【ボッシュADAS】チップから内製するのが強み…グーグルはお得意さま

自動車 テクノロジー ITS
ルッツ・ヒレボルド氏
  • ルッツ・ヒレボルド氏
  • ボッシュADAS試乗会2016
  • ロードマップの説明をする千葉氏
  • ボッシュのハイウェイパイロットの実験者
  • ミリ波レーダー
  • 各種カメラモジュール
  • 電動ブースターとESP
  • 電動ブースター:応答速度、圧力ともに緊急ブレーキに欠かせない

自動運転に関して日米欧の完成車メーカーの動向に目がいきがちだが、ADAS技術の延長にある現在の自動運転支援技術の鍵を握るのはむしろサプライヤーだ。その中でもTier1と呼ばれる電装品、ECU、コネクティングからパワートレイン、サスペンション、ステアリング機構まで主要コンポーネントほぼすべてのポートフォリオを持つサプライヤーの協力なしには、どんな優れた自動運転カーも実験車両の域をでることができない。

そのひとつ、ボッシュが北海道女満別の同社テストコースで最新の自動運転車および開発中のADAS車両の試乗・走行会を行った。その内容とともに役員を含む自動運転・ADAS技術の担当者を取材した。

自動運転・ADAS技術において、キーコンポーネントといわれているのがカメラとミリ波レーダーだ。ボッシュでは2013年から2年連続で売上が倍増しており、2016年末にはレーダーの出荷台数が1000万台を突破する見込みだという(専務執行役員 シャシーシステムコントロール事業部長 ルッツ・ヒレボルド氏)。自動運転用途に関しては、対象の形状まで認識できるライダー(LIDAR:レーザー光による3次元スキャナ)を有力視する見方もあるが、ボッシュでは、カメラとミリ波レーダーを周辺認識のセンサーとし、ライダーはバックアップまたは冗長システムとして利用する戦略だ。

ライダーでも360度全周をスキャンするには回転式のスキャナー(初期のグーグルカーなどが搭載)か複数台のセンサーが必要になる。ならば複数のカメラとレーダーを使っても同じだ。複数台でもカメラ・レーダーの組み合わせにコストメリットもあるだろう。また、EuroNCAP2018で規定される駐車車両に隠れた歩行者の検知・保護には、遮蔽物の後ろにも一部回折するレーダー(電波)の方が有利という考え方もある。

Tire1サプライヤーが提供する自動運転技術は、幅広いプロダクトポートフォリオを生かした統合的なシステムでの開発・OEM供給が可能な点だ。ボッシュジャパンでは、この点を強化するため、システムエンジニアリング部を新設し、シャシーシステムに関するコンポーネント(ステアリング、ブレーキ、パワートレイン、ドライブトレイン、サスペンションなど)の開発の相互連携や統合開発をしやすくしたとヒレボルド氏はいう。

自動運転へのアプローチで自動駐車にも注力しているのもボッシュの特徴だ。駐車シーケンスについても、自動運転と同様に自動駐車支援、ホームパーキングアシストからバレーパーキングまで、自動化を目指している。ちなみに、バレーパーキングを自動化するということは、車だけで駐車場を探し空いているスポットまたは決められたスポットに駐車。オーナーが呼び出したら自力でそこへ戻ってくる。そして駐車中はキーロックの管理も行う必要がある。自動駐車支援を実現しているサプライヤーは他にも存在するが、ボッシュは完全自動駐車までのロードマップを設定し、開発を進めている(シャシーシステムコントロール事業部 システム開発部門 自動運転システム開発部 ゼネラルマネージャー 千葉久氏)。

ヒレボルド氏は、これらの戦略を支える技術要素として、半導体製造も自社で行っているという。自動車部品のサプライヤーがECUを扱うのは普通だが、その中のプロセッサやチップを内製しているところはほとんどない。同社は、独自のウェハー工場を持ち、おもにASIC(特定用途に開発されるLSI)として自社製のコントローラーチップを開発・製造している。近年ではソフトウェアデザインがしやすいSoC(System on Chip)やSoCとFPGAを統合した開発ソリューションもあるが、信頼性、堅牢性、処理速度、大量生産でのコストメリットなどでASICに歩があるからだ。

なお、システムの信頼性はボッシュとしてこだわりがあるようで、冗長構成、フォールトトレラント(システムの二重化やバックアップによって耐故障性を上げること)、フェイルセーフ/フェイルオペレーショナブル(システムエラーやダウン時に、安全方向に、あるいは操作可能な方向に制御を縮退または停止すること)については、ヒレボルド氏や千葉氏の話の中で随所にでてきたワードだ。自動運転に関する多くのシステムがバックアップや二重化がされている。

自動運転では、既存の自動車メーカーだけでなくグーグルのようなIT企業、テスラのような新しいプレーヤーの存在も忘れてはならない。ヒレボルド氏に「グーグルのような企業はボッシュにとってどのような位置付けなのか。彼らが部品を買いたいといってきたらどうするのか」という質問を投げてみた。

「我々にとっては取引先のひとつだ。実際、グーグルとは取引があり、実験車両にはボッシュのコンポーネントがいくつか使われている。」

完成車は、自動運転かどうかに関係なく、部品を買って組み立てればよいというものでもない。全体として統合された設計、性能が求められ、既存メーカーの強みはまさにここにある。グーグルが無人カーを開発しても、自動車の代わりにはならないだろうが、ボッシュのようなTire1サプライヤーは、自動運転車や無人カーのベンチャーやサービスプロバイダーも新しい取引先として取り込めることも強みのひとつといえるだろう。

《中尾真二》

【注目の記事】[PR]

編集部おすすめのニュース

特集