【藤井真治のフォーカス・オン】「ディーラーを持たない」テスラの先進的ビジネスモデルは成功するか

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テスラはいわゆる「ディーラー」を持たないメーカー直販方式を採る。写真はテスラ名古屋ショールーム
  • テスラはいわゆる「ディーラー」を持たないメーカー直販方式を採る。写真はテスラ名古屋ショールーム
  • テスラの青山ショールーム(資料画像)
  • テスラ モデルS
  • テスラ モデル3
  • テスラ ロードスター新型を発表するイーロン・マスクCEO
  • テスラ モデルS
  • テスラ モデルX
  • テスラ モデルX

◆テスラのアキレス腱となっている『モデル3』

中国での生産計画やEVトラック、新型EVスポーツカーの発表。依然話題に事欠かないテスラだが生産の立ち行かない量販車『モデル3』がアキレス腱となり赤字が続いている。一時は膨大な受注残があると言われたこのモデル3。年末の生産挽回努力にもかかわらず昨年2017年の販売実績は僅かに2320台と少ない。

11月に追加で行われた資金調達は新モデル開発資金のためではなく、運転資金の補填と言う意味合いが色濃いようだ。

生産が滞れば販売も立たずお金も入ってこない。当然資金回収は滞る。赤字になる。これは当たり前のことなのだが、そもそもテスラは絶えず資金繰りに苦労するビジネス構造なのである。

◆ディーラーを持たないテスラのビジネスモデル

テスラの全車種は全てテスラ自身がエンドユーザーに直接販売する「メーカー直販方式」を取っている。アメリカ本国には旧来型の独立資本の自動車ディーラーというものは存在しない。基本日本でも同じ方式を踏襲している。(日本は所有と経営を同一化するために合同会社といった中小企業のような形態を取っている)

トヨタやVW、日産、GMなどほとんどの量産メーカーは、エンドユーザーへのクルマの販売は基本的には販売店を通じて行う。メーカーが直接販売するケースは、政府向け直納など極めて例外的と言っていい。メーカーは複数の部品メーカーから集めた(買い取った)数多の部品を自社で組み立てクルマに仕立て、それを販売店に売ることによって資金回収を行う。

アメリカや日本などメーカー認定の販売店は2か月程度の支払猶予はあるものの、メーカーが作ったクルマをすべて引き取るというルールのもとビジネスを回しているのが現状だ。従って通常メーカーは完成車在庫を持たない。

3万点もの部品で構成されるクルマの生産手配にはリードタイムがかる。

数か月後の顧客への販売、納車まで予測し完成車在庫ゼロでモデルやグレード別に生産台数をミートさせるのは不可能である。完成車の販売はジャストインタイムではないのだ。それゆえ、作ってしまった車を引き取ってくれるディーラーは本来メーカーにとって大変ありがたい存在なのである。
テスラ モデルS
世界に冠たるトヨタ生産方式に代表される日本メーカーのカイゼン活動がスムーズに行き、トヨタ銀行に代表されるように資金繰りがうまく行くのは、いわばディーラーが生産車両を必ず引き取ってくれ在庫を抱えてくれかつきちんと代金を払ってくれるから、といっても過言では無いだろう。

テスラにはそれが無い。常に完成車の在庫リスクにさらされる。ユーザーからオーダー時点で25%もの前金をとるのは全てユーザーへの直売という構造的な資金繰りの困難さが理由と思われる。

モデルSやモデルXのような一台1000万円のモデルを買うお金のある富裕層はそれでもいいとして、300万円台の車を買うユーザーはそんな前金を払って、いつ生産ができ手元に車がいつ届くかわからないという状況に困惑することは容易に想像できる。

未来先取り型のテスラは自動車の販売を変えるか
テスラ ロードスター新型を発表するイーロン・マスクCEO
一方で、テスラのビジネスモデル自体は未来先取り型で大変先進的と言える。

クルマのハードはコネクティッド機能と自動運転機能を満載したEV。販売後に追加改良された様々な機能、不具合の改善などは携帯やパソコンソフトの更新のようにメーカーからユーザーが直接ダウンロードすれば良い。メンテの案内、不具合の報告もメーカーから直接クルマと通信すれば良い。

車そのものの革新性とイーロン・マスクCEO自身がブランドビルダーとして十分にパワフルであり、大量の広告に無駄金を使う必要もなければ、ディーラーに中間マージンを渡し豪華なショールームへの投資や販売店スタッフの「おもてなし教育」などをお願いする必要もない。

またこれまでは販売店が持っていた顧客データもメーカー側ですべて持てるため、コネクティッド機能から入る走行履歴、車両履歴と顧客データをつなげダイレクトマーケティングや顧客フォローだけなく新しいビジネスもメーカー自身が実行可能である。

テスラはこういった、ビジネスモデルを目指しているのだろう。

しかしながらこうしたビジネスモデルは理念としては理解できるのだが、現実世界では「モノ」と「お金」の問題が厳然と立ちはだかる。自動車の製造が膨大な設備投資をできるだけ早く償却しなければならない「量の産業」あると同時に、その量をこなすための膨大な資金を回転させる「お金を回す産業」である限り、自動車販売店のありがたみが変わる事はしばらくないと思われる。

想像もできないスピードでフィンテック技術が進歩し、車のエンドユーザーと自動車メーカー直接決済で直結。その延長上で自動車メーカーから部品メーカーとも直結するようなイメージでお金(信用情報?)が動く。そんな時代が来れば話は別かもしれない。
テスラ モデル3
<藤井真治 プロフィール>
(株)APスターコンサルティング代表。アジア戦略コンサルタント&アセアンビジネス・プロデューサー。自動車メーカーの広報部門、海外部門、ITSなど新規事業部門経験30年。内インドネシアや香港の現地法人トップとして海外の企業マネージメント経験12年。その経験と人脈を生かしインドネシアをはじめとするアセアン&アジアへの進出企業や事業拡大企業をご支援中。自動車の製造、販売、アフター、中古車関係から IT業界まで幅広いお客様のご相談に応える。『現地現物現実』を重視しクライアント様と一緒に汗をかくことがポリシー。

《藤井真治のフォーカス・オン》

藤井真治

株式会社APスターコンサルティング CEO。35年間自動車メーカーでアジア地域の事業企画やマーケティング業務に従事。インドネシアや香港の現地法人トップの経験も活かし、2013年よりアジア進出企業や事業拡大を目指す日系企業の戦略コンサルティング活動を展開。守備範囲は自動車産業とモビリティの川上から川下まで全ての領域。著書に『アセアンにおける日系企業のダイナミズム』(共著)。現在インドネシアジャカルタ在住で、趣味はスキューバダイビングと山登り。仕事のスタイルは自動車メーカーのカルチャーである「現地現物現実」主義がベース。プライベートライフは 「シン・やんちゃジジイ」を標榜。

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