【インタビュー】「シェアエコ」消費から投資へ、消費者保護と競争環境整備 …経済産業省 岡北有平氏

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経済産業省 商務情報政策局 課長補佐の岡北有平氏
  • 経済産業省 商務情報政策局 課長補佐の岡北有平氏

自動車産業に変革をもたらすカーシェア、ライドシェア。すでに日本でも進みつつあるビジネス事例と並行して、国の取り組みも、規制緩和やルール整備が着々と進行している。シェアリングエコノミーの現状を見極めるため、キーパーソンにインタビューを実施した。第一回目の今回は、経済産業省 商務情報政策局 課長補佐の岡北有平氏。
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《聞き手:佐藤耕一》

国が考えるシェアリングエコノミーとは


---:まず、国としてシェアリングエコノミーをどのように捉えているのか、教えてください。

岡北有平氏(以下敬称略):シェアリングエコノミーを推進するというと、どうしてもライドシェアを推進するのかと思われる方も多いのですが、そうではない、ということをまず申し上げたいです。

我々が意識しているシェアリングエコノミーというのは、ライドシェアに限らず、モノやスペース、移動、スキルなど、何かしら余っていて活用されていないものをマッチングすることをシェアリングエコノミーと呼んでいます。それが部屋であれば民泊ですし、移動サービスであればライドシェアということになります。スキルであれば、似顔絵を書く、ロゴを作る、プログラミングをするといった仕事はクラウドソーシングですし、それがお金であればクラウドファンディング。モノであればフリマアプリ。そのようなもの全体をとらえてシェアリングエコノミーと呼んでいます。

そして、このシェアリングエコノミーというものを、なぜ国として推進していくのか。シェアリングエコノミーの活用が地方創生に繋がるということを伝えたいと思っています。昨今、赤字の公共サービスが終了したり、保育所が足りないといった社会課題がありますが、そういった課題に対して、ライドシェアや育児など、お互いで助け合う仕組みによって、地方が抱えている課題に対して、少しは助けになるんじゃないかということです。

またクラウドソーシングであれば、まさに1億総活躍というフレーズがありますが、いつでもどこでも自分のスキルに応じた仕事を請け負うことができますので、地方にいながらでも、子育てしながらでもできるということになります。そういった形で女性や高齢者が活躍できる社会の実現に向けて、シェアリングエコノミーの意義があるんじゃないかと考えます。

---:地方創生など、今までのビジネスや行政の手が届かなかったことへの活用が期待されているということですね。

岡北:そうですね。それともう一つ大きな役割として、例えばオリンピック・パラリンピックの時のように需給バランスが崩れる時のバランサーとしての役割もあります。2020年に交通機関もホテルもレストランも足りないとなった時の解決策として、タクシーを増やす、レストランを増やすという方法はある意味ナンセンスです。終わった後どうするんだという話です。このように一時的に需給のバランスが崩れるという場合には、例えば、民泊であればその時だけゆるい条件で解禁するという方法もあります。

---:なるほど、その時だけ緩くする一時的なルールを設定するんですね。

岡北:はい。そういうこともあります。例えば徳島県の阿波踊りですが、たくさんのお客さんが来るんですが、徳島市には宿泊施設が少ないので、ほとんどの人は周りに散っちゃって、徳島市に落ちるはずだったお金が落ちてこない、ということになってしまいます。そこで今年はパソナさんと組んで「イベント民泊」をやりました。イベントという限定された条件の中で民泊を認めるというものです。このようにシェアリングエコノミーは、地方の行政サービスが行き届かない部分の補完にもなりえますし、都心部でも、イベント時の需給バランサーとしての役割もあると思っています。

消費から投資へ、という観点


---:なるほど。いっぽうで自動車業界にとってのシェアリングエコノミーは、自動車販売の既存ビジネスを破壊するイメージが強いですが、この点はいかがでしょうか。

岡北:シェアリングエコノミーはGDPにネガティブな影響を与える、意見もあり、自動車に関してもライドシェアが広まることによって販売台数が減るのではないかという懸念もたしかにありますが、必ずしも悲観論だけではなくポジティブな考え方もあると考えます。一言で言うと消費から投資、ということだと思うのですが、例えば300万円の車しか買えなかった人が、平日は『エニカ』(註:個人間カーシェアリングサービス)を通じて他の人に車をシェアすると、月3万円なり5万円なりの収入が見込めるので、500万円の車にしようか、というように、シェアを前提とした一種の投資のような形でモノにお金を出していく。そうなると、ワンランク上のモノが売れる時代がやってくるのではないか、と考えうるのではないかと思います。

---:消費から投資へというのは非常に面白いキーワードですね。

岡北:それからもうひとつは、周辺産業が振興していくという観点です。ライドシェアが普及ることによって車の稼働率が向上するわけですから、メンテナンスのビジネスや、リース形態の新車販売、あるいはデータの再利用ビジネスなどです。そこにはポジティブな影響があると思うので、社会全体として見るべきではないかと思います。シェアで節約する部分もありますが、その節約分の消費者余剰が、新しい成長領域にお金が流れていくような仕組みができていれば、社会全体としてより効率的な形になっていくのではないかと考えています。

---:よく言うスマイルカーブみたいな現象でしょうか。

岡北:そうですね。ど真ん中のいわゆる製造業のところも、時流の変化に応じて変化が求められるとは思っています。結局選ぶのは消費者なので、消費者の志向に合う形でビジネスモデルを組み替えていくということは、どこの業界でも行われていることなので。

---:ヒントは消費される物から投資される物へのシフト、ということでしょうか。

岡北:はい、そういう流れになっていくんじゃないかと考えています。
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フェアな競争環境が重要


---:ライドシェアに限らず、既存産業との綱引きはあるわけですよね。

岡北:そうですね。例えば民泊についてもホテルや旅館業は大反対をしています。宿泊者の安全を確保できるのか、という論点です。もちろん、お互いの顧客を奪い合うという部分もあると思いますが、それを超えて市場全体が盛り上がるということも考え方としてはあると思っています。民泊を入口に、宿泊体験という選択肢を広げると考えれば、旅行業界に客が増える、というようなWin-Winの関係があり得るのではないか。そういった状況をどうやって作っていくか、ということもふまえて戦略を考えていきます。

---:既存ビジネスを守りすぎることによって、新たなサービスが生まれるのを阻害するようなことは止めようということですよね。

岡北:そうですね。念頭にあるのは、イコールフッティング(註:双方が対等の立場で競争が行えるように、基盤・条件を同一にすること)な環境整備です。例えば今、既存業界がすごく力を持っていて、シェアリングエコノミーはこんなに危険だ、というロビー活動をして、現実よりもネガティブなイメージが与えられる、というようなことが起こった場合には、守る必要がありますし、少なくともシェアリングエコノミーの認知度はすごく低いので、こういったものなんだよ、ということを分かってもらうためのお手伝いはしたいと思っています。

あるいは、既存業界にはすごく縛りがかかっているのに、シェアリングエコノミーの世界では規制が関わらない、というようなことがあれば、規制緩和を検討する、という話になると思います。

消費者保護あっての競争


---:イコールフッティングな環境という観点と、GDPが成長し経済全体が大きくなるようにコントロールするという観点がありますが、国のスタンスとしてそれはイコールなんでしょうか。

岡北: GDPというのは国力を測る指標ですが、それを優先することによって、利用者の安全や安心が疎かにされてしまうことはあってはなりません。一時的にGDPが上がったとしても、中長期的に見るとトラブルが多発し、結局新しいビジネスモデルが根付かない、ということにもなり兼ねませんし。

利用者が安全・安心に使えて、競争環境がフェアであるというルール整備を行うことは、イノベーションの促進や経済の新陳代謝という観点からも正しいと思います。ですので、どちらかだけを重視するということはありません。

---:市場には、もっとどんどん規制緩和した方が良いのではないか、世界のビジネス環境が変わっていくなかで、日本だけが保護されて取り残されていくのは良いことなのか、という声があります。

岡北:はい。しかし消費者保護は大きなテーマなので、そこを疎かにするということはありません。もちろん、今の規制が過剰規制になっていたり、テクノロジーで解決できるのに、古いレギュレーションが障壁になっている、といったことがあれば、海外の事例も参考にしたいと思っています。

国としての取り組み事例


---:国として取り組みの具体的な進捗はいかがでしょうか。

岡北:国の施策として、成長戦略のひとつとしてシェアリングエコノミーの推進が打ち出されています。昨年、半年ほどかけて「シェアリングエコノミー検討会議」を設置してルール等を議論してきました。この中では大きく2つのアウトプットがありました。

ひとつは、シェアリングエコノミーの安全性・信頼性の確保です。本人確認や保険制度への加入、トラブルの相談窓口の設置、個人情報保護、法令順守といったガイドラインを出しました。

もうひとつは、グレーゾーン解消に向けた取組です。これは、既存のビジネスと競合したり、あるいは既存の法律が想定していないような新しいサービスについて、あらかじめ規制の適用の有無を確認することができる制度です。例えば『Notteco』(註:中長距離ライドシェアサービス)のビジネスは、道路交通上法は白ですよということを国交省と調整をしました。経済産業省から国交省に確認して大丈夫だったという事例です。

シェアリングビジネスの事業化は難しい


---:Nottecoの場合、掛った費用のなかで精算するというルールなので、運賃を取って利益を挙げることはできません。事業者側としてはマネタイズは厳しいですね。

岡北:そうですね。その点は一担当者としてはすごく問題だと思っています。シェアリングビジネスの事業化はすごく難しいことだと感じています。Nottecoだけではなく、日本では、シェアリングエコノミーのトップランナー企業でもあまり儲かっていないという現状です。

Nottecoの場合で言えば、プラットフォーム手数料を取っていないと思いますが、シェアリングエコノミーのビジネスモデルは基本的に三種類くらいしかなくて。一つは、プラットフォーム利用の手数料を取るということ。もう一つは広告収入。あとは、集めたデータを加工して価値を生むということですね。例えばライドシェアであれば、移動情報のデータで人の動線が分かるので、そういった情報をコンビニに売れば、いつどんな人が買いに来るということが予想できるなどです。

---:そうですよね。どう事業化するかは、シェアリングエコノミーの課題ですね。

---:Nottecoが運賃を取ることができないのは、今の法規制がそうなっているから、ですよね。

岡北:はい。運行の対価としてお金をもらってはいけない、ということになっているので。もし取ると白タクになってしまいますね。

---:ここはビジネス上のボトルネックになっていますよね。

岡北:そうですね。そこは道路交通法を所管している国土交通省の領域です。
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《佐藤耕一》

日本自動車ジャーナリスト協会会員 佐藤耕一

自動車メディアの副編集長として活動したのち、IT企業にて自動車メーカー・サプライヤー向けのビジネス開発を経験し、のち独立。EV・電動車やCASE領域を中心に活動中。日本自動車ジャーナリスト協会会員

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