【池原照雄の単眼複眼】苦戦の軽自動車、巻き返しの秘策は?

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2015年度、軽自動車の販売台数は増税の影響が出て前年度を17%も下回り、横ばいだった登録車とは好対照になった。
  • 2015年度、軽自動車の販売台数は増税の影響が出て前年度を17%も下回り、横ばいだった登録車とは好対照になった。
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響いた一気に「1.5倍」の増税

国内の新車市場で勢力を伸ばしてきた軽自動車が、この1年余り足踏みしている。2015年度の販売台数は増税の影響が出て前年度を17%も下回り、横ばいだった登録車とは好対照になった。15年度の新車総需要も軽自動車の不振を映し、4ぶりに500万台ラインを割り込んだ。軽自動車はどう巻き返すのか、新年度入りした4月以降の動向に注目が集まる。

15年度の新車販売は前年度比7%減の494万台で、うち登録車は横ばいの約312万台だが、前年度をわずかに上回って2年ぶりにプラスに転じた。一方の軽自動車は、15年4月に「軽自動車税」が増税されたことに伴う前年度までの駆け込み需要の反動が続き、17%減の約181万と大きく落ち込んで、2年続きのマイナスだった。

軽自動車税は毎年課税される地方税で、従来は年7200円だったが、15年度以降に購入する新車については年1万800円(16年度課税分から適用)と、1.5倍に増税された。それでも登録車に毎年課税される「自動車税」に比べると相当安いのだが、さすがに「1.5倍」は効いた。14年度までに購入した新車は、その後13年間は増税されることなく7200円の課税が続くため、同年度中に購入する動きが活発になった。

◆大手2社のシェア争いも影を落とし、長期間沈み込む

このような税制変更に伴う「需要の先食い」は、その1年前の13年度にもあった。14年4月に消費税が8%に増税されるのに伴う駆け込み需要だ。登録車の需要先食いはこの13年度だけだったが、軽自動車については13年度、14年度と2度にわたった。この結果、13、14年度の軽自動車販売は200万台の大台を超え、それぞれ過去1、2番の規模となった。

14年度については、スズキとダイハツ工業による激しいトップ争いという波乱要素も加わった。14年暦年のシェアをめぐる攻防であり、かつての常勝メーカーだったスズキがダイハツを抑え、06年以来8年ぶりに首位を奪還した。余波で実需以上に販売が膨らんだこの14年12月を最後に、月次の軽自動車販売は前年実績を上回ることはなく翌月から16年3月まで15か月連続で沈んだままとなっている。

181万台まで後退した15年度の軽自動車は、新車市場全体に占める比率も36.7%に低下。過去最高で初めて4割に乗せた14年度(41.0%)から大きく落ち込んだ。1モデル当たりの販売も振るわない。登録車を含む15年度の車名別販売ベスト10のうち軽自動車は6車種と、前年度の7車種から減少した。

山高ければ谷深しというのが、13~15年度の軽自動車市場だったが、16年度は浮上に向かうのだろうか。日本自動車工業会が3月に発表した16年度の新車需要予測によると、登録車を含む総需要は15年度比7%増の約526万台とした。軽自動車は「15年度に続いて増税の影響がなお残る」(自工会の池史彦会長)というものの、15年度の落ち込みが大きかったことなどから、8%増の約196万台と登録車の伸び(6%)を上回る予測となっている。

◆安全装備の充実に存在感を求める

当面は新年度入り後の動向が注目されるが、15年の4月は前年同月比で23%、5月は20%もの落ち込みだったので、前年実績を上回るのが確実だろう。しかし、回復がどこまで持続するかという点では、業界内にも不安視する向きが少なくない。そうした不安を払しょくするには、やはり商品力の更なる強化だろう。

軽自動車は、従来の居住空間重視のワゴンタイプから、SUVテイストのモデルや新型スポーツカーの投入などにより「これまでで最高の充実期にある」(ダイハツ首脳)ものの、なお充実策の余地は残されている。とりわけ、高齢者ユーザーによる逆走や駐車場内でのペダルの踏み間違いによる衝突事故などに対処する安全技術装備の拡充が急がれる。

軽自動車も安全装備の向上は、各社の意欲的な取り組みで進んでいる。たとえば自動ブレーキの作動は、軽では自車スピード30km/h以下が主流となっているものの、15年にはスズキが約5~50km/hの範囲だと衝突回避も可能なタイプを実用化した。ペダルの踏み間違い防止では、停車時や低速走行時の前後方障害物に対応した技術をダイハツが商品化。日産自動車は夜間走行時のヘッドランプの照射範囲を自動切り替えする装備を、先行導入している。

経済性や使い勝手から高齢化社会でのパーソナルな移動手段としての軽自動車の役割は、更に高まる。こうしたニーズを踏まえ、むしろ登録車を凌駕する意気込みで安全技術を充実させれば、新車市場での存在感が色褪せることはないだろう。

《池原照雄》

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