったように思うのですが、いかがでしょう。
丹羽:最近は少し増えてきており、5シリーズで中田英寿さんや、7シリーズではシェフのジョエル・ロブションさんにも出てもらっています。
BMWはこれまで車、くるま、クルマ……、でしたが、近年はそれだけではく、違う方向も模索しています。
ビー・エム・ダブリュー広報部企業&社内広報シニア・スペシャリストのイードゥ・チャーリーン氏(以下敬称略):BMWはクルマだけではなくモビリティというサービスを提供しています。そしてそれを見せるためにクルマだけではなく、そのクルマを所有することでのライフスタイルを見せていきたい、ブランドフレンドなどを通してライフスタイルを感じさせていきたいと考えているのです。
----:こういった取り組みは継続しないと意味がないと思いますが、そのあたりはいかがですか。
丹羽:現段階では先日公開したMOVIEやアートカーまでですが、現在このあと何が出来るか、どういうアピールをしたいかについてブランドフレンドの香取慎吾さんと進めている状況です。
----:それはここで止まってしまう可能性もあるということですか。
丹羽:それないとは思います。X2は良くも悪くも派生モデルと捉えられてしまう可能性のあるクーペですから、コミュニケーションを弱めてしまうといつのまにかトーンが下がってしまう可能性があるのです。今年、このモデルはBMWの中では数少ない新型モデルなので、そこは弱めたくはありません。
◇競合よりも機能性を、そして、オンロード走行性能を確保
----:クルマとしての差別化はどうでしょう。
丹羽:日本ではメルセデスベンツ『GLA』、ヨーロッパではレンジローバー『イヴォーク』が競合になるでしょう。
メルセデスに関しては我々とはスタンスが違う商品だと思っています。似たようなコンセプトに最終的には辿り着いていますが、スタートポイントが違うがために強みと弱みが違うようです。GLAは『Aクラス』の派生モデルとしてスタートして、それの車高を上げてという認識です。
一方BMWはXモデルの一部として考えていますので、ルーフ形状などでSUVとしての高い機能を、残念ながら一部を失ってはいるものの、犠牲にするところまではいっていません。その結果、後席の居住空間はこのセグメントの中では空間を確保出来ている数少ないクルマですし、ラゲッジルームに関しても競合よりは十分なスペースを確保しています。
◇BMWのイメージはどちらに
----:BMWのイメージというと台数的にはかなりXシリーズの台数は出ているのでしょうが、やはりセダン系が強いように思いますがいかがでしょう。
丹羽:確かにSUVのポジションを確立出来ているかというと難しいのかもしれません。
チャーリーン:確かにXシリーズの台数はかなりのシェアを占めています。その一方でBMWは“駆け抜ける喜び”をコンセプトとしていますので、どちらかを強調しなければいけないのであればセダンの方になるでしょう。
SUVの走行性能をより高め、例えばアマゾンなどで運転しても平気というのはBMWのイメージではありません。スタイリッシュで高級だということを意識ながら、かつ良いハンドリングを持つSUVというイメージが強いでしょう。
丹羽:社内的には、オフロードだけではなくオンロードという言葉をSUVでも使っています。
一方イヴォークなどはカタログなどで何センチまで水に浸かっても走れるとか、走破性という部分を強調していますので、彼らの持っているブランドとしてやはりそこは妥協していませんね。
BMWとしては一般道としての走りがスタートであり、そこは妥協をしていません。そこをベースにSUVとしてのユーティリティが求められている時代の中で、SUV、SAVの必要性から台数を伸ばしていますので、やはり切り口の違いがあるのです。