交通事故は減少傾向にある。政府は「世界一安全な道路交通を実現する」という目標を掲げ、2016年度から2020年度までのこれから5年間の交通安全施策で交通事故死者数(24時間以内)を年間2500人以下にする目標を掲げている。
だがこの目標、実は達成が危ぶまれている。減少には、その原動力となる理由がある。昨年1年間の交通事故死者数は3904人。ピークは1970年の1万6765人だった。近年、減少傾向が顕著になっているのは、飲酒運転の厳罰化やシートベルト義務化、先進安全技術の普及などの安全施策がうまく機能してきたからだ。
この勢いで政府は、過去に交通事故死者を3000人以下に抑制するという目標を掲げて対策を打ったことがある。実行中の「第10次交通安全基本計画」のもととなる「第9次」11~15年度の5年間の計画だ。しかし、この3000人以下にという目標は未達に終わった。今回の計画は、その目標を達成できないまま、時期を先送りしてさらにハードルを上げたことになる。
安全技術を開発する車両技術関係者の間では、車両安全技術の環境が劇的に変わらない限り、目標達成はかなり難しいと考えられている。
減少傾向にあるとはいえ、死亡事故を抑制することの難しさを物語る記録もある。春秋の交通安全週間に沿う形で、4月10日と9月30日の年2回、政府は「交通事故死者をゼロを目指す日」を制定して、08年には新たな国民運動として展開、交通安全に対する国民の意識を高めようとしている。しかし一度として、目指す日に死者をゼロに抑えられたことはない。
警察庁が毎回発表するゼロを目指す日の事故死者数は、最少で3人(15年9月30日)、最も多い時で17人(08年9月30日)が亡くなっている。今月10日は全国で13人を記録した。ゼロの日を目指しているにも関わらず、それだけみると、けして死亡事故に歯止めがかかったとは言い切れない。
今年の春の交通安全期間中、全国の死者数は74人と、この10年間で最少となった。よい知らせだ。しかし、次々と減少傾向を示すデータが発表されても、掲げた目標を順調に達成しているわけではない。依然として毎日どこかで犠牲者が生まれる現状は変わっていない。