【スズキ ワゴンR 新型】3つのフロントフェイスと スティングレー の“裏コンセプト”

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フルモデルチェンジしたスズキ『ワゴンR』のフロントフェイスは、ユーザーニーズに合わせ3種類が用意されている。

■多様なユーザーニーズと新鮮さを求めて

「個性的なお客様が多くなってきていると同時に、他メーカーからも多くの軽モデルが出てきている。そこで、お客様の個性に合わせながらも、フルモデルチェンジした新鮮さも出したいことから、3つのフロントフェイスを採用した」とは、スズキ国内営業企画部商品課係長の大石哲也さんの弁。

それぞれのターゲットユーザーは、 「FAとFXはオールマイティと位置付け、年齢層は幅広く、個人だけではなく法人も含めて考えている。シンプルなデザインを好み、あまり前に出ていくイメージではない人を想定」。

FZは、「スタイリッシュでクールなイメージ。男性だけではなく女性や、ファッションにこだわりを持つ方、クールなデザインを好む方に乗ってもらいたい」と述べる。

そしてスティングレーは、「個性が一番強いデザインなので、人とは違ったものを好む方や、よりスパルタンなイメージが好きな方に乗ってもらいたい」とし、「これまでのスティングレーのポジションがFZだととらえてもらってもかまわない」という。

■スティングレーの横から縦基調になったわけ

それではなぜ、スティングレーはポジショニングを変えたのか。スティングレーの横基調のフロントフェイスは3代目の登場以来、5代目まで連綿と続いて来た。

スズキ四輪商品・原価企画本部四輪デザイン部四輪デザイン企画課専門職の金子唯雄さんは、「6代目でもこのスタイルを採用した場合、何年か先までそれで持ちこたえられるか疑問だった」という。今回あえて縦基調のスティングレーを出したのは、「リフレッシュ感を持たせた」からだ。

その一方、「これまでのスタイリッシュな女性も乗れたユニセックスな感じからかなり違うイメージになったことで失う部分もある」と想定し、FZがそれを補うポジションとなる。

■デザインコンセプトはバーサタイル

現在軽自動車を大きく分けると、スーパーハイト系、ハイトワゴン、セダンになり、ワゴンRはその中心のハイトワゴンにポジショニングされる。金子さんは、「運転しやすく、セダンより少し背が高い。スペースもスーパーハイトまではいかないが十分使えるので、マルチパーパスなバーサタイル、万能な商品だ」と位置付ける。

しかし、「先代と先々代ワゴンRは面の作りやふくらみも含めて、少し乗用車方向に振られていた。そこで今回は、デザインの面からもバーサタイルな印象を受けられるようにした」と話す。

もうひとつ、金子さんは、「ワゴンRという名前の通り、本当はワゴンでなければダメだ。三代目ぐらいまではワゴンを感じるが、それ以降、スーパーハイト系が出てきたこともあり、よりパーソナルな、セダン的なイメージ。例えば、Cピラーにウィンドウがなく、キャビンを絞り気味にするなど、スタイリング優先で『アルト』を少し背高にしたイメージだった」。それで失ったものもあった。それが「ワゴンらしさ」だ。

金子さんは、「スーパーハイト系に寄せる考えもあるが、結局スーパーハイト系には勝てない。そこで、再び軽市場の中心部分で“気持ちの良い”ものを作らなければワゴンRの存在意義はなくなってしまう。そこを目指しデザインした」と語る。

■初代ワゴンRと新型ワゴンRの違い

バーサタイルというと単純に初代ワゴンRに戻るとイメージしてしまうが、金子さんは否定する。「初代ワゴンRではなく、“ワゴン”に帰るということ」。

「初代の頃は、軽自動車でレクリエーショナルやレジャーを感じるものはなく、ワゴンRがその先駆けだった。しかし、現在は取り巻く環境が違って、レジャーの楽しい雰囲気を担う『ハスラー』がある。それでも、楽しい雰囲気というのはどんなシーンでも必要で、しっかりと取り入れたい。そこで、乗用車として定着してきたワゴンRの経緯を踏まえたうえで、ものとしてすごくきれいな佇まいのものを作りたかった」とデザインに対しての想いを述べる。

きれいな佇まいとは何か。「乗用車っぽい断面を与えすぎてしまうと、今風のカフェの前に行くと少し野暮ったく目に映ってしまう。あるいは、ピクニックなどに行って公園などに止めた時に、少し違和感を覚えてしまう。そういうところにも似合うような、しかし道を走っていてもきれいに見えることを突き詰めてデザインした」と金子さん。

「デザインを押し付けるのではなく、原点に立ち返って、機能がしっかりスッキリと表現されているようにデザインした」

■3つの顔のデザインと、スティングレーの裏コンセプト

フロントフェイスそれぞれのデザインコンセプトについて金子さんは、「FAとFXはバーサタイルで、あまり癖のある表情は止めよう。ただし、癖をなくしすぎても愛着がわかなかったり、素っ気ない冷たいものになったりしてしまうので、その微妙なさじ加減を加えながらデザインした」。

微妙なさじ加減とは、「例えば、ヘッドランプの角のRは、硬すぎると表情が強く、丸すぎると冷たくなったりしてしまう。そこを、皆から親しみがわいて来るあたりを狙ったさじ加減でデザインしている」と説明。

そしてFZは、乗用車的なつくりをしていた最近のワゴンRから、新型では大幅に変更したことで、これまでの乗用車的なクルマが欲しいと考えるユーザーが離れないよう、「少し先進的なイメージを持たせつつ、クールな表情にした」と述べる。

スティングレーは、「よりクルマ臭い印象を与えたい。ヘッドランプがあるかないか分からないぐらいのデザインが最近のトレンドだが、スティングレーではグリルとヘッドランプがハッキリと分かれるようにした」と金子さん。ただし、「他社の派生カスタム系でやるような、単にデザインしたものではなく、クルマらしい作り込みと、力強さを表現するという目標をしっかり立てた」とコメント。

更に、そのモチーフとして、「2代目にあったワゴンR RR(ダブルアール)や、初代スティングレーが持っていた、ちょっと“トラッキー”で“レーシー”な男らしい感じを現代風にアレンジした」と明かす。特に「ターンシグナルを光らせると、途端にRRのイメージが湧き出してくる」という。

このように三車三様のフロントフェイスが可能となった理由は、「ボディサイドにキャラクターラインが入るなど乗用車らしい作り方をすると、少なくともこういう見せ方は出来ない。特にキャラクターラインが入ると顔の位置が決まってしまう」とし、そうしなかったことで、どのフロントフェイスも可能になったのだ。

■特徴的なBピラー

さて、ワゴンRのサイドビューには特徴的なBピラーが見て取れる。この意図について金子さんは、「“ワゴン”であることを遡及するべくデザインしたひとつだ」と述べる。

新型ではAピラーとリアピラーに窓が追加され、出来るだけウィンドウグラフィックスを長く見せるようにデザインされた。しかし長く見せながらBピラーが通常のデザインでは「すごく華奢なキャビンの見え方になってしまう。もともとワゴンRはがっちりとした、ボールドなイメージを持っているが、それが消えてしまう」と話す。

また、当初のスケッチでは、Bピラー上部をルーフとつなげることで、タフなイメージを出していた。しかし上部がつながると、ウィンドウグラフィックスを長く見せてようとしていたところが分断されてしまう結果になった。そこで、「これみよがしにここはデザインしましたということではなく、控えめな形で少しだけ前につなげてデザインした」。

また、Bピラーの角度や幅などについては、「(運転席から見て)助手席のヘッドレストの傾きにほぼ重なるようにすることで、視界を遮らないようにしている。Bピラー自体はこれまで通りの位置だが、そこの部分にデザイン代をもらうことで、デザイン的な骨太感も失わないようにした」とコメント。

サイドウィンドウの下端のラインは、前後で角度を変えている。金子さんは、「ワゴンRは室内が広いとはいえ、パーソナルな使い方が多い。そこで、ドライバーが、気持ちの良い空間が必要であろうとベルトラインの前側をさげ視界を確保。ドアミラーのステーもドア側に設置し、ミラー単品も小さくすることで、より斜め前の視界を確保している」とデザインの特徴を語った。

《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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