シートベルト着用を呼び掛けるタクシー・バス運転手は、わずらわしいか…自動車事故調の報告

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分離帯に衝突したタクシー
  • 分離帯に衝突したタクシー
  • 事故後、事故現場の第一通行帯はカラー舗装された
  • 乗客となっても、シートベルト着用してますか

「シートベルトを締めて下さい。それまで発車できません」という運転士と、何も言わずに目的地に向かう運転士。どちらが快適に過ごせるだろうか。6日公開された通称「自動車事故調」の報告書は、そんな選択の行方の一例を示している。

1つは東京都江戸川区で起きたタクシーの単独自損事故だ。2016年5月30日22時頃、同区内の環七通り(都道318号)、事故は立体交差の陸橋を登る直前で起きた。以下は事故調の再現だ。

この付近の環七通りは幅12メートル、片側3通行帯の幹線道路だ。タクシーは第二通行帯を走り、前方の道路作業車を追い越そうとしていた。大型トラックの走る第三通行帯からは追い越せない。そこで歩道側の第一通行帯から試みた。しかし、第一通行帯は環七通りの下で交差する蔵前通り(都道315号線)に分岐する側道で、前方には分離帯があるが、運転士は「もう少し先であると思っていた」と危険性の認識がないまま、60km/hのノーブレーキで衝突した。

運転士は軽症だった。亡くなったのは後部座席左側の乗客だった。衝突の衝撃で後部座席から前方に飛び出し、前後ドアの間にある左側Bピラー(支柱)に頭部を打ち付けた。

車室内には3か所に着用を呼び掛ける表示があった。乗客の目の前にもあった。しかし、運転士は着用を呼びかけなかった。

大分県別府市での貸切バス横転事故も、乗客のシートベルト着用の大切さを説く。2015年7月4日13時30分頃、大分道下り線の緩やかな右カーブで事故は起きた。乗客13人、4人が重症、9人が軽症の単独横転事故だった。

乗合バスを除き、バスは乗客にシートベルト着用を呼び掛けるだけでなく、運転士は着用状況を見回るなどして確認しなければならない。この運転士は呼び掛けただけで、確認を怠ったまま出発した。

事故の原因は、車線変更をしようとした運転士の前方不注意だ。濃霧で前方が見えにくいこともあったが、サイドミラーから前方に視線を戻した直後、前車のブレーキランプを確認。速度70~80km/hでパニックブレーキになりタイヤがロック。ハンドル操作の効かない状態で、車両が道路左端の非常電話案内標識に衝突、法面に乗り上げて右側面から横転した。

運転士はシートベルトを着用して無傷だった。事故直後に乗客を見舞ったところ「全員がシートベルトを着用していなかった」と、証言した。

乗客だからということもあるだろうが、シートベルト着用を念押しする運転士は、心地よい存在ではない。運転士も、事故をおこしやすいタクシーを強調するかのようで気が引ける。乗客の不快に思うことはやり過ごしたい。その結果を、報告書は伝えている。

両者の事故に共通する事故調の分析は
《シートベルトを着用していれば被害が軽減できた可能性は高い》
《シートベルトを着用していなかったことが被害の程度を大きくした》だった。

自動車事故調の正式名称は「事業用自動車事故調査委員会」(酒井一博委員長)。社会的影響の大きな事業用車両が関係した事故の調査を実施している。

《中島みなみ》

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