【川崎大輔の流通大陸】転換期へ向かうバイク天国ベトナム

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道路を走っている8割以上がバイクのベトナム。アセアンで最大のバイク普及国だ。ホンダベトナム(HVN)も2017年度(17年4月から18年3月)はバイク10モデルを新たに投入する計画だけでなく、新たな大型バイク市場にも参入を予定している。

◆ベトナムを駆け巡るバイク

ベトナムに初めてきた日本人がまず驚くのがバイクの洪水だ。朝や夕方の通勤ラッシュ、車と車の間の空間を無数のバイクが埋め尽くす。バイクのクラクションで街が目覚める、まさにアセアンの風景だ。

ベトナムの都市にはまだ地下鉄がない。そのため公共交通機関はバスかタクシーになる。しかし道路インフラの整備が遅れているベトナムでは、渋滞のため遅い。職場や学校にいくためには車と車の間を進めるバイクが欠かせない乗り物となるわけだ。バイクに乗ることで生活の幅はぐっと広がる。

タクシーは大多数がトヨタで『ビオス』(セダン)と『イノーバ』(ミニバン)が目立つ。トヨタのシェアがトップで『フォーチュナー』や『カムリ』なども道路で目にするが、フォードや韓国勢の車も多く走っている。高級車はメルセデスやアウディ、BMWなどのドイツブランドだ。その中を、ホンダやヤマハ、スズキなどのバイクが泳ぐように車の間を走り抜けていく。この日系3社でベトナムのバイク市場の80%を占めている。特にホンダの知名度は高く、バイクの代名詞となっている。スズキに乗るベトナム人は自ら所有するバイクを「スズキのホンダ」と呼ぶほどだ。

◆アセアン最大のバイク普及国ベトナム

ベトナムのバイク保有台数は3700万台を超えている。現在2.5人に1台の保有台数となっており市場が飽和状態に達している。アセアンでもっともバイクの販売が多いインドネシアでも3.0人に1台となっており、ベトナムのバイク普及率の方が高い。

ベトナムの都市部も含め自動車が通行できない細い路地が多く、自動車用駐車スペースも少ないベトナムの道路事情からバイクが極めて重要な庶民の移動手段、荷物運搬手段となって普及してきた。この飽和された状況を考えると景気回復による大きな買い替え需要が見込まれなければバイクの販売台数は300万台前後で推移していく可能性も大きい。2016年の自動車販売台数は前年比24%増と大きく増加したが、バイクの伸び率は1桁(けた)台に止まっている。

首都ハノイや最大都市ホーチミンでのトレンドは、庶民の足としてバイク需要が引き続き高いことに加えて、スポーツタイプなどの人気が高まってきている。また2015年にはギアのないATバイクの販売が増加して53%のシェアを占めた。初めてギアのあるバイクを上回った形となり、ATバイクの増加傾向は今後も続きそうだ。

◆透明性が求められる中古バイク流通

これだけのバイク普及が進むと、中古バイク流通はどうなっているのか? ベトナムでのバイクの乗り換えは4年から6年がもっとも多く、また2年から6年で70%が乗り換えをしている。ローンが少なく現金で購入することが多いため、短期間で乗り換えが生じているようだ。

中古バイク購入時のローン利用はインドネシアの80%に比べて、20%ほどとまだ低く、返済期間は2.5年と短い。ベトナムの人々は銀行や自国の通貨を信頼していないといわれており、購入は現金一括が基本となっている。海外からの出稼ぎ労働者による現金送金に頼っている。また親せきなどから借金をする習慣があるため、現金一括ができなくても返済期間が短くなっている。乗り換え期間、ローン利用率をみてみてもベトナムの中古バイク流通は、他国に比べて回転率の高い市場といえる。

バイク流通の実態は、ベトナムでは友人や親せきなどから中古バイクを購入する個人間売買の割合が40%以上とかなり高い。一方でそれ以外では、中古バイクディーラーとブローカー(紹介)がマーケットの主導権を握っている。

現地の同業者は「ディーラーやブローカーでの販売はウェブサイト経由が多く、B to Cの形をとっているが、実態はほぼC to Cである可能性が高い」という。そうであれば、公平な競争が阻害される恐れがある。C to Cでの利点は10%ほどのVAT(付加価値税)を免れることができる。つまり、同じ中古バイクを販売する場合、まじめに販売をしている中古バイク販売店は価格競争力で勝ち目がない。税金の10%分高い価格設定になってしまうためである。

仲介ビジネスが一方的に悪いというわけではない。しかし、購入者にとっても便益があるような透明な中古バイク市場をつくり上げていくことがこれからは重要だ。ベトナムのバイク保有台数が飽和状態となった。今後は付加価値のあるバイクのアフターサービスビジネスをつくり出していくことがバイク天国ベトナムに求められている。

飽和状態となった市場には変化が求められる。変化があるところには常にチャンスも存在している。日本の昔と異なるところはインターネットがあるということ。非常に動きが速いのがベトナムを含むアセアン市場の特徴だ。ネットなど今までになかった技術を活用した透明性あるバイクビジネスの仕組みが、一気に市場を変える日も近いかもしれない。

<川崎大輔 プロフィール>
大手中古車販売会社の海外事業部でインド、タイの自動車事業立ち上げを担当。2015年半ばより「日本とアジアの架け橋代行人」として、Asean Plus Consulting LLCにてアセアン諸国に進出をしたい日系自動車企業様の海外進出サポートを行う。アジア各国の市場に精通している。経済学修士、MBA、京都大学大学院経済研究科東アジア経済研究センター外部研究員。

《川崎 大輔》

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