【藤井真治のフォーカス・オン】コネクティッドカーは儲かるのか?“クルマ屋”の限界と可能性

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日産のインテリジェント・モビリティ技術展示(東京モーターショー2017・コネクティッドゾーン)
  • 日産のインテリジェント・モビリティ技術展示(東京モーターショー2017・コネクティッドゾーン)
  • トヨタのコネクティッド事業展示(東京モーターショー2017・コネクティッドゾーン)
  • ホンダのどこかホッとするコネクティッド事業展示(東京モーターショー2017・コネクティッドゾーン)
  • 「TOYOTA NEXT」説明会に参加したデジタルガレージ 執行役員 SVPの佐々木智也氏(左)、トヨタ自動車 常務役員 村上秀一氏(中央)、Inamoto&Co.のレイ・イナモト氏(右)

これまで自動車メーカーは、経営リソースを投入し開発した車を、販売店を通じユーザーに販売することで売り上げを立て収益を上げてきた。開発・生産・販売のメンバーは部品やノウハウの集合体であるクルマを魅力的でかつ売れる原価と販売価格で提供すべく努力を重ねてきた。

今や自動車業界の大きなトレンドとなった EV化や自動運転、欠かせないコネクティッド技術。メーカーは最終的にその投資コストや部品コストが反映された「クルマ」いう塊を売って初めてビジネスが成り立つ。未来に繋がる新技術やそのテクノロジーがもたらす利便性をいくらPRしようとも、今ここにあるビジネスはお客様に車の価格や機能やブランド力に魅力を感じてもらうことである。

◆日産リーフとコネクティッド技術

2017年の東京モーターショー。EVの商品化で先行している日産は新型『リーフ』とその延長上にある自動運転車を前面に押し出した展示で観客の注目を集めていた。まさにメーカーのリソースを投入、技術や開発ノウハウをクルマという商品に凝縮し、300万円ゾーンのプライス・タグをつけて販売にこぎつけた商品をあらゆる機会でPRしていく。まさに自動車メーカーのビジネスモデルだ。

自動車メーカー各社の展示場所から少し離れた西館の4階には「TOKYO CONNECTED LAB 2017」という特設コーナーがあってトヨタ、ホンダ、日産が「コネクティッド・カーと自動運転」をテーマに展示スペースを設けた。日産は東館の大きな展示コーナーと同じく、ここでも新型リーフとその技術がもたらす利便性と近未来社会をアピールしていた。

コネクテッドカーというのは本来「インターネットにつながる通信端末を持ったクルマ」という意味なのだが、この技術自体はそんなに目新しくはない。ちょっと古い言葉だが「テレマティクス」というと世界的に通用する。

日産の新型リーフのような最新モデルだけではなく、大手メーカーの一部の市販車にはテレマティック通信端末が既に付いていて、常時インターネットとつながることによってユーザーにナビの地図の自動更新やコンシェルジュなどのサービスを提供している。その対価としてユーザーはオプション価格や通信料を負担することになる。

このテレマティック端末、これまでは高級ナビやハンドルのスイッチなどとセット装着になっているのだが、高いパッケージオプション価格の割に一般ユーザーにはメリットが少ないらしく受けが悪い。レクサスなど高級車への装着率は比較的高いが中級車、コンパクトカーには装着率が上がらないのがメーカーの悩みの種だった様だ。普及が進んで量が増えなければ原価は下がらずあまり儲からない。ただしお金に余裕のあるユーザーだけが高い対価を払って付けるという意味では、ビジネスとしてバランスしているといえよう。

◆トヨタが全車両を「つながるクルマにする」ことによる収益モデルは?
トヨタのコネクティッド事業展示(東京モーターショー2017・コネクティッドゾーン)
トヨタはこのメーカー専用通信端末をDCM(Data Communication Module)と言っており、2020年には新車の全車両に装着すると発表している。国内シェア30%のトヨタのこの決断、ドライバーの利便性向上のためのサービスを全てのユーザーに拡大していくだけでなく、自動車メーカーの新たな収益モデル探ろうとするトヨタの事業欲を垣間見ることができる。

実は、これまでもテレマティック通信端末はユーザーサービスに使われる一方、車両の走行記録などの情報をメーカーのセンターに発信を続けてきた。集められたデータは処理されて蓄積され、クルマの開発や品質管理など社内データとして使われてきた。それだけでなく、大量に走行記録を取り出して災害時の通行可能な道路情報を開示するなど公共目的にも使用されてきた。発信データは大きな価値を持つにもかかわらず、コストの問題で一部の車種にしか装着されておらず活用の範囲は限定的であったといえよう。

モーターショーでのトヨタのコネクティッドコーナーの説明によると、2020年DCMの全車種装着によって車載ソフトやナビの更新、エージェントサービスといったこれまで高級車だけのユーザーメリットを拡大する第一段階。集められる貴重なデータを「モビリティ・サービス・プラットフォーム」として外部に活用してもらう段階が本当のビジネスのスタートのようだ。

想定している外部とは今流行りのライドシェア、カーシェア事業者だけでなくレンタカー、保険、タクシーなどの事業者と幅広い。クルマのリアルタイムの位置情報、走行記録、エンジンの始動情報、ブレーキやアクセルの操作状況などはプラットフォーム化され、それをベースに色々と新しいビジネスやサービスが生まれていく。

例えば、位置情報やエンジン始動情報、走行記録などをベースにアプリを作り直せばスマホだけのライドシェアのアプリをより安全で信頼のおけるものにできる。急ブレーキや急アクセルの頻度と保険料を連動させることもできる。ドライバーのワイパー稼働情報を集めると現在の全国の天気がリアルタイムでわかる、といったことも可能になる。もちろん、このデータプラットフォームは渋滞情報など社会インフラのようにも使えるため官公庁も「お客様候補」に入っている。

◆“クルマ屋”にとって未知のビジネス領域へ
「TOYOTA NEXT」説明会に参加したデジタルガレージ 執行役員 SVPの佐々木智也氏(左)、トヨタ自動車 常務役員 村上秀一氏(中央)、Inamoto&Co.のレイ・イナモト氏(右)
このデータプラットフォームを使った様々なビジネスの可能性を、クルマ屋が全て把握するのは不可能と判断したトヨタ。「トヨタ・ネクスト」と称した新規ビジネスの一般公募に踏み切り、今年9月には5つのベンチャー企業とのパートナーシップを決めている。いわゆる流行りのオープン・イノベーションという手法ともうまく連動させているわけだ。

さらにトヨタはスマホとカーナビ用車載スクリーンを同期化させ、車内でのエンターテインメントをより充実させるオープンソースであるSDL(Smart Device Link)をフォードと一緒に準備している。このDSLのもとスバルやスズキ、デンソーやパナソニックといったメーカーだけではなくラインやアマゾン、ナビタイムなども巻き込んでコンソーシアムを作ってしまった。トヨタの「仲間づくり」のパワーはあっぱれと言わざるを得ない。日産の新技術PRというオーソドックスなアプローチとは全く異なるトヨタのコネクティッド事業の勢いには全く驚くばかりである。

こうした事業はトヨタとして従来の車両販売ビジネスではない未知の領域であろう。将来はプラットフォームの使用に課金するビジネスとして成立するのか、周辺機器の販売モデルになるのか、あるいは車両の販売の支援というコストベースに留まるのか?コネクティッド事業として儲かり、将来の国内での販売台数減の備えとしての新たな収益源にまで発展していくのか?今後の動きには目が離せない。

<藤井真治 プロフィール>
(株)APスターコンサルティング代表。アジア戦略コンサルタント&アセアンビジネス・プロデューサー。自動車メーカーの広報部門、海外部門、ITSなど新規事業部門経験30年。内インドネシアや香港の現地法人トップとして海外の企業マネージメント経験12年。その経験と人脈を生かしインドネシアをはじめとするアセアン&アジアへの進出企業や事業拡大企業をご支援中。自動車の製造、販売、アフター、中古車関係から IT業界まで幅広いお客様のご相談に応える。『現地現物現実』を重視しクライアント様と一緒に汗をかくことがポリシー。

《藤井真治》

藤井真治

株式会社APスターコンサルティング CEO。35年間自動車メーカーでアジア地域の事業企画やマーケティング業務に従事。インドネシアや香港の現地法人トップの経験も活かし、2013年よりアジア進出企業や事業拡大を目指す日系企業の戦略コンサルティング活動を展開。守備範囲は自動車産業とモビリティの川上から川下まで全ての領域。著書に『アセアンにおける日系企業のダイナミズム』(共著)。現在インドネシアジャカルタ在住で、趣味はスキューバダイビングと山登り。仕事のスタイルは自動車メーカーのカルチャーである「現地現物現実」主義がベース。プライベートライフは 「シン・やんちゃジジイ」を標榜。

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